魔王、やります
『剣王』と『賢王』、二人を生贄に召喚されたシュウ。彼は、魔族たちをまとめるための旗頭、魔王になるようにたのまれる。
「……魔王、か」
とりあえずの事実確認が終わり、歓迎の準備をすると言うヴェルストは、部屋から出て行った。そしてソファに寄りかかりながら、俺は考える。俺は二人の英雄を生贄にして呼ばれた、期待されていることは魔族たちをまとめること、そのために俺に魔王になれと……。
「……知らねぇよそんなもん」
承諾なしに拉致しておいて助けてくれだと? なんだその虫の良すぎる話は。やってられるかってんだ。人間側に召喚されたクラスの奴らは気になるが……ひとまず帰る方法を探さねーと。生贄にされた二人の記憶のおかげで、召喚の魔法についての詳細はわかってる。単に呼び出すだけの魔法だということを……。
「はいいきなりアウトー」
だがまだ慌てるような時間じゃない。仮にも『剣王』、『賢王』とか呼ばれるような奴らの記憶だろ。なんかねーか……とりあえず『剣王』……あ、ダメだこいつ脳筋だ。まぁもともと期待してなかったよ。それじゃ本命だ。『賢王』の記憶に何か……。
「……転移の魔法?」
ふと引っかかったのはそんな魔法だった。「一度行ったことにある場所に行ける魔法」……これで異世界転移とかできる……わけないかねぇ。……まぁ、一応やってみるか。ええっと、使い方は行きたい場所の風景、まぁ学校の教室でいいだろ。それを思い浮かべてっと……。
「お?」
『賢王』の記憶によるものだろうか。不思議と、行けるということが分かった。そうと分かれば善は急げ、早速使ってみよう。使うという意識をすれば、足元に魔法陣……かね? そんなものが浮かんできた。
「シュウ。歓迎の準備が……っ!」
ちょうどそんなときに部屋に入ってきたヴェルスト。悪いね。俺は帰らせてもらう。構わず転移の魔法を発動させ、そのまま俺は光に包まれた。
「……成功か?」
あまりの眩しさから視界が回復し、目を開ける。
「ちょっと待て暗い。何も見えないんですけど」
目を開けても真っ暗で何も見えなかった。ここはどこ、私は俺。明かりがいるな……。
「光源」
そうつぶやけば、光源の魔法が発動し、周りが光に包まれる。メガァ、メガァ! ……てか、魔法使えるってことは……。目が慣れたころに恐る恐る辺りを見渡す。
「よっしゃおっけ!」
目の前に広がった黒板などの見慣れた風景に、思わずガッツポーズする。転移は無事成功、俺は帰ることが出来た。こっちでも魔法は使えるんだな。
「うわっ、なんでこんな暗いのかと思ったらもうこんな時間かよ」
時計の短針はもうすぐ10を指すところだった。まぁあっちで結構な時間過ごしたからなぁ。とりあえず帰ろ帰ろ。
家に帰れば、親に大騒ぎされた。どうやらうちのクラスが失踪し、結構な騒ぎになっていたらしい。そんなことよりおうどんたべたいといったところ、ものすごく怒られた。んだよもう。クラスの奴らは明日頑張って連れ帰ってきますよ。記憶頼りに転移でぴょんぴょんすればすぐだろ。とりあえず今日は疲れたから寝る。そのままベッドに寝転がる。やれやれ……今日はいろいろあったがこのまま平和な日々に戻れそうだ。あー、でもあいつら連れ帰ったあとどう説明しよ……よし、偉い人に丸投げしよう。俺はしらぬ、寝よねよ。あーでも人間側はあいつらいなくなってもまた召喚とかしそう。大本を何とかしなきゃだめなやつやな。しかし俺の知ったことではない。魔族たちがどうなろうと俺の知ったことではない。娘? しらんよ。俺は彼女いない歴イコール年齢だ。もーいいだろ。よし寝よう、寝よう……。
「……眠れん」
さっきから寝よう寝ようと思ってるのに、いらんことかんがえてしまう。あぁもう記憶受け継ぐとか面倒なことしやがって。能力だけでいいだろそこは。なんで記憶まで受け継ぐんだよバカなの死ぬの? てか、幽霊っぽいのが見えてくる。寝不足かな? その幽霊っぽいのは何も言わないが、俺をじっと見ている。そんななかでも思い起こされる二人の男の記憶。なにこれ走馬燈? 俺死ぬの? 思い起こされるのは基本二人の男の人生、それも家族との温かい思い出っておいばかやめろ、それぞれの妻との熱いシーンとかやめろ。
「あぁもううるさいなぁ!」
思わず起き上がってしまう。幽霊は何やら笑いをこらえている様子。腹立つなこいつら……浄化の魔法とかないのか?
そんなことを考えている最中でも、記憶は思い起こされる。妻、娘、友人、仲間……守りたい、助けたいという思いが伝わってくる。あーもーやだやだ。俺には縁のない人たちばっかりだ。こんな奴らを俺に助けろと? あーもー無駄にあったかい記憶だな畜生め。湧かしたくない情が湧いてくるじゃねぇか。
「……勝手だよあんたら」
すまない、そんな声が聞こえた気がした。謝罪の声がほしいんじゃないんだよ。
「あーもー! 行けばいいんだろ行けば!」
ベッドから飛び降り、パジャマから、ハンガーにかけてある制服に着替える。そして、再び転移の魔法を発動させる。思い浮かべる場所は、案内された執務室。
転移すれば、執務室には沈んだ表情のヴェルスト、シェリア、ミカナの三人がいた。俺に気付いた三人は、驚愕した表情で俺を見てくる。何だよその顔は。
「なにすればいいんだよ」
「え?」
そう問いかければ、そんな気の抜けるような返答が帰ってくる。あぁもうさっきからむかつくことばっか。
「まず最初に何すればいいんだって聞いてんだよ!」
魔王なんてさっさとやってさっさと終わらせてやる!




