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ロストアナザーワールド  作者: 洋稿史
第一章 【もう一つの世界】
22/25

第一章22 アルカディシア「記憶回帰」


 ギルドの大広間を突き破って停車したレイヤードの超特急号を前にエリスが涙を浮かべて駆けつけた。アゲナが眠りから覚めないゼロと星汰を抱きかかえて列車から降ろし。他の各々が重たい足取りで大広間に座り込んだ。各自エリスが用意していた水を瞬く間に飲み干していく。


「ご無事で――みなさん、本当に……」

「俺は大丈夫だ。他の奴らを見てやってくれ」

 

 セルの言葉を受けてエリスは再び周りを見渡した。レナードの憔悴しきった様子。ルバートとかざきりもダメージを負い、クロウと星汰は意識を失っている。


「それで……絵吏、エリスと瓜二つの……もそうだけどよ、お前とそっくりの、星汰」

 

 ろれつの回らないルバートが気怠げに息を深く吐いた。

 エリスが絵吏の元へ駆け寄る。目元は涙で腫れているも、清々しい表情を浮かべていた。空のグラスに水を灌ぐ。並んだ二人の顔はまるで双子のようだ。


「こればっかりは驚きましたわね」

「まさかこのようなことがあるとは世界は広い」

 

 レナードに続いてかざきりが驚嘆する。


「もう一人の俺がそこで眠っているように、この二人は別の世界の住人だ。現に俺がバベルで消えた後、俺はもう一つの世界に居た。そこでエリスに瓜二つのの少女、そこに居る絵吏に会った」

 

 セルはつい先日、違う世界に居たことを思い出す。短い時間ではあるが、それは鮮明に記憶に焼き付いていた。

 レナード以外のギルドメンバーは信じ切ることができない様子だった。


「まあまあ、記憶共有(ワールドコンタクト)すればてっとり早いじゃないかしら」。

「それもそうだな。だがもしそれが本当なら、もう一人の俺か……」

「ちっ、アホが、アホが、阿呆が!」

「なんだと?」

 

 喧嘩を始める二人の様子にセルが溜息を吐く。


「レナード記憶干渉能力(メモリー)は使えるか?」

「ええ、戦闘で体は疲労してますけど、記憶共有(ワールドコンタクト)は問題ありません」

「よし」


 セルの元へレナードが歩み寄る。レナードの背中にセルが手をあて、レナードがかざきりとルバートの前へ両手を広げた。


「エリスはいいのかよ」

 

 ルバートの言葉にセルがエリスを見た。


「ああ、既に大方説明してある。それに、お前らと違って共有をせずとも話を理解しているだろう」

 

 セルの言葉にかざきりがむっと表情を浮かべる。


「お言葉ですがセル様……その、お前らというのは、そこのアホはともかく、私は」

「ああ? あほなのはおまえだろーが」

「一緒にされるほど私はお前より物わかりが悪くない殺すぞ!」

「二人とも集中しなし!」

 

 いがみ合う二人にレナードが渇を入れる。


「冗談だ。別にお前らの物わかりが悪いとは言わないが、かざきり、特にお前は納得してない様子だったからな。記憶を見た方が早いだろう」


 セルの言葉にかざきりが図星と言わないばかりに、うっ、と、声を漏らした。


「ふっ、ほれみろ堅物神経質」

「ルバートお前もだ」

「俺も? おいおい、この堅物と同じにして貰っちゃ困るぜ」

「クソアホは黙れ殺す」

「誰がクソアホだ、堅物神経質」

「あ?」

「やんのか」


 睨み合う二人にセルが溜息を吐いた。


「お前らそのくらいにしといた方がいいぞ」

 

 二人がセルの方を向くと、そこには怒りを抑えるレナードの姿があった。


「ひいっ」


 思わず声をあげるかざきり。


「あなたたち、いい加減にしなし、これ以上セル様に時間をとらせるならあなたたちの記憶にそれなりの教育を施しますわよ」

 

 ルバートとかざきりが静かに黙り込んだ。


 レナードが再び両手を前に掲げると、ルバートとかざきりが手のひらに頭をくっつけた。セルガレナードの背中に手をあてるとそこから黄緑の光が内側へとひかる。


記憶共有(ワールドコンタクト)

 

 レナードの言葉を合図に光が二人に流れ込む。三人は意識の内へと中へ入り込んだ。

その様子を絵吏が星汰の側で目を細めて眺めていた。


「絵吏さん……」

 

