退魔騙り(終)。/"True Terror Ending".
――そもそも、"一本腕"とは何なのか。
四鍔野黒成がその名を聞いたのは、■■市に悪霊が集い始めた八年前のことだった。
その日、黒成は■■市に現れたという悪霊の群れを確認すべく、小さな部隊を率いていた。
目的はあくまでも確認。調査であり、偵察。
実際、それはこのような小部隊で祓えるような規模ではなかった。
『報告。■■市西町の【裏側】に、浮遊霊含め百体以上の悪霊を確認。正しく百鬼夜行というべき有り様です』
岐領からの、通信。
その頃の岐領には、まだ右腕があった。
思えば、この時の通信が本物の岐領とまともに交わした最後の会話だったのだと、黒成は思う。
「そうか……了解した。この部隊は引き払い、裏刀宗本部にて戦力を再編成する」
『畏まりました。……ですが、大丈夫なのですか、この【街】は。これほど大きな【裏側】など見たことがない。その上、私が以前に訪れた時より被害が拡大している』
「ああ……。この間など、本来関西を徘徊している怪異までもが確認された。この国のあらゆる超常がこの【街】に集い始めている」
『悪霊どもが、戦争でも始める気だと? かの逢魔沢のようにですか、縁起でもない』
「そうだな。だが、奴らの共食いで済むというなら――」
「四鍔野様!」
通信を行っていた黒成に声がかけられる。部隊に所属する門弟の一人だった。
「どうした?」
「緊急です、黒葉お嬢様が、迷子になったと保育園から」
「そんなことで――」
「現在遠足で隣町に来ており、■■市西町の付近で姿を見失ってしまったと!」
「何!?」
黒成が声を上げて立ち上がる。
■■市西町には大量の悪霊が徘徊している。
危機感の無い幼い子供は【裏側】に入りやすい。その上黒葉は強い霊感を持つ少女だ。自然、悪霊を惹きつけやすい。
『四鍔野様』
「岐領、すまない。頼むが、悪霊に見つかる前に、すぐに黒葉を――」
『黒葉お嬢様を見つけました。既に悪霊共に追われています』
「――――」
言葉を失う黒成。そして彼の耳に、電話先から聞こえる戦闘音が響いた。
「待て、岐領! まさかお前――!?」
『時間は、稼ぎます』
そして、ぶつりと通信が途絶える。
「っ……!」
携帯を握りしめ、門弟の一人へと叫ぶ。
「黒葉の位置は分かるか!?」
「申し訳有りません、そこまでは……。ですが、岐領殿の携帯であれば、確かGPSがついていたかと」
位置情報が送られてくる。
終わったら黒葉にも同じものを持たせねばならない、頭の片隅でそんなことを考えながら、黒成は駆け出す。
「ひとまず現場に向かう! どうにかして岐領と黒葉を救出しなければ――!」
しかし、十数分後。
黒成達が見たのは、右腕を失い、大量の出血で死に逝く岐領の姿だった。
「四、鍔野、様……」
「岐領……! 気をしっかり保て、すぐに処置をする!」
「お嬢様を……まだ悪霊に追われ、て……」
震える左腕で、岐領は指をさす。
「……! すまん、お前たち、岐領を頼む!」
黒成は岐領が示した方向へと走る。
「くそ、どこだ……!」
入り組んだ路地。見通しが悪く、探しづらい。敵は百以上の悪霊の群れであるというのに、いつの間にか音さえ無くなっている。
早くしなければ。このままでは黒葉が――
「ざまあみろ」
と。
いつの間にか、黒成のすぐそばに真っ黒なセーラー服を着た少女がいた。
(ッ!? どこから――)
いや、今はそれどころではない。
「おい、君!」
「え、お坊さんですか? ごめんなさい、こんな格好ですけど私学校行ってないんです」
「違う、説教ではない! この辺りで女の子を見なかったか!? 五歳の、私の娘なんだ!」
「ああ、あっちに泣いてる子いましたよ」
