10 歯磨きと五冊の本
んやぁあ!何これ!
「んっ…」
クルトに膝枕される体勢で歯ブラシを宛がわれる。
「はぁい、奥歯いきますよ?」
歯ブラシが口の奥に侵入する、色々な角度に傾けられ、子供に気遣うような柔らかい毛先が口の中を撫でるよう蹂躙していく。
奥歯は綺麗に磨かれていく、それと同時にシエルの体にはなんとも言いがたいゾクゾクとした痺れる感覚が全身に広がっていく。
ゃぁ…んっ!ダメ!なぁにこれぇ!?
「っ!……」
「八重歯いきますよ?」
歯茎も同時になでられ、更に大きな痺れるような感覚に襲われる、それは非常に気持ちよくてもう少しだけ…もう少しだけなら良いよね?と思ってしまう。
歯茎の内側、舌で舐められる範囲はもう我慢が出来なかった。
甘い息が思わず漏れ始めた。
そこから先はもう覚えていなかった、ただなんとなく気持ちよかったな…と思ってしまう、それと同時に激しい羞恥心が湧き上がり気が付いたら布団の中で悶えていた。
それはシエル自身が始めて味わう快感だった。
シンプルに言うと『口の中が性感帯』それも敏感だったのだ。
翌日、アーテルと魔法の練習をしながら本が沢山置いてある部屋に向かう。
部屋は広く、中央に丸い空間があり、そこには四角い六人ほどが同時に座れる大きさ。
中心から壁に向かって立ち並ぶ本棚には数百万にも及ぶ本が並べられている。
今回からは剣術が出来ない代わりを見つけるためにきた、絵本から小説、辞書に到るまでの全てが置いてある。
アーテルは沢山の本から五冊ほど抱えて戻ってきた、題名は『運動不足が改善する百の魔法』『今日から始める体力トレーニング』『魔法を極める!達人編』『応用の利く最強魔法は結界かもしれない!?』『運動オンチな貴方のための防衛戦術』の五冊をもってきた。
まずは『運動不足が改善する百の魔法』からだね。パラッ
≪運動不足を改善する魔法!≫
≪まず【フィジカル】と唱えて下さい。≫
【フィジカル】…? 変化なしだね。パラッ
体が白く光ったら、すべてはそれからです。パタン。
うん無理、光りもしなかった、魔力が減っただけ、しかも上手くなる気がしない……諦めよう、『運動不足が改善する百の魔法』これはボツ、次は…『今日から始める体力トレーニング』これもボツ、木剣すらまともに振れないんだから問題外、『魔法を極める!達人編』次はこれだね。
≪魔法を極める!≫
≪魔法の成長に困っている、もしくはもう極めたぜ!と言う方必見!更に上を目指すためにもう一度魔法について学ぼう!
魔法とは、イメージと意識すること、それから使った魔力によって引き起こせる現象が大きく変わります、イメージよりも『これに水をいっぱい注ぎたい』という意識を乗せるほうが大事とされている、魔力は使えば使うほど威力が上がる。
さあここまではいいね?…え?俺はもう全てを極めた?フッフッフ、甘いですよ諸君!一つの魔法を単体で使うのは当たり前、同時に使うのも上級者なら可能だ!だがこうは考えてみたことは無いか?『合体させたい!』と、それを一度でも思った諸君!それが正解だ!属性を組み合わせることで更に上位へ!
さあ目指せ!魔法の達人!
≫
そこから後ろのページはなにやら難しい言葉や考えが文字としてズラーっと書き留められていた。
その中でも印象に残った文があった。
『魔法…それは万能にして非凡な力、己が極めるが自然と答えへと導かれるだろう』そんなことが最後のページに書かれていた。……パタン。
うんわかんない!でもとりあえずこれまでどおり練習してればいいんだね!…次は『運動オンチな貴方のための戦術』、これね…どれどれ
≪運動オンチな貴方のために戦術を!≫
≪運動オンチ、それは戦いにおいて最高のハンデである、ぶっちゃけ諦めろ!≫……パタン
こんにゃろーーーーー!!!……っととと、投げちゃだめだ、これはルルエお義母さんのだから…とりあえず落ち着いて読み直そう
≪それでも諦められないそこの君!正直に言わせてもらおう!
運動オンチはマジでキッツい!なぜそこまで言うのかって?
それは私も運動オンチだったからだ!ハッハッハ!
とまぁそんなことは置いといて、私は一つの結論に到った。
それは……。
『別に正々堂々戦わなくてよくね?』
これだ!
だから言わせてもらおう、運動オンチが正々堂々戦うなんて無理!
じゃあどうするかって?そんなのは決まっている!
戦いを侮辱しろ!汚い手を使え!恥を晒せ!怯むな!それしかないんだから!
以上!
≫
……これ戦術じゃなくない!?なんというか心構え?……でもなんだかそれしかないような気がしてきた……そうだそれしか無い…だったらどうやって……先を読んでみよう。
パラパラ…パラパラ…ピタッ。
ふむふむ………て白紙じゃん!ん?最後のページにちょこっとだけ書いてあるじゃない、どれどれ。
≪三百ページをここまでめくってほぼ白紙だった気分はどう?驚いた!?ねえねえどう!?こんな本もアリだと思わない!?ねえねえどんな気持ち!?ここまでめくらせといてほとんど白紙ってどんな気持ち!?
ふう……それは置いといて、これだけは教えておいてあげよう
『恥は成果!常に汚くあれ!』≫
なんだろう…これ書いた人すっごく良い性格してると思うよ、少なくとも好きになれそう、でもね、でもね?ふざけるなああああああああああああああああ!
バァァァアンッ!
一冊の本は力強く地面に叩きつけられるのであった。
「これシエル!本を乱暴に扱うな!ルルエに怒られるのは妾なんだから!」
あっ、ごめんなさい。
「……(ぺこり)」
『応用の利く最強魔法は結界属性かもしれない!?』この本は自分の部屋でゆっくり読もう。




