~優歌視点~ウチの犬は変わってる
本編始まってスグなのにいきなり雪視点ではありません。
これは優歌さんが雪を引取りに行くところ~瑞輝の幼少期までの話です。
これまで飼っていた犬が寿命を迎え亡くなったので、寂しかった私達夫婦は新たに子犬を飼うことにした。
会員制のクラブで里親希望を出し、厳し目の審査をクリアして旦那の友人である孝蔵さん宅に生まれた仔犬を見に行くことになった。
事前に写真で確認したが、3匹とも可愛いと素直に思った。
本音を言えば、3匹とも引き取りたいと思うが、大型犬を複数飼うには住居のスペースが足りない。
非常に残念に思う。
「ねえ、貴文さん」
「何だい、優歌?」
「これから会う子達はどんな子達なのかしらね?」
「写真で見る限り、全員可愛いかったけど、きっと気に入る子が見つかるよ」
「そうね。楽しみだわ」
移動中の車の中で私は、まだ見ぬ仔犬達との出会いに心躍らせていた。
孝蔵さん宅で部屋に入るなり2匹の仔犬が私と貴文さんに駆け寄り、その足元を楽しそうにクルクルと回る。
(か、カワイイ!)
仔犬特有のコロコロとした丸っこい輪郭が非常にキュートで、プリプリと振られる尻と尻尾が私を魅了してならない。
「あらあら、写真で見たときも可愛いと思ったけど、実物はもっと可愛いわ」
なるべく平静を装って言ってみたが、自信はない。
多分、今の私の顔は緩みきっていること間違いなしだと思う。
「そうだねえ、優歌。でも、ウチの広さだと1匹が限界だからね?」
言われなくても分かっているのに……
もう、貴文さんったら意地悪なんだから。
「分かってますよ、貴文さん。だから、悩ましいの」
「そうだね。じゃあ、じっくり選ぼうか」
言われなくともそのつもりだ。
足元の2匹が非常にカワイイ。
目が離せない。
しかし、しばらく見ていてあることを思い出す。
「あら?確か3匹いるという話だったような……?」
そう、事前連絡では3匹いるという話だったのだ。
足元にいるのは2匹。
残りの1匹はどこ?
「そうだね、ここに2匹いるけどあと1匹はどこに……?」
それに気付いた私と貴文さんは室内を見回す。
そして、気付いた。
私達から見れば仔犬達の母であるマリちゃんの手前の辺り、床に臥せって寝そべっているマリちゃんの横に同様に寝そべっている小さな毛玉が有ることに。
「あっ……!あそこマリちゃんの横!お腹の辺り!」
「あ!ホントだ。全身真っ白な毛で分からなかった」
見事な保護色でマリちゃんの腹毛に同化している毛玉。
これが探していた残る1匹だった。
私はその仔犬に歩み寄り、頭を撫でた。
「うわぁ~、すっごいモフモフしてる。それに毛が長い」
普通、見知らぬ相手に頭を撫でられようものなら引っ掻いたり、噛み付かれたりするものだが、目の前の仔犬は起きているにも関わらず気にしないといった風体で寝そべったままだ。
「なんか、セント・バーナードというよりサモエド犬みたいだね」
撫でても大丈夫だと感じたのだろう。
貴文さんも目の前の白い仔犬の頭を撫でて、素直な感想を述べる。
話に聞いてはいたが、体毛のみのアルビノ個体。
白や茶、黒の模様のセント・バーナードが全身白一色ってだけで随分と印象が違う。
流石にサモエド犬と比べると顔が大きいが、毛深いので確かに似ていると思った。
余りに無反応なので調子に乗って、前足を掴んで持ち上げたり、背中や尻尾を撫で回したり、抱き上げたりしてしまった。
少し反省。
「何ていうかこの子嫌がらないね。結構色々してるのに」
ホントにそうだ。
何となく達観した雰囲気すら感じる。
だが、その感じには覚えがあった。
「なんかこう、だらけてると言うよりふてぶてしい感じ、似てない?」
そう以前飼っていたグレート・デーンのゴンに。
晩年の彼は本当に今抱いている仔犬のような感じだった。
「うん。そっくりだよ」
貴文さんも同様の印象を持ったらしい、主語を言わずとも理解してくれていた。
「決めた!私達が引き取るのはあなたにするわ!」
「うん。僕も賛成だよ」
足元のカワイイ子達も良いんだけど、なんかこうビビッと来たのだ。
私はこの仔犬らしからぬふてぶてしい感じの白い仔犬を引き取ることに決めたのだった。
それから孝蔵さんに引き取りを依頼して、私達夫婦と白い仔犬……
雪は家族の一員となった。
何というか一緒に暮らしてみると、更に雪は不思議な子だと思った。
先ず、殆どイタズラをしない。
庭を走り回ったり、運動はしているみたいだが……
サンダルや靴をバラバラにしたり、犬小屋に隠したりしないのだ。
第2に散歩中糞をしたことがない。
犬飼いのマナーとしてうんこバックは持っているが、それを使用したことはない。
彼は家の中で決められたスペース(犬用トイレ)でのみ糞をする。
第3に時折こちらの言動を理解しているような行動をする。
頭の良い犬なら極たまにそういうこともあるのだが、雪はその頻度が非常に多い。
第4に獣医や注射を嫌がらない。
普通、そういうのを犬は非常に嫌がるものなのだが、雪は保定も無しに予防接種の注射を受け入れ、獣医の処置を大人しく受け入れるのだ。
非常に手間のかからない犬と言えばそれまでなのだが、逆にここまで手が掛からないとなるとそんなにしっかりとなるほど躾けたか疑問が沸く。
下手をすれば今すぐ盲導犬になれるのではないかと思う程に手が掛からないのだ。
一番不思議だったのは、私が瑞輝を出産して家に戻ってからのことだ。
非常に人間の赤ちゃんの世話が上手い。
私達夫婦がは初めての経験であたふたしている中、雪は落ち着いていた。
瑞輝が泣き出すと、お乳なら瑞輝の額に前足を乗せ、おしっこかうんこならオムツの上に前足を乗せる。
どちらでもないときは、瑞輝の顔に頭を寄せたり、前足でちょんと軽く触れたり、寝台を揺らしたりして自然とあやしていた。
しかも、乳の出が悪くてスキムミルクを作ったとき熱過ぎた場合……
「ウォン!!」
と大きく吠えて瑞輝に哺乳瓶の中身を飲ませないようにするのだ。
私達夫婦としては助かったのは事実だが、色々と理解が及びすぎている気がする。
しばらくして瑞輝がハイハイするようになってからは、雪は常に瑞輝の傍にいた。
危ない所に行きそうになったら服の首の後ろ辺りを咥えて引き離したり、瑞輝が小さいものを誤飲しないように床にある飲み込めそうな大きさのものを自発的に机の上など瑞輝の届かない場所に移動させたりしていた。
それでいて、瑞輝が疲れて眠ると、服を咥えて持ち上げ寝台へと運び、布団を掛けるという徹底具合。
瑞輝が声を発するようになっての第一声が『せー』詰まり雪のことだったのには、非常に嫉妬したりもした。
が、あれだけ面倒を見てくれていたのだから仕方ないとも思えた。
それから雪のことは犬というより、そういう存在、雪なんだと思うことにした。
娘や私達を自然と守ってくれる頼りになる大きな体の可愛い騎士。
何がどうあれ私達の大事な家族に変わりはないのだと。
次回は本編の(人)の主人公、瑞輝の視点での話になります。
基本的に瑞輝と雪、1人と1匹の視点半々で話は進む予定です。