聞くやいなや、黒成は駆け出す。その拍子に少女に肩をぶつけてしまう。
「わ」
「すまない!」
少女がナイフか包丁のようなものを落とすのが見えたが――それにも構っていられない。
路地を抜ける。
開けた空き地のようになったそこに、黒葉はいた。
地面に倒れ、意識を失っている。
慌てて駆け寄ろうとして――黒成は気づいた。
「――なん、だと……?」
死骸の山。
否、死骸ではない。元よりそれは死んでいる。
あえて言うなら残骸――悪霊達の残骸で出来た山。
恐らくは、岐領の報告した百鬼夜行の悪霊達。
「退魔師――では、ない」
退魔師が祓ったならこうはならない。術で霊核を砕けば、悪霊の幽体は穢れとなって四散する。まるで、強引に物理攻撃だけで悪霊を滅ぼし尽くそうとしたかのような有り様。何かを試すように、多種多様な方法で、焼かれ、砕かれ、刻まれ、正しく残骸となった山。
まるで、悪霊ではない何らかの化け物が、百鬼夜行を蹂躙した跡のような――
「ん……」
黒葉が目を覚ます。黒成は娘の身体を抱きかかえた。
「く、黒葉、大丈夫か!?」
「……おとう、さん……?」
黒葉が薄っすらと目を開ける。朦朧としているのか、上手く焦点があっていない。
「痛い所は無いか。何があったか――」
「いっぽん、うで」
小さな口が、言葉を呟く。
「いっぽんうでのひとが、いました」
結局、黒葉に怪我は無かった。
その後、信じられないことに岐領は一命を取り留めた。
奇跡的な回復を遂げた彼は、まるで何かに取り憑かれたのように裏刀宗での仕事に励み、組織内の地位を上げていった。
今思えば、その時にはもうこの右腕の悪霊が岐領の体を乗っ取っていたのだろう。
だが。
この悪霊が"一本腕"で無いというなら――そもそも、"一本腕"とは何なのか。
※
「……ふぅ」
この何もかもが手遅れになった状況でノコノコと現れた女に、岐領は――岐領と名乗っていた右腕の悪霊は、呆れ返った様子でため息をついた。
「それで? 最強最悪の妖刀たる"霊獄"に、周囲を包囲する数十丁の空飛ぶ銃火器。それらを前にして、あなたごとき素人に何が出来ると?」
「素人じゃないし。今日からプロだし。仕事だし。後でお金も貰う予定ですし」
なんか依頼主が死にそうだけど、と不安そうな声でつぶやく片霧。
「というか本当に大丈夫ですか? そこにも三人倒れてますけど……。ダメですよ、油断したら」
「だ、大丈夫だ……! 私たちのことは気にするな……! それより、黒葉を――、」
「あ、はい。わかりました。とにかく、デパートの時は醜態を晒したけど、もう遅れは取らない。私が勝つ。いいね」
「愚かな」
バヂィ! と"霊獄"から青い禍雷が迸る。
デパートの時に不意に暴発したものとは比べ物にもならない威力。
あの時のものは軽く吹き飛ばすだけに終わったが、この一撃が直撃すれば吹き飛ぶ程度では済まない――感電死どころか、全身を炭化させてなお余りある。
致死の稲妻を前に、片霧は防御行動を取らなかった。いくら名乗る肩書きが変わろうが、片霧が真っ当な術の一つも扱えないことに変わりはない。霊力による光弾も、雷を防ぐ結界を張ることも叶わない。
黒葉が喉を裂くような悲鳴を上げ、禍々しい光が夜闇を貫き――
「そういうのは、効かない」
そして、青い雷光は片霧に触れる寸前で消失した。
「……何?」
防がれた? しかし、結界を張る素振りはなかった。どころか、術の一つさえ編まれた気配は無い。
「何が違うか分かる? そう、デパートの時の私は素手だった。けど、今の私はナイフを持っている」
だから何だ。ナイフ一本で何がどうなって雷を防げる。
右腕の霊は続けざまに数発の雷撃を放つが、それらも全て消失させられる。
――四鍔野黒成と同様に、どこかにいる退魔師が結界を張っているのか?
