42 フセルと存在X 2
シエルの左目とフセルの視線が交わる、うつ伏せなのにそう確信できた。
意識を縛り付けるように向けられたシエルの視線はきょろきょろと周りを見回すと、フセルの顔で視線が固定された。
ゆっくりと口が開き
「【命令:完結せよ】」
「ッ!?」
シエルの声のトーンが2段階ほど下がった。
魔力が噴出し、元の場所に戻ろうと集まるが、実際はまきついている鎖に収束し、体を淡い光が包み込む。
フセルはその瞬間、自分が掛けた魔法が全て解除されたことを理解した。
「それほどこいつの血が吸いたいか?」
「……」
「後悔するぞ?」
「……」
「吸った後で後悔する、それは友人としても、同居人としても、何より、この世界に住む者として、君は絶対に後悔する。」
「……」
「それでもいいのなら、吸えばいい」
「…あなたは…誰なんです?」
「俺か?俺は……そうだな、【存在X】と名乗っておこう。」
「……後悔するとはどういう意味ですか?」
「そうだな…」
フセルの真横から声が聞こえる、ベッドの上で寝転んでいるはずだったシエル――今は存在Xが、フセルの真横に後ろに手を組んで立っていた。
いつもの無表情ではなく、どこか楽しそうに微笑んで。
「知りたかったら吸ってみろ」
するすると独りでに服が脱げ、胸の辺りまで下がると抱きかかえるようにそれを止めた。
右手を離し、いつの間にか伸びていた銀髪をそっとどかし、首筋を見せつける。
いつもの髪型じゃ出来ない仕草で淫猥に微笑む。
喉がゴクリとなる音が部屋に響いた。
生々しくもあるその音は獲物を見つけたようなそれは二度ほど聞こえた後、存在Xに近付いた。
真後ろに立ったところでフセルは顔を…
近付けなかった。
「あなたはシエルのなんなの?」
「さあ、なんなんだろうな?」
「教えて」
「やだね、知りたかったら吸いな」
「無理、今のあなたからは吸いたくないと思ってる、あなたはシエルであってシエルじゃないから。」
「今、俺の状態じゃないとわからないこともあるぞ?」
「それでも、あなたからは吸いたくない。」
「そっか、それは賢明な判断だ」
「ならば世間話でもしようじゃないか」
今度はベッドの上に腰をかけるように移動していた。
目の前にいたはずなのに。
「いや、世間話と言うよりはお願いかな。」
「お願い?」
「まあ一つなんだけどな」
また声の聞こえる位置が変わる。
今度は丸机に肘を置きながら、少しダルそうに話す。
はぁ〜と息が漏れる音は嫌に響く。
急激に薄れた緊張感からフセルも少しイヤイヤながらも正面に腰を下ろす。
「まぁお願いと言ってもシンプルなことなんだけどな?」
「はぁ、なんでしょう?」
「それはだな……俺の事は教えないでやってくれ、シエルは俺の事を知っているけど知らない、知ったところで何も変わらないが、それでも念のためだ。」
「本当にクソシンプルな事ですね。」
「まぁな……あ、そろそろこいつが起きるぞ、では失礼!」
「ちょっと!?」
「おやすみぃ〜……くかぁ〜…すぴ〜…すぅ〜……」
目の前にいたはずの存在Xは、既に布団の中で快眠という文字が似合うほど気持ちよさそうに眠っていた。
「はぁ、クソ萎えるってこういう事かな、昨日も飲み損なったし、今のうちに血を飲んでおこっと。」
ベッドに視線を向けると、髪が短くなったシエルがうつ伏せで眠っていた。
翼はだらしなく垂れ下がり、存在Xの面影は微塵も残ってなかった。
次からいつも通り週1土曜で




