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農兵

 海防掛となり品川台場の建造はじめ反射炉、湯島大小砲鋳立場、反射炉と、今まで英龍とその理解者達の頭の中だけで煮詰めていた案がどんどん形になっていく。


 長い長い間『忍』び続けた日々がようやく報われつつある中、幕府が頑として認めない案があった。


 『農兵』である。


 海外の圧倒的な軍事力に対抗するためには『数』が必要である。台場の砲はあくまで海とそのごく周辺しか守れない。敵兵に上陸されてしまったら、次は陸上での戦いになる。


 今武力を行使することを認められているのは旗本や御家人など幕府に属す武士と、諸藩に属す武士階級のみ。絶対数も足りないうえに、各藩それぞれ装備品も調練度もまったくばらばらである。


 

 大塩の乱が失敗に終わったのは、乱に加わった民衆が素人だったのも大きい。人の命を殺める覚悟も自分の命を賭す覚悟も持つ前に彼らは戦に駆り出されたのだ。

 それは一揆と大差ない。一揆は発起人はもちろん命がけだが、乗じた民衆の少なくない人数が、正義という熱にあてられて勢いだけで参加していた。



 兵がその力を遺憾なく発揮するためには十分な訓練で自信を培い、己の手で国を守るという誇りを抱けるようにしなければならない。


 英龍は天保10年の頃より農兵の必要性を説き続けている。戦には『将』と『兵』が必要不可欠であると。


 英龍が幕臣や諸藩士に教えているのは『将』を育てる内容である。どんなに有能な『将』を育てようと、その指揮に従い実際に戦う『兵』がいなくては戦の土俵にも立てない。

 

 『兵』もまた戦国時代のような火縄銃ではなく最先端の銃を持たせ、最も効率の良い戦略を遂行(すいこう)できるよう訓練せねば、諸外国のよく鍛錬された敵兵と戦えない。



 英龍は自分の下で私兵にあたる金谷鉄砲組を調練していたり、天保13年の徳丸原で高島秋帆の軍事訓練の披露などできうることをしてきたが、制度として整えてもらわねばこれ以上広めることができない。


 しかし幕府の懸念も分かる。


 大塩の乱はここにも大きな負の影響を及ぼしていた。あのような反乱がこれ以上国内で起きてはならないのだ。だから幕府は決して民衆に武力を与えてはならないと固く信じている。

 

 しかし外国の脅威にさらされているのは民衆も同じ。彼らに丸腰でいることを強いるのは傲慢である。  

 丸腰を強制するなら彼らの絶対の安全を保障しなければならないのに、幕府には外国と戦う力などないことは民衆の目にも明らかである。

 

 もう幕府には民衆からの信頼などないのだ。

 

 幕府が理解を示さない間にも、英龍は領民に農兵の必要性を説いていた。

 豪農層は自分達を守る部隊となってくれる農兵の必要性を深く理解し、英龍に協力することを約束し、その教えが浸透するよう農民に伝えた。


 新選組の副隊長・土方歳三の義兄である日野の名主・佐藤彦五郎もその一人で、その英龍の教えが新選組につながってゆくことになる。

柏木総蔵が長崎で聞いてきたオランダ海兵の歌

農兵節

みしまサンバ

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