5 黒い少女
ルルエと暮らし始めて2年になるこの日、三歳の誕生日である。
同時に魔法を使える事を目の前で証明する日にもなった。
最近は自分一人でも歩き回れる程度には成長しており、明日から屋敷を歩き回る事にしようと決意している。
そして現在、過去二回の誕生日と同じ時間、同じ場所にいる。
「シエルちゃん!三歳のお誕生日おめでとう!」
うん、嬉しいよ、お義母さん。
「ねぇシエルちゃん、そろそろお義母さんに声を聞かせてくれない?」
そして最近、ルルエは妙にシエルの声を聞きたがる、シエルとしては吝かでもないのだが。
うっ…頑張ってみる。
「………」
な、な何喋ればいいんだろう、今日もお天気いいね?ありがとう?それとも……ダメっ!恥ずかしいの…今更声出すなんて…何喋っていいのかわかんないよ〜…。
と、本人がこのざまなのだ。
喋る以前の問題である。
「ん〜…まいっか!大体何考えてるのかはわかるからね〜♡」
それよりさ!お義母さん!見て見て!
とルルエの気を引くために袖をクイクイと引っ張る。
引っ張られていることに気がついたルルエはすぐに首を傾けて「どうしたの?」と視線を送る。
シエルは今まで見せられてきたほぼ全ての魔法をルルエに見せた。
【トーチ】【ライト】【ショック】は当たり前のように、他多数の魔法を練習して覚えた。
そこから【ウィンド】【ファイア】【サンダー】【ヒール】……などなど、三歳児とは思えない速度で覚えていった。
この世界の魔法は詠唱がない代わりに練習すればするほどその属性の魔法の威力や魔力の変換効率が上がり、制度が上がるようになっている。
そのため【ライト】はもうただの光の玉とは思えないほどのものになっている、下手をするとビームにもなるのではないかと思ってしまうほどだ。
そしてそれらを見せた結果
「シエルちゃんすごい!私の目に狂いはなかったわ!」
ルルエは最初うんうんと頷きながら見ていたが、【ライト】と【ファイア】と【ウィンド】を見た時だけ口をポカンと開けて驚いていた。
シエルがこの三つの異常とも思える成長速度は一重に有翼人であるがためである。
有翼人は光=風>火=無>雷>>水>>土>闇 の属性の順番で得意としている。
これらの属性以外にも時間、空間、結界、精神などの属性と言いずらい物もある。
魔力量が多くなってしまう理由は、有翼人は翼に魔力を流すことで飛ぶことが可能となっている、個人の運動能力によってはシエルなどの飛べない有翼人も存在する、それでもシエルの魔力量は多すぎる。
そのため、【ライト】【ファイア】【ウィンド】は完全に常軌を逸していると言う事ができるほどになっていた。
そしてこれらを一通り見せてきゃっきゃと騒ぎ倒して、サプライズが成功した後のことだった
「あっ、しまった…すっかり忘れてたわぁ…」
どうしたの?
とシエルは首を傾げてルルエに視線を送る。
それと同時に部屋のトビラがバゴッ!と音を立てながら吹き飛んだ。
「お主…忘れておったのか!」
未だ姿の見えない第三者からの声が響いた。
えっ…なんか怖いっ!
姿を現した第三者は白い肌をしているが、髪、目、唇、爪、歯、全てが真っ黒だった、なのに瞳は赤く不気味さを漂わせている、服装は袖のない飾り気の少ないワンピースを着ていた、そしてこれもまた真っ黒だ。
体つきは全体的に幼さが残っており、人間で言うところの14歳の女の子の平均と言っていいだろう、目は少し釣り上がっているが、かわいらしい小さな口と少しだけミスマッチのような気もするが、間違いなく美少女の類に分類されるのは事実だとはっきりとわかる。
だがこんな不気味を体現するような人が入ってきたらとうぜん
やだ!怖い!怖いよぉ…お義母さん!
となるのは必然で、シエルは思わず安心感を求めてルルエに抱っこを要求する。
そして普段見せないシエルの姿を見たルルエは当然
「きゃー♡シエルちゃんに始めて抱っこ要求されちゃった!」
と騒ぎながらもひょいっと抱きかかえる。
「……」
だが黒い少女はその姿をみながらもどこかソワソワとしているように見えた。
「ルルエ!…その…えっと…妾にも抱っこさせておくれ…!」
「シエルちゃんが良いよって言ったらね!」
「シエル…だめかのぅ…?」
黒い少女は物欲しそうに、目を向ける。
だがやはり怖い人は怖い人で、幼い子供にはそれだけでかなり厳しいのだ。
ヒッ…!嫌!嫌だよ!
少しだけ体をビクッと跳ねさせ、ルルエの胸に顔を埋める。
こうなってしまうのもしょうがないのかもしれない。
「そんなぁ…妾のなにがダメなのだ…!」
「それは…怖いからなんじゃないかな?ほら、見た目普通に怖いし?」
「やはりそうなってしまうのだな…」
「シエルちゃん、この人は大丈夫だよ?ほら、こんな風に項垂れてる人が怖いと思う?」
本当に大丈夫?大丈夫なんだよね?嘘じゃないよね?絶対?絶対だね!?
この気持ちを伝えるべく必死に目で訴える、ルルエは暫く見つめた後、納得したようでニコッと笑顔を作って
「大丈夫だよ?」
そう安心させるように優しく呼びかけた。
それでも…嫌…嫌だけどお義母さんの頼みなら…仕方ない!
いきなり覚悟を決めたような雰囲気を纏ったシエルを見たルルエは黒い少女にそっと近付いて、シエルは黒い少女の腕の中に移動する。
「ふむ…なるほど…これはなかなか…」
「でしょ!?でしょ!?」
「うむ、このふわふわとしている翼がまた心地よさを感じる!」
えっ、何で本人の目の前で抱っこの感触を確かめ合ってるの?
「……(じ~……)」
「?どうした?」
「……(じ~……)」
「な、なんなのだ?」
「……(じ~……)」
「なあルルエよ、なぜ妾はこんなにジッと見つめられておるのだ?」
「さ、さあ?」
「……(じ~…プィッ)」
「な、なぜなのだ!?」
お義母さん!もういいでしょ!怖くないのは分かったから!
今度は黒い少女の腕の中でじたばたと下ろしてアピール。
「これ、暴れるでない!」
「……!」
「わかった、下ろすから待っておれ」
「……」
下ろしてもらったシエルはルルエの後ろにピタッと引っ付いて隠れる。
もうその態度だけでどれほど印象が悪くなったのかを如実に表していたために、黒い少女はまたもショックを受けることとなった。
だが
「シエルちゃん、この黒い人はね、シエルちゃんのお世話をしてくれる人だよ?」
「!……」
「ん?なんでって?う~ん……ちょっとお仕事でお家に居ない時が出てきちゃうからかな…?」
「……」
「もう、嫌とか言わないの、私だって寂しいんだから」
そっか…お仕事なら仕方ないよね…そうだよね、仕方ない仕方ない。
さらにその時
「ルルエ、お主よく考えてることがわかるな、妾みたく思考を読めるのならまだしも」
爆弾が投下されたのだった。
黒い少女が見つめられているとき思考を読めなかったのは、シエルがただ観察するようにボーっと眺めていたからです。