周囲を警戒するが、他に人の気配は無い。
構わない。どちらにしろ同じこと。霊力防御に集中すれば、その分物理的な防御力は失われる。
右腕の霊は"霊獄"から幾条もの禍雷を放ちながら、銃を構えた。
今度はデパートの時のようにはいかない。逃げ場などどこにも無い。
「なるけど、避けたら黒葉ちゃんたちに当たるってわけだ」
ナイフを左手に持ち替え、構えることもなく棒立ちする片霧。
その余裕ぶった面に、右腕の霊が銃口を向ける。
「少女の救い主にでもなれると思いましたか、雑魚が」
「雑魚はそっちじゃないの? デパートの時も案外大したことなかったよ」
引き金が引かれ、乾いた炸裂音が響いた。
音速を超えて飛翔する弾丸。弾道は正しく女の脳天を捉え――
「本当にさ、ビビってたのが馬鹿みたいだよね」
そして、片霧の右腕が一瞬消えた。
血が弾けることは無かった。肉が爆ぜる音も無かった。脳梁が飛び散る様も無かった。
「痛……。カッコつけたせいで手の皮ちょっと剥けたんだけど」
そして、片霧以外の誰にも、何が起きたのか分からなかった。
彼女の手は握りしめられ、いつの間にか顔の前に移動している。無傷の片霧がなんてこと無いように言葉を続けた。
「まあでも、こうして実際に見ると雑魚じゃん――拳銃なんて。案外大した速度じゃなかった。おかげで難しく作戦を考えすぎた」
「あ、え?」
黒葉が困惑の声を漏らす。デパートの時にも片霧が一人嘯いていた――嘯いていたように見えた、その言葉。
「お姉さん、今の、」
「お姉さん銃に詳しくないから、現実の銃弾がどれぐらいの速度なのかよく知らなかったんだ。ごめんね、無駄に怖がらせて」
握った手が開かれる。
――ポトリと、小さな鉛玉が地面に落ちた。
右腕の悪霊が、震えかけた声を漏らす。
「な、に……?」
「デパートの時、一発目と二発目は背中から撃たれたからどれだけ速いか分からなかった。最後の三発目は普通に見て避けたから当たらなかったけど。いや、驚いちゃった。アニメや映画って思ったより演出過剰なんだね」
右腕の悪霊は思わず一歩後ずさった。
なんだ? この女は何を言っている? 有り得ない、これは何の手品だ?
考える。何らかの手段で銃弾を弾き、もともと持っていた鉛玉を落としただけ――しかしそう思うには、その女の表情はあまりにも正気過ぎた。
ただの事実を言っているだけだと。自分の発言におかしなところなど何も無いと。非常識を常識のように。『実際にそうなっているのだからそうなのだ』と、異常を通常として押し付けてくる。
「でも素手で受け止めたらちょっと手の皮剥けちゃった。黒葉ちゃんのお父さんもしんどそうだし、そろそろ真面目にやらないとね」
ここまでのやり取りはただの余興――言外にそう主張する。
片霧がナイフを右手に持ち直す。スーツの右袖が捲りあげられ、蝋燭のような白い腕が晒された。
「やっぱり、何をしようが超常現象なんて所詮この程度だよ。
呪術は割りかし地味なもの。
悪霊は素人でも祓えちゃうし、
都市伝説は廃れてしまった。
化け物は人に怯えてるし、
怪異が強大な力を持っていたことなんて一度も無い」
右腕の悪霊は、片霧と出会った時に気づくべきだった。
あのおぞましき数年前。
この国に棲まうありとあらゆる魑魅魍魎が集い、百物語の室、あるいは蠱毒の壺と化したこの【街】で。
超常の戦火に包まれたこの【街】の【裏側】で。
ただ一人悪霊を狩り続けていた者がいるという、その意味を。
「う、お、あぁぁぁァッ!」
悪霊が叫ぶ。ほとんど悲鳴のような声と共に、握りしめた拳銃を連射する。
乾いた炸裂音。片霧の右腕が一瞬消えた。ギィンと、何かが弾かれたような金属音。
乾いた炸裂音。片霧の右腕がまた消えた。ギィンと、銃弾の弾かれる金属音。
乾いた炸裂音、金属音、炸裂音、金属音、炸裂音、金属音――誰にも見えない神速の一閃が、連続する。
「っ――撃、てぇえええッ!」
右腕の霊は自らの持つ銃を放り捨てる。
一斉に。空飛ぶ腕の全てが片霧に照準を合わせた。
数十丁の銃器が、火を吹いた。
斉射。間断なく放たれる弾丸の雨。躱す余地など無い。
そして、今度こそ。
――片霧の右腕が完全に消えた。
ギギギギギギギギィッッッン! と。弾かれた金属達が連なって響きを奏でる。金属音、金属音、金属音、金属音、金属音。どれだけ連射しても意味が無い。全てが尽く弾かれる。
「馬鹿な――どうなっている、有り得ない! 音速の銃弾を、こんな……! 人間では無いのか、貴様!」
「人間だよ。そんなに驚くこと? それにしても銃弾って音速程度なんだね。剣道やってる人は刃先が音速超えるって言うし、生身で超音速を出す脊椎動物だっているのに」
だからこの程度は容易いと、そう示している時点で異常だった。
女は一歩たりとて動かない。動く必要が無い。ただ右腕だけが消えている。消えてしまうほどの速度で振るわれている。
「ま、さか……! まさか、お前は!」
「会ったことあったっけ? 昔は私も霊核の斬り方分からなかったからさ、結構逃しちゃった霊もいるんだよね」
悪霊は想起する。彼の持つ記憶が、強制的に呼び起こされる。
この『右腕の悪霊』は、元からこのような姿だったわけではない。
あの屈辱的な八年前。
かつて彼が率いていた百を超える悪霊達は、ある日一体の化け物に殲滅された。
それは黒いセーラー服を纏った化け物だった。ナイフを持った少女みたいな何かだった。
彼を含む悪霊達は全身を幾百度となく切り裂かれ。全身を挽肉にされ。右腕だけでかろうじて逃げ出し。戻ってきた時にはもう燃え尽きていた己の幽体。
何故、気づけなかったのか。それが人間であるなどと、思いもしなかったからか。
その見えない右腕。
一本しか見えない、腕。
あの時の青ざめた少女の姿と、目の前の青ざめた女の姿が。
「まさか、八年前の――!」
「私がまだセーラー服着て悪霊狩ってた頃じゃん。懐かし」
――完全に、重なる。
世に"一本腕"として伝わる都市伝説がある。
右腕以外をセーラー服の少女に焼き尽くされ、【街】を彷徨う腕だけ男がいると。
誰もが知りながら、さして恐れることの無いその話――
――かつて高校生だった片霧が狩り損ねた、ある一体の悪霊から生まれた話。
「ふざけるな――」
叫ぶ。取り憑いた死人の喉を震わせ、悪霊が絶叫する。
「貴様か! 貴様だったのかッ! 我が仇! 正真正銘の化け物! 蠱毒に残った一匹、百物語の百話の果て! 本物の、真なる"一本腕"ぇえええええええッ!」
室の蝋燭に火を灯し。百物語を百話集め、語った果て。
蝋燭は青く灯り、暗闇の中に一体の怪異が現れるという。
曰く、青行灯と呼ばれるその怪異は、長い黒髪を持つ、青ざめた肌の鬼女であると――
「人を化け物みたいに言わないでよ、もう」
斬。
気づけば、全滅していた。
実際には何秒だったのか。
あまりにも無駄の無いそれは、主観では一瞬であるように見えた。
しかし、本当にそうであるはずはない――空を飛ぶ腕の全てを、一瞬で細切れに出来るはずがない。
そして、実際に要したのが一瞬だったにしろ一分だったにしろ、この女が化け物であることが変わるはずもない。
「あとはそこの"霊獄"と、君だけかな?」
気楽な口調。
こんなことはいつものことだと。
いつも通りにお前は狩られるのだと、そんな声。
「……ふ、は」
自棄になったような笑い声が、漏れる。
「は、ははははははは!」
「何笑ってるの? 勝てないでしょ、君」