 側で声をかけられ、少し緊張した様子で絵吏は顔を見上げた。

 申し訳なさそうな目をして自分とそっくりの少女の顔が映った。エリスはすぐに目を逸らす。


「無事に戻ってきてくれて、他のみんなも、ご無事で、本当に、ありがとうございます」


 泣き出しそうなエリスを前に絵吏もまた涙を浮かべる。それから優しく微笑んだ。


「私は何も……みんな無事でよかったね」

「……はい」

「ふふ、絵吏でいいわよ」

「……?」

「その代わり、私もエリス。って呼んでいい?」

「それは構いませんが」

「あと、その敬語は抜けないの?」

「はい、抜けません」

「んーそれなら仕方ないか、でも、あたしと話す時はもっと同じように話していいからね?」

「……はい」


 言葉数は少ないがエリスの表情には初めてあった時のような緊張感は無くなっていた。

 エリスが顔を逸らして口を開く。


「その、……絵、吏、…………ゃん……」

 

 絵吏はそのままエリスを抱きしめようと飛びつこうとするが、、鎧を着ている為それができずに奇妙なポーズで悶えていた。


「うううん、ああっ、もうこの鎧が……ってあーーー!」

 

 頭を抱えて叫びを上げる絵吏にエリスは驚いた。

 絵吏は言葉を失って目を開いた、しばらくしてキョロキョロし始めると、エリスに向かって小声になる。


「お願いがあるんだけど――今すぐ!! お風呂に入りたい!」


 必死な目をした絵吏にエリスは黙って頷いた。


 

 レナードはセルが絵吏の世界に居た時の記憶をルバートとかざきりに移すと同時に、セルの方へ、二人の記憶を移していた。全てが完了すると、三人はゆっくりと目を開いた。


「これまじで本当だな」

「セル様に失礼だぞ、殺す」

「信じようにも決して容易なことではない、俺もあちらの世界で混乱した」

 

 二人は頭に流れ込んだ記憶を確かめる。セルはルバートとかざきりから受け取った記憶から、入れ替わるようにここへきた少年が星汰であると証拠を得た。


「エリスに星汰の治療を頼もうと思っていたんだが」

 

 先程までいたエリスの姿が見あたらない。同じく絵吏の姿も見あたらなかった。


「そういやどこに行ったんだ?」

「二人して、どこか走って行かれましたわよ。恐らくお風呂じゃないかと」

「とりあえず俺たちも休もう。話はそれからだ。星汰は俺が見ておく、エリスが湯を張ってくれているだろうからお前達は先に傷を癒してこい」

「そんな、見ておくのは私が、セル様の方こそお先にお体を」

「……だが無事帰って来られたのは、お前達のおかげだ……礼を、言う。構わず先に行ってくれ」


 セルはそう言うと、星汰の側へ腰を下ろした。どことなく顔を顰めていた。


「セル……様。これは……夢?」

「おーいしっかりしろレナードー!」


 意識を失いそうなレナードに慌ててルバートが声をかける。


「セル様がそうおっしゃってくださるなら」

「そうだ、こんなセルの言葉、滅多に無いぜ」

 

 かざきりの言葉にルバートが笑うと、セルは黙って目を瞑り少しだけ微笑んだ。そこには疲労の様子が少しだけ伺える。もちろんそれは消して表情に出さないセルによって隠されていたが、それを見たルバートが続けて言う。


「俺もどうせならセルと一緒に入るし、ここはレディファーストってことで」

 

 ルバートはセルに一緒に行けと言われないか少し不安だったが、こちらを見て何も言わないセルの視線を受けて安心した。


「きも死ね」

「っ、うるせえな! 一応女扱いしてやってんだからありがたく思え!」

「貴様に女扱いされてなんになるんだバカかこのアホが」

「てめえええ」

 三度始まった言い争いにセルとレナードは深く溜息を吐いた。



「待ってください」

 

 手を引っ張られるエリスは先を急ぐ絵吏に息を切らして言った。

 二人は大浴場へと続く廊下を走っていた。

 お風呂に入りたいと懇願する絵吏にエリスが大浴場へと案内するはずが、気が付けば手を引かれているのはエリスの方だった。

 

 俯いた絵吏の気分の晴れない様子からエリスが口を開く。


「安心してください。私の力を使えばすぐに完治……させることができますよ」

「そうなの?」

「はい、それにはセル様の許可が出ないとできませんが……ただ……」

 

