6 お勉強
「では、改めましてだな、妾はアーテル・ハウトシャフェルス、よろしく頼むぞシエル。」
「……(テルさん…?)」
「アーテルだぞ?」
「……(アーテルさん…だからテルさん…だめ?)」
「あー、なるほど、それならば構わぬ♪」
「……(本当に考えてる事わかるんだね)」
「うむ、意図的に読まないようにすることもできるぞ?」
「……(ふ〜ん…)」
目の前にいる黒い少女改めアーテルは愛称で呼ばれて嬉しそうに体をクネクネさせている。
配置はソファの上にルルエ、その膝の上にシエル、その正面のソファに座るアーテルとなっている。
シエルは、最近飲んで好きになった、ハチミツとレモンのジュースを小さな両手で掴みながらコクコクと少しずつ飲んでいる。
「いいなー、アーテルのその力があったら私だってシエルちゃんとお話できるのに…」
「……(いつも普通にお話してるじゃん)」
「そうじゃないの、こう…ちゃんと言葉にしたいというか…ね?」
「……(いや、今でもお話できてるじゃん)」
「だからそうじゃないんだってばー!」
ルルエは珍しくプンプンと擬音のつきそうな怒り方をしている、いつもなら「コラッ!」っと言いそうな感じで怒ってくるのだが今日は少しだけ違った。
どこか子供っぽい怒り方だ。
「ルルエよ、お主は十分シエルの思考を読めておるぞ…」
「へ?」
「……(あんまり読まないでね?)」
シエルはアーテルに懇願するように見つめながらそう願った。
「うむ、わかった、妾の名、アーテルの名にかけて約束しよう。」
「……(読んで良い時はちゃんとお願いするから)」
「よかろう」
「「それはそうと…」」
突然二人が顔を見合わせて同時にシエルの顔を見た、どこかお願いするような申し訳なさそうな複雑な表情に期待をするような目を向ける。
「「声聞きたいなぁ…?」」
「……(そ、そのうちね〜あはは)」
「むぅ、やはりダメなようだな。」
「なんで喋ってくれないんだろう?」
「さぁ、何故なのだろうな?」
「こういう時のアーテルの力じゃない!せめて理由ぐらい聞いてよ!」
ルルエの言葉にアーテルは心外だと言わんばかりの表情を浮かべていき、やや怒った表情も含みながら声を出した。
「失礼な、妾とてたとえ子供であろうと一度結んだ約束をおいそれと破りはせん。」
「えっ、そうなの?」
「そうだ、というかルルエも知っておろう。」
「まぁ…そういえばそうだったわね。」
「なっ!?ま、まぁ忘れていたのなら仕方なかろう……兎も角、シエルとの約束なのでな、これからはあまり読まないことにさせて頂く。」
シエルは心の中でアーテルに対して「怖いとか思ってごめんなさい」と謝った、それと同時に約束を守ってくれている嬉しさで翼がパタパタと動き始める。
それから二人は今後の予定を話していった。
アーテルの雇用期間は6年間、シエルの年齢が9歳になるまでとなった。
明日からの住み込みとなっている。
アーテルを選んだ理由は思考を読めるから世話がしやすいだろうからと言うのが第一で、第二に勉強や魔法を教える先生になって欲しいということらしい。
シエルはこう思った。
魔法は熟練度でいくらでも強くなるのに…。
と、だったらまだ教えられていない属性の魔法なのではないかと検討をつける。
事実この世界の魔法は熟練度で威力や規模、変換効率や技術までが決まるようになっている、まぁそんなことをシエルが知っているのは言うまでもないが。
ちなみに誕生日にルルエに見せた魔法はルルエの予想をかなり上回っていたらしくかなりの好感触をつかめていた。
その翌日、本当にアーテルが住み込みで先生をしてくれることになった。
昨日の飾り気の無い黒のワンピースは見事に着替えさせられていた、それでも黒が中心なのは決して変わっていないが、服装がゴスロリチックな黒一色に近いフリフリとしたメイド服になっていた、それもただフリフリとしている訳でもなく、どちらかと言うとドレスのようになっている。
「む。どうしたのだ?シエルよ、妾を見つめおって…」
「……(じ~)」
「………まあよいか、それでは早速始めるとしようか」
「……(コクコク)」
シエルは首を縦に振り肯定の意思を伝える。
「それではまずは読み書きからとなるがよいか?」
「……(コクコク)」
「ではまずは……」
先日のアーテルからは考えられない程の丁寧さで説明がされていく。
言語と文字、どちらもまごうことなき日本語である、そのため元日本人であるシエルにはなんとなくだが全部よめて全部理解するのにそれほどの時間は必要なかった。
時間にして2時間ほどで覚えてしまった、文字も子供とは思えないほど綺麗に書けていることにアーテルは不思議そうに見ながらも満足気に頷きながら「うんうん、シエルは賢いな」と言っていた。
こんなの楽勝なんだから!
という意思を表すように翼は嬉しそうにパタパタと動いていた。
「では次…の前に昼食としようか」
「……(コクコク)」
なんと出てきたのはアーテル手作りの料理!見た目はあんまり綺麗ではないのだが匂いから分かる、これは美味いと。
そんなアンバランスな料理を口の中に運ぶとシエルの頬が数ミリほど緩んだように動いた。
だがそれも一瞬のことでアーテルが気が付くことはなかった。
これ美味しい!でももうお腹いっぱいだなぁ…あっ、でもこのプルプルしてる甘いやつは別腹かも!
シエルが気に入ったのは正真正銘のプリンだった。
それから更に算数が叩き込まれたが前世の影響で日本語同様数時間で覚えてしまった。
アーテルは
「まだそれほど詳しく教えてなかろう…」
と少々残念そうにつぶやいているのだった。




