3 母親です
ここは…どこなのかな?
目を開けると見知らぬ天井が見え、自分を囲むように柵が見える。
シエルは今、誰かの屋敷のベビーベットの上にいた。
部屋の中を見渡すだけで、この屋敷が相当な大きさなのがよくわかる。
せなかがムズムズする…。
背中にある"何か"がベビーベットと擦れて少しばかりむず痒い感覚に襲われている。
その"何か"は有翼人の翼である。
んん…ムズムズする〜…。
しばらくシエルは、仰向けの状態でモゾモゾと動き、ムズムズを解消するように動く。
そこへ扉を開く音と同時に銀髪のどこか優しそうな雰囲気を持つ可愛らしい美少女が近づいて来た。
少女は心底嬉しそうな笑顔を浮かべながらシエルを抱き上げた。
せなかかいて〜
と求めるように手を伸ばす。
「あらあら、やっぱり可愛いわぁ!」
せなか!せなか!おねがい!
「ん?何かしら?」
かゆいの〜!
気が付けばシエルの翼はプルプルと震えながら上下に動いていた。
「あ、翼が痒いのね〜任せて!」
はやく!はやく!
「あらあら、慌てない慌てない」
少女の白く柔らかそうな手がシエルの翼に伸びていき、痒い場所を探すように少しずつ移動させながら手で掻いていく。
んっ…そこちがう!もっと!もっとつけね!
「もっとこっちかな???」
ちーがーう!もっとつけね!
「あら、違うのね…じゃあここかな?」
そこ!気持ちいい…。
「ここで正解かな?」
うん!そこそこ!
痒い所を掻かれたシエルの翼は、気持ちいい感情を表すように力が抜ける。
「それにしてもシエルって本当に表情が動かないなぁ…でも翼はお喋りさんだねぇ〜♪」
実際、一通りの少女の行動に、シエルの表情は全くと言って良いほど動かず、腰より上、背骨より下にある純白の翼ばかり勝手に動いていた。
それからも少女はシエルと遊び続けた。
その間にわかったことは。
少女の名前はルルエという名前。
見た目こそ少女だが、長生きはしているらしい。
そして漠然と自分の意識が成長していることがわかること。
そしてシエルに両親は居ないということも漠然と理解できた。
そう思った理由は色々とあるが、きっかけになったのはやはり、ルルエに翼が無いことだ。
トドメになったのは、遊びの最後にこう口にしたからだ。
『私やっぱりシエルちゃんを育てるわ!』
この言葉を聞いた後に、「母親です」と言われてハイそうですかとはいけるわけもなかった。
でもシエルは何故か最初からそんな事わかっていたのだ、ただただ頭の中でそれが当たり前だとすぐに切り捨ててしまったからだ。
でも、育ててくれるのなら…お義母さんだよね。
そう思うとシエルは恥ずかしさと嬉しさで僅かに頬を赤く染めるのだった。
1ヶ月後。
シエルは正式にルルエの娘となった。
今のシエルにとっては本当にありがたい話だ。
そういえば…からだのなかからちからがあふれるのをかんじる。
この頃わかった事だが、シエルの魔力量はバカみたいに多かった、ルルエの魔力量も相当なものなのだが、シエルの魔力量はルルエと比べて尚多すぎるようだ。
その事を知ってか知らずかシエルに毎日のように魔法を使っては「すごいでしょ?」と何かを期待するように聞いてくる。
まほう…できるかな?こんどお義母さんのいないときにこっそりやってみよう。
シエルはそう決意していつも通りシエルの魔法を見ていた。
一桜が作ったこの世界だが、一桜が「詠唱なんてものは存在するだけこんがらがる」とそんなものは存在しないようにしたのだ、勿論種族とか個人の才能で得意な属性などは変化する。
そして現在のシエルは有翼人、光や治癒、結界系の魔法が得意となっている。
いつもの日課?の魔法の見学を終え、ルルエに抱っこされたシエルは相変わらずの無表情、だけど翼が嬉しそうにパタパタと動いていた。
ルルエはシエルを育てると決めてからというもの、翼を見て気持ちを判断することにしている。
嬉しいとパタパタと興奮するように動き。
不機嫌になるとシエルを包むように丸くなり。
びっくりするとピンっと伸ばし。
悲しくなると力が抜けるように垂れ下がる。
痒いとプルプルと震えながら上下する。
怒ると威嚇するように翼が上を向き、一枚一枚の羽根が自己主張するように広がる。
これらが影響してかシエルは無表情でも、声を出さなくてもルルエに悟られてしまうのだ。
だがそれがさらに可愛く思えたらしく、ルルエは毎日毎日シエルにベタベタと空いている時間を見つけてはひっついてくる。
ちょっとうざい。
これがシエルの率直な感想、故にいつも最初は不機嫌そうに翼が丸くなる。
そしてその度に。
「もー、機嫌なおしてよ〜♡」
とデレデレになりながら頬をツンツンしてくるのだ。
もはや日課と言っても過言ではない。
それから抱っこされたシエルはルルエと一緒に食事を、哺乳瓶らしき物から吸って飲む、これを記憶を全て保ったままのシエルだったらと思うと…考えたくないものだ。
ちなみに佐倉一桜としての記憶、認識は完全にと言って良いほど存在していないのは想像に容易いことだろう。
ルルエは慣れた手つきで排泄物などの処理を終え、再びシエルと遊びながら魔法を見せる、疲れたら寝かせる。
そんなやりとりを毎日続けているある日のこと。
「シエルちゃん誕生日おめでとう!」
誕生日が来たのだ、一歳の。
3月7日、それがシエルの誕生日。
なんでわたしのたんじょうびわかるの?
そう思うのも不思議ではなかった、だが自分の誕生日がわかったのならそれはそれで良いかとどうでも良くなる。
ルルエはシエルが一歳である事を考えて、物などは渡さず、一日一緒に遊ぶ事にしたらしく、この日今までで一番ルルエがしつこくデレデレだったのは言うまでもない事だ。
ちなみにシエルの翼は正直で、ずっと嬉しそうにパタパタと動いていたそうだ。