 絵吏は自分の身勝手でエリスを連れ出してしまったのではないかと反省した。


「大丈夫です。その必要があればセル様はまず私に指示を出したでしょうし、それが無かったということは…………まだ必要ではないということです。それに」

「それに?」

「お気になさらずとも湯には体を癒す傷癒石の成分が含まれていますから、絵吏さんの傷を癒すのも優先すべきことです」

 

 エリスの言葉に絵吏は泣きそうなくらい嬉しい顔を浮かべていた。


「あの……」

「早く行こうっ」

「えっ、ひゃあっ」

 

 二人は再び走りだすと、あっという間に大浴場へと突き当たった。


「何か着替えを用意して貰ってもいい?」

「はい。そう思いまして絵吏さんのは一応そろえておきました」

「エリス、あなた、なんというか素晴らしいのね」

「……? もしお気に召されなければ他にも間に合わせのものならありますから」

「大丈夫っ」


 鎧を外そうとする絵吏にエリスが手を伸ばす。


「あの……そのちょっと言いずらいんだけど」

「はい?」

「できたら、お風呂に入ってしばらくするまで離れててもらってもー……いいかな?」

「……? ごめんなさい。なにか失礼がございましたか」

「いやいやいや違うの! ちょっとー……うまく言えないんだけど、とにかく! 事情があって、少し離れてて貰ってもいい? できたら鼻を摘んでくれるとうれしいなんて」

「……?」


 最後の小声の言葉がエリスは聞こえず首を傾げる。


「わああ、全然あなたが失礼とかじゃないのよ、私の方に問題があってーその……」

「わかりました」

 

 エリスはそう言うと入り口の近くでそっと見守った。

 絵吏は鎧を外そうと必死に手を動かす。その様子をエリスが心配そうに見守っていた。


「服は私が洗いますのでその場に置いていただければ……」


 鎧を脱ぎ、身につけている服に手をかけようとしていた絵吏が動きを止めた。


「大丈夫。ついでだから中で洗うよー」

「いえ、そんなお手を煩わせるようなことは」

「ごめんエリス、どうしても自分の手で洗って返したいの。ちなみにこの服って、誰の服?」

「ええと、服は誰のというわけではありませんが……」

 

 エリスの答えに絵吏はほっと息を吐く。


「管理しているのは私なので、私の物ではあるのでしょうか……?」

「その、なんか、ごめん……」

「……どうなさったんですか?」

 

 涙ぐむ絵吏は申し訳ない気持ちいっぱいで服を脱いだ。脱いだ服を抱え大浴場の方へ走る。


「あのっ……鎧も持って入るんですか? あと靴も……」

 

 エリスに声をかけられ、びくっ、と動きを止める絵吏、苦笑いを浮かべてエリスの方へ向いた。


「駄目?」

「いえ、駄目ということはありませんが……」

「それじゃあ少しの間覗かないでね?」

「わかりました」

 

 疑問を浮かべる少女の視線を無碍に絵吏は大浴場へと走っていった。

 しばらくすると、大浴場の方から絵吏が一仕事終えた表情で顔を覗かせる。


「もう大丈夫。エリスは入らないの?」

「ええっと、私はその、特に今入る必要も無いのですが……」

 

 じーっと視線を向けられるエリスは目を逸らしながら言った。


「よろしければお背中を流させていただこうかと……」


 顔を赤めるエリスに絵吏はガッツポーズをする。

 絵吏に見守られながら、エリスが衣服を脱いでいく。

 裸に大きなタオルで体を隠して入ってくるエリスに絵吏が抱きついた。


「きゃああっ」


 悲鳴を上げるエリスは困惑して絵吏の顔を見た。


「あのっ、えっ、なっ、何してっ」


 絵吏の方を向こうにも頬を押しつけられていて動かせない。体が密着し合い身動きもとれない。


「ずぅーっとこうしたかったの。鎧が邪魔でできなくて」

「いっ、意味がわかりませんっ」


 顔を赤めて目を瞑りうずくまるエリスは必死に声を紡いだ。


「意味がわからない? ならもっと抱きしめちゃおっ」

「…………」


 そのまま絵吏はエリスを浴槽に連れ込み、抱きついたまま広い浴槽いっぱいに貯まった湯に浸かった。


「あのっ、体も流さずに」

「いいじゃん後で流せば」

「そのっ、離れてくだ――きゃっ」

「いいじゃん後で離れれば」

「あのっ、あのっ」

「もう可愛いなぁー」


 びくっと体を震わせてエリスは声を上げる。それがしばらく続いた後で、二人は浴槽から出た。エリスが絵吏の体を流すはずが、絵吏に体を流されていた。浴場に何度もエリスの悲鳴と絵吏の満足そうな声が響きわたると二人は再び湯に浸かった。


