アトラシア第16章 冷たい夜風
問いは風に揺れ、答えはまだ遠い。
第16章 冷たい夜風
森を抜け、術式荷車が乾いた地面を進んでいる。風が吹き木々がざわめいている。
グリュムナが立ち止まり、鼻を鳴らす。疲れか、それとも何かの気配かとソウタは身構えた、しかしグリュムナは再び歩き始めた。
「……今日はここで休もう」
ソウタの言葉に、サナがうなずき、荷車の展開術式を起動した。車体が変形し、天蓋と小さな囲いが現れる。旅の仮宿があっという間にできあがる。
夜風はやや冷たく、サナは焔術で小さな火を灯した。焼き干し肉を温め、干し果物を煮て甘い香りを広げる。焔術と調理器具の相性は良く、手早く簡素な夕食が整う。
ふたりと一体は、簡易ベンチに並んで座り、湯気の立つ器を手に取った。
「……あの神殿、きっと他にもあるんだろうね」
サナの言葉に、ソウタは頷くでも否定するでもなく、火を見つめた。
翌日、ふたりは交易都市へ入った。小さな宿場町ながら、冥府とウルクの交易線に位置するため、人も品も多い。
市場では焔術式の鍛冶工房や、冥術式の保存棚が並び、理術の古書を扱う屋台もちらほら見える。ソウタは興味深そうに、複雑な折符の一節を読み解こうとしていた。
一方、サナは飾り細工のついた火打石に目を止め、思わず立ち止まる。
「ねえ、これ……かわいくない?」
「焔術の起爆式にしては、装飾が過ぎるな」
「そこがいいの」
ふたりのやりとりに、店主の老女が笑う。 「あんたたち、旅の途中かい?」 「まぁ、そんなところです」 サナが苦笑いで答えると、老女は少し真顔になって呟く。
「最近このあたりでね、冥府の傀儡を見たって噂があるのさ。厄介事はごめんだね」
ふたりの表情がわずかに硬くなる。
その夜、仮宿の窓辺にて。 焔術式の小型灯火が、ゆらりと揺れていた。
「神を信仰するって、どういうことなんだろうね」 サナの問いに、ソウタは窓の外の星を見て答えた。
「……運命を受け入れること……なのかも知れないな」
サナの問いが続く
「でも冥府のパトラもウルクのギル=メシュも運命なんて信じるとは思えないよ?」
ソウタは何も答えられなかった。
風が冷たい夜だった。
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