魔王の仕事
魔王として活動することを決めたシュウ。シェリアやミカナの助けを受けながら、シュウは魔王の仕事をはじめることにした。
魔王になると決めた俺。その日から俺は魔王としての仕事を始めた。ヴェルスト、シェリア、ミカナからの助けを受けながら、少しずつ進めていった。そして、そんな俺は現在……。
「もうやだやめたい」
「弱音を吐かずに仕事してください」
「だらしないわね」
執務室の机に突っ伏していた。秘書的役割のシェリアとミカナからは厳しい言葉が飛んでくる。こうなってしまうのも無理はない……とおもう。なぜなら俺がやっている仕事とは……。
「なんで魔王の仕事が書類仕事なんだよぉ……」
「今朝からそのセリフは聞き飽きました」
「弱音を吐かずにちゃっちゃとやりなさい」
そうつぶやく俺に対して投げかけられる辛らつな言葉。んだよおまえら、仮にもお前らの父親の記憶受け継いでんだよこっちは。反抗期か? 反抗期なのか? 向こうに戻って育児本読み漁っちゃうよ?
そう、俺に割り当てられた仕事、それは書類仕事である。魔王ってあれじゃない? 力でねじ伏せたりしないの? なんで財政難とか考えなきゃいかんの? てかなんで各魔族の財政とかプライバシー把握してんの? 魔族同士のばらばら云々はどこに行った。ちゃんと連携できてんじゃねぇか。……とおもったら、戦い等になるとばらけてしまうとのこと、なんだそりゃ。そろいもそろって脳筋か。あ、記憶の限り脳筋だわ。
「とりあえずやだもうやめたい」
「……しかたないですね」
再び机に突っ伏してそういえば、シェリアが溜息を吐く。お、まじで? 『賢王』信じてたよ。
「書類が嫌なら、現地に行って問題を解決してもらいましょうか」
「仕事はあるのね……まぁからだ動かせるならどんとこいだ」
そして、シェリアに指示され、とある場所に転移した。
「さて、やってきましたエルフの里……で、なにすんの?」
「現在エルフとダークエルフの間で起こっている諍いを解決してもらいます」
歩きながら、今回の目的を尋ねる。エルフとダークエルフの諍いねぇ。まぁ、この二つが仲悪いってのは鉄板だよな。ドワーフとエルフもテンプレ。っと、誰か近づいてくる。黒い肌にグラマーな体型、そして白銀の髪。あれがダークエルフなんだろう。エルフのシェリアと見比べれば一目瞭然。特に一部分、方や山脈、方や断崖ぜっぺーー
「ーー何か失礼なことを考えていませんか?」
「ーーイーエ」
女のカンって怖いな。そうこうしているうちに、ダークエルフの女性が近づいてきた。
「お待ちしておりました、魔王様」
「え、あ、俺か」
いきなり敬語使われるから誰のことかと思った。軽い自己紹介をして、本題に入る。
「えっと、エルフとダークエルフの諍いだっけ?」
「えぇ、といってもばかな男どもが勝手にやっているだけですが」
その証拠にと、指さされた場所にはエルフとダークエルフの女性が仲良さげに話していた。女の方は仲がいいのか。どうなっているのか困惑していれば、此方ですと案内される。案内された場所には無数のエルフとダークエルフの男たちが対立していた。あれか。
「この、薄汚いダークエルフが!」
「薄汚いのは貴様らエルフの方だ!」
両方の代表者らしき人物が言い合っている。うーん、男たちはあれかね。女性よりもあぁ言う差別の意識が高いのかね?
「ちがいますよ。あれはそんなものじゃありません。もっと低俗なものです」
そう考えていれば訂正された。低俗とな? いったいどういうことーー
「ーー貴様らダークエルフは胸のでかい女性を嫁にもらいやがって! 妬ましいんだよくそが!」
「黙れ! 貴様らエルフの女性のあの鉄壁の方がうらやましいわ! くたばれ!」
「あんな絶壁のどこがいいんだ畜生が!」
「貴様! まな板を愚弄するか!」
ーーおっけ把握した。これは低俗だわ。
「……何あれ?」
「馬鹿です」
話を聞けば、エルフの男がダークエルフの女性、ダークエルフの男がエルフの女性、特に体の一部分に一目ぼれしたらしい。始めはお互いに交換しようとバカげたことを言っていたが、お互いにすぐに譲ったため「あの胸の良さがわからん異教徒め!」とまたまたバカげた展開になり対立したのだと。
「……バカだな」
「えぇ、バカです」
「いっちょ行ってくるわ」
「はい……え?」
茫然とするシェリアを置いて、男どものもとへ行く。今こそ魔王の仕事だ。おれは言い争っている彼らに対し、声を届ける。
「聞け! お前ら!」
「この異教徒……だれだ」
拡声の魔法を使って届けた声は、しっかりと男たちの耳に入った。全員の注目が集まったころ、俺は話し出す。
「お前ら、何のために争う?」
「決まっている! こいつらが豊満な胸など脂肪の塊というから!」
「なにを! 貴様らこそ絶壁が価値のないものというだろう!」
「静かにしろ!」
また争おうとする彼らを諫め、話を続ける。
「エルフたちよ、お前らはダークエルフの女たちの、あの豊満な胸がいいというんだな?」
「当然だ」
「ダークエルフたちよ、お前らはエルフの女たちの、あの健康的な胸がいいというのだな?」
「当たり前だ」
「なるほど……では双方に問おう」
「……ならばいままでエルフはエルフ、ダークエルフはダークエルフの女を好きになっていた理由は何だ」
「「……」」
しばらく沈黙が続いた。
「なぜおまえらは彼女たちを好きになった? 豊満な山? 健康的な崖? 彼女らはそんなものを持っていないぞ」
「ならばどうやってお前らは好きになった。決して、外見を気にしていたのではないはずだ」
「……つまり、外見に気を取られてはいけないと」
「なかなかいいこというじゃない」
後ろでシェリアとミカナが何か言っているが今は気にすまい。そう、外見で判断するんじゃない。
「好きだからだろう。胸が!」
「「……は?」」
後ろで二人が固まったみたいだけどスルー。
「山脈も、絶壁も関係ない。ただ、そこにある胸という存在が好きだったからだろう!」
「「おぉ……」」
「胸に貴賤などない。ただ、そこにあるだけでみな等しくすばらしい物なのだ! そうだろう!」
「「お、おぉ!」」
「大きい、小さいでいがみ合う必要などない! 我々は手を取り合えるんだ!」
「「おぉおおおおおおおおおおおおおお!」」
エルフ、ダークエルフたちが歓声を上げる。……これで、もう彼らがいがみ合うことはないだろう、同じ志を持つ同志なのだから。
「……あーいい仕事した。やっぱこういう仕事の方がいいわ。シェリアーミカナ―次の仕事何?」
「かえって書類仕事しましょうか」
「むしろそれしかやらせないわ」
「なんで!?」
そして俺は、また書類仕事へ舞い戻った。
……え? シリアスさんですか? シリアルなら今朝おいしくいただきましたよ?