44 手を組んでくれないだろうか! 2
『魔女狩り大戦』、それはこの学校が主催の魔法での対戦、いわば魔法を使っての戦争ごっこである。
1学年全員が同時に参加する『魔女狩り大戦』は一戦一戦、魔法が入り乱れ、派手になってしまう演出は見学に来る親御さん達にも大変人気なイベントである。
日本で言ってしまえば運動会のようなものである。
ではなぜ4組は手を組んでくれとお願いをしにきたのか。
それは『魔女狩り大戦』が『戦争ごっこ』であるため、如何なる手を使おうともそれもまた『戦争』である、手を結ぶのも、裏切るのも、許されるのが『魔女狩り大戦』なのだ。
「頼む、俺達4組は1組に宣戦布告をしてきた。」
宣戦布告、このルールは相手に「宣戦布告だ」と一言言えば成立する、買った側は負けた側の要求を呑まなければならない、実力主義の学校らしいルールだと言える。
「嘘か真実かはナギリ先生に聞いてくれれば分かる。」
5組のクラスメイトがナギリに視線を送るとコクリとうなずいた。
それはつまり”正式に受理されている”と言うことだ。
だけれど手を貸すのならば聞かなければならない。
「何を要求したんだ?」
5組の男子生徒がクラスメイトを代表するように4組の生徒に聞いた。
要求を知らずに聞き入れるほど5組はバカではない。
「要求したのは『1組の生徒2名の引き抜き』だ。」
「「!!」」
生徒の引き抜き、過去にこの要求はあった、そして負けた側から実際にクラスを移動させたこともある。
生徒の引き抜き…要するに将来的な1組の戦力ダウンって所かな?
興味がほぼ無くなったシエルは机に突っ伏して居眠りをする環境を整える。
結界魔法で作った【マクラノバリアー】は最高の効力を発揮した。
餅に顔を埋めてる気分で実に気持ちいいとか考えつつも耳は傾けておく。
「将来的にはこのクラスにもプラスに運ぶはずだ、引き受けてくれないか?」
言い終わると同時に頭を下げる4組。
実に真面目な男だと思うのが普通かもしれないが、そうは思っていないメンバーと本気にしているメンバーと半々と言ったところだろう。
そう、態度はクソ真面目なのだ、”態度は”、だが。
簡潔に言ってしまうと『まだ胡散臭い』だ。
「分かった、手を「無理ね」かそう??……なんでだ?フセル穣?」
フセルは遮るようにしっかりと声を発した。
シエルも同意権なので黙って聞いておく。
「理由は3つ、すぐに納得してしまうクソお花畑さん達に言っておきましょう。
1つ、これはただの学校行事ですか?『魔女狩り大戦』、”大戦”なんですよ?
2つ、本当にその2名を引き抜いて将来的に有利になるのですか?
3つ、こちらにメリットがない、対価がなければ同盟とも呼べない、お粗末極まりない。
と、この辺りでしょうか?」
「は?メリットはあるだろう、1組の戦力が「それはメリットじゃありませんわ、むしろデメリットです」減る…何故デメリットになる?」
「考えても見なさい、ただでさえ最底辺の集まりである5組、そんな私達は3組に勝つことすら正直間々ならない、なのに唯一勝てる可能性がある4組の戦力を強化する道を選ばなきゃいけませんの?」
最後に小声で「ま、シエルちゃんと私が本気でやったら…話は別かも知れないけどね」と小声で呟いたのをシエルは聞き逃さなかった。
質問をした男子生徒は顎を触りながら数秒考えると、ムッと眉をしかめた。
どうやら予想より冷静な人物で、物分かりのいい人物のようだ。
ただ頭が足りなかっただけで。
4組生徒達が一瞬苦い表情をしたり、眉が動いたりしたのを見逃すはずのないフセルは本当に瞬きするほどの一瞬だけニタリと口を歪めた。
相手がまだ子供だったから通用するけど、大人相手だとまだまだかな、フセルも。
そう思いながら【マクラノバリアー】に顔を埋めてもっちもちを肌で感じてうりうりと頰を擦り付ける。
というか気が付かないものなのだろうか?とか思ってはいるがやはり枕優先で表情にも出ない。
「では無かった事に「それも無いですね」…なんなんですか?フセル嬢」
5組はわかってる人3割、わからない人7割といった具合に分かれている。
4組のメンバーも普通に耐えれるあたり腐ってはいないようだ。
「では取り引きをしましょう。」
ここからが本題、きっと5組の生徒はそう思っただろう。
だけど、結論はもう決まっているのだ。
「ええ、取り引きを始めましょう。」
突然始まったように見える生徒達だが、実際はここまでが茶番なのだ、ここからが取り引きだ。
「手は貸しましょう、ですがこちらの条件は…」
「条件はなんだろうか?」
4組とフセルの取り引きが始まった。
「引き抜いた生徒を一人、こちらが引き抜きます。」
「……やはりそれしかないか」
「はい、残念な事に」
当然最初に思いつくのはそれだろう、こちらも戦力は欲しい、保険のようなものだ。
だがおそらく裏切りに会うのは間違いない、それは最初から取り引きの価値を4組が感じていない、相手の表情の変化や雰囲気の変化に敏感なフセルだからこそ見逃すはずがない。
「ではそれが条件で」
「は?あなた馬鹿ですか?」
「…なんだと?」
「誰を引き抜くかも教えてもらっていないのに、承諾するわけがないじゃないですか?頭が足りなさすぎるんじゃないかしら?クソ頭痛い。」
無駄に煽るフセルは怒りながらもすごく楽しそうだ。
だがあれは怒っているのではなく、からかっている、それをナギリとシエルだけはなんとなくわかっている。
煽られて少しだけムッとしたらしく、冷静そうに見えるが、眉が数ミリピクッと動いた。
どうやら耐えたようだ。
「確かにその通りですね」
おや?思ったより耐えれてない?もっと違うこと言えたでしょう?例えば『勝利後、1対1で模擬戦をし、先に選択する権利を得る事とする』とかさ?ま、裏切るつもりなら最初からそんなこと聞く必要すらないと思考レベルが下がっちゃうのかな?
ちょっとがっかりだ、と思いつつもさらに枕の感触を楽しむ。
「引き抜くのは、学年主席のシュランツと学年3位のクララ・エンディールだ。」
ガタンッ!
シエルが驚いて席を立った。




