金さんの面目躍如(めんもくやくじょ)
「…井上伝兵衛殺害もそなただな。直心影流の弟子達が、そなたが町田を問い詰めていたことを井上先生に伝えたあと、町田が消えたと証言した。井上先生に町田殺害を気づかれたそなたは先生を闇討ちした。
そなたを匿った鳥居の家の者が、そなたが鳥居に「ヤバいことになった」と言っていたことを覚えていた。」
「知らねえな。」
「鳥居は婿養子だったからな。旧来の家臣達はそなたのような身持ちの悪い男を家に入れて御家の評判を下げた婿を快く思っていなかった。
そなたらが渡辺崋山や高島秋帆などの『外』を見張っている間、心ある家臣達がそなたらを『内』から見張っていたのだ。直心影流の弟子達もそうだ。」
「それがなんだ、証拠でもなんでもねえな。」
「井上先生の殺害現場には焼け残った提灯があった。犯人は提灯から火事が起こるのを危惧し慌てて火を消したんだろうな。火が勢いを増す前に消火することはできたが袖に火の粉が降って破り捨てた。袖の端がわずかに現場に残っていた。
袖が焼けたなら犯人は腕に火傷を負っているかもしれない。
弟子の一人が先生の葬儀の場でそなたの袖の奥に火傷らしき水ぶくれを見つけた。」
「なんだそれは。証言だけじゃねえか、お身内の御贔屓だろ。その証言した奴はちゃんと公正な判断ができる信用置ける奴なんだろうな?」
「俺だよ」
「は?」
「忘れたか?俺も直心影流、井上先生の弟子の一人だ。
葬儀の日の朝、『桶屋(葬儀業者)』の手代に変装してそなたを見張っていた。人がいないところでは態度の悪いそなたは悪態をつきながら火傷の傷に軟膏を塗っていた。この目でしかと見たからな。言い逃れはさせぬ。」
遊び人・金さんの面目躍如である。
「井上先生の話は、まずはここまで。次にそなたは天保11年、鳥居の命令で高島秋帆を探るために長崎まで出掛けたな。先生の弟・熊倉伝之丞はそなたを追って、小倉から『本庄と同じ船に乗る』と手紙を出したのち姿を消した。
そなたが長崎から連れてきた女達も証言したぞ。そなたが伝之丞に『白い粉』を混ぜた酒を飲ませ海に落とした、と。ついに妾達にも見棄てられたな。オランダ人相手のイカサマ賭博の常習犯であったそなたなら、古巣の長崎でアヘンを手に入れるのも簡単だったろうな。」
「それも証言だけだろ、証拠はあるのかよ?」
「少なくとも先ほどこの神聖な取り調べの場で虚偽の発言をしたそなたの言葉よりは信じられる。」
(ちっ。)
「そなたが鳥居に無罪にしてもらった『呪詛事件』も仕切り直しだ。修験者の了善をここに呼んである。」
震える肩を役人に支えられ、襖をほんの少し開けた先から縄打たれた本庄の姿を確認した了善は、緊張して青白い顔をしながらも眼はしかと見開いて本庄を睨んでいる。
「私を陥れた『長崎辰輔(本庄の偽名)』に間違いありません。」
「だとよ、反論あるか?」
「…。」
「『了善を騙した罪』は無罪にされたが『暴行した罪』は裁かれてなかったな。これもきっちり上乗せするからな。
あの時は首謀者の鳥居が裁く側など有り得ない裁判になってしまったが、俺は鳥居と敵対したからといって報復などしない。あくまで町奉行として公正な審判を下す。
政治絡みで幕府が隠蔽したいから大した罪にならないとでも思ったか?俺は責任を取らされて首になっても構わない。そなたや鳥居のような『悪』になど二度と屈しない。」
桜吹雪はさすがに出せませんでした。