「ああ、ああ、よく分かったとも! 私では、貴様に勝てない――だが」
だが、ここに一つの例外がある。
青い禍雷が、迸った。
雷光が刃に集う。凄まじい霊力が凝縮する。
刀を以て落雷を空中に縫い止めたような、そんな輝きが"霊獄"の刃先へと集い始める。
黒成にも放った光線状の稲妻――では、ない。
規模が違う。
いかなる呪力霊力をも受け止める聖人の腕が、力に耐えきれず崩壊していく。一秒ごとに肉が削げ落ち、指が弾け、骨が砕けていく。
「ここにあるこれこそは"霊獄"。
万霊、千妖、百鬼、十神。
一万一千と百十一の超常を宿した刃状蠱毒。
戦国における怪異の遍くを祓ったこの妖刀こそ最強最悪。
貴様がこの【街】の百物語の果てに生まれた真性の化け物であろうと関係無い。
百物語を百度束ねても余るこの正しく『全霊』なる一撃で、貴様を骨の髄まで滅ぼし尽くす!」
単純な数量の話。百鬼夜行を滅ぼした者であろうと、万の超常を宿す力に叶うはずがない。
聖人の腕を失えば"霊獄"が振るえなくなるだとか、このままでは黒葉もろとも灰にしてしまうだとか、全てが終われば"霊獄"を使って自分がこの国を統べるつもりだったとか、そんなことはもうどうでも良かった。
怒りのままに。
この一撃で、片霧セツナを。忌まわしき"一本腕"を、滅ぼす。
雷の収縮に耐えきれず、聖人の腕が完全に砕け散ると同時。
その一撃は、放たれた。
蒼き禍雷が龍と化す。
あらゆる存在を呑み込む災禍。
デパートどころか、町一つ吹き飛ばす極大規模の雷光が。
片霧に向けて、落ちた。
「いやあ。それ、二割ぐらいしか力引き出せてないと思うよ? 呪いが本体に伝わってくるの怖くて全力出し渋ったでしょ」
そして、青い雷光は片霧に触れる寸前で消失した。
「――――」
からん、と"霊獄"が地に落ちる。
何一つ、理解することが出来なかった。
いや。
一つだけ、分かったことがあった。
「何故」
片霧が持つナイフ。玩具のようにちゃちな刃物。
そしてその刀身が纏う――先ほどまでは絶対に無かったはずの、蒼い崩焔。
「何故"霊獄"がもう一振りある!?」
「ていうか君は何年前の話をしてるの? 百物語? 私が悪霊を狩った数ならとっくに五桁超えてるけど」
今度こそ、右腕の悪霊が絶句する。
片霧セツナが持つこの刃は、正真正銘ただのナイフだ。
何の逸話も無い、安物の量産品。
だが、かの"霊獄"とて、元から絶大な力を宿していたわけではない。
元はありふれたただの小太刀だった。しかし修行僧たる雷定法師が槍も弓も鎧もなく、たった一人、この小太刀のみで百鬼夜行を鏖殺したが故に力を得た妖刀。
そしてこのナイフは。
槍も弓も鎧もなく、たった一人、このナイフのみで【街】に潜む都市伝説を鏖殺し。
万魔、千怪、百異、十災。
一万一千と百十一の異常を宿した刃状魔境。
現代における怪異の遍くを祓ったこの魔刃こそが、最新災厄。
二代目の、"霊獄"。
そして初代"霊獄"同様に――"霊獄"より強い力をぶつけられない限り、この呪具の振るい手を傷つけることは出来ない。
「あ、ぁ」
何もかもを失ったと知り――否。
何もかもが最初から一切尽く根本的に間違い全く足りていなかった届くはずもなかったと、知り。
呆然とした様子で悪霊は叫ぶ。
「ぁ、ああ、ァあああああ!?」
その【街】には、数年前からある都市伝説が存在した――都市伝説達が語る都市伝説が。
それは我々を殺す、人ではない何かだと。
それは我々を滅ぼす、化け物ですらない何かだと。
それは我々を終わらせた、一本の腕しかない何かだと。
"一本腕"と呼ばれる何かが、まだこの【街】のどこかにいる――
「じゃあ、終了しようか」
斬、と。
霊核が斬り祓われ、ナイフにまた一つ穢れがこびりついた。