「いい加減離れてくれませんか?」

「だぁーめっ」

「……」

 

 完全にむっとした表情になっていたエリス、絵吏はお構いなしに膨らんだほっぺたを自分のほっぺたをくっつける。


「エリス! なにをしていますのっ、鎧に服に散らかしっぱなしで」

「レ、レナード様っこれはそのっ」

「ほーらっ、離れちゃだーめ」


 目の前の光景にレナードは短く溜息を吐いた。


「そういうことですの、まあなんというか同じ外見でも、中身は別人ということですか」


 レナードは勝手に自己完結させると半目のまま洗い場の方へ向かった。


「ったーー! 誰だこんなところに鎧を置いた奴はー!」


 着替え場の方で声が聞こえると程なくして、かざきりが姿を現した。


「ったく、鎧のせいで足を」

 

 申し訳なさそうに湯に浸かる絵吏を見て、かざきりは黙る。


「いや、まあたまにある、しな、鎧くらいたまに脱ぎ捨ててあるな」

 

 かざきりは絵吏に聞こえるようにぎこちなく言った。絵吏がそれを聞いて湯船から勢いよく飛び出した。


「ななっ、なんだ」

「ごめんなさい。鎧は私のです」

「そっ、そうか、まあ別にどうって」

「お詫びに背中を流します」

「そうそう背中を、へ?」

「いえ、流させてください!」

「は? いや、いい。って、ちょ、ええ!」


 その後かざきりの悲鳴が浴場に響き渡ると、かざきりとレナードを加えて再び絵吏は湯船に浸かった。


「それで、これは一体どういうことですの」

 

 レナードの言葉に誰も答えない。


「だから、どうしてあなたはそんなに馴れ馴れしく接しているのですか」

 

 その言葉に周りの三人が納得した。しかし、同時に絵吏は疑問を浮かべた。


「なれ、馴れ馴れしい?」

「ええ、もっと厳粛に静粛に、己をわきまえてください! セル様に対してあのような態度、行為、忌々しい小娘め」


 レナードが歯を食いしばって一人で呟いた。


「身分をわきまえろってこと? 星汰は様って付けて呼んでたのに……聞き間違いじゃなければ小娘って言われたような」


「そうは言っていませんかしら。つまりあなたの世界がどうであれ、今ここは私たちの世界なのです。だから」

「なるほど~」

 

 湯舟に浸かり目を瞑る絵吏を見て歯を食いしばるレナードが首をがくっと落とす。


「まあいいですわ、とにかくそのような態度でセル様と」

「ねえ、なんでレナードちゃんはセルの時とあたしでそんなに扱いが違うのー?」

「カッ!」

「か?」


 衝撃を受けたように浴槽に浸かろうとしたレナードが再び直立して絵吏に目を見開く。両端の二人も言葉を失っている。


「あれ? 私何かまずいこと言った?」


 絵吏は苦笑いでレナードを見た。


「レナードっ! ちゃん‼」

 

 レナードが目を見開いて絵吏の先程の言葉を復唱した。しかし、そこには言葉にできない怒りが込められていた。


「え、もしかしてまずかった?」

 

 絵吏が小声でエリスに訪ねる。


「少々まずいかと……」

「ねえ、これってやばかった?」


 絵吏が小声でかざきりに訪ねる。


「わわわわわわたしは知らんっ、ちゃん付けで呼ぶなんて、大地が砕けるぞ――レナード様の齢は三百を超えて」

「三百っー⁉」

 

 かざきりの言葉に恐る恐るレナードの方を見る絵吏。そこにはありえないほど目を見開いたレナードが硬直していた。


「そっ、そろそろ上がろうかなー」

 

 腰を上げようとする絵吏に隣の二人も恐る恐る腰を上げようとする。


「もう少し浸かるかしら、絵吏とそこの二人も」

「ひっ」


 腕を捕まれた絵吏が思わず声を出す。真横でレナードが満面の笑みを向けていた。


「いや、でも、そろそろのぼせて……」

「いいかしら?」

 

 握られた腕にぎゅっと強い力が込められる。レナードの目が笑っていない笑顔に絵吏は再び湯船に浸かった。



 しばらくしてエリスとかざきり、そして絵吏が戻ってきた。


「どうしたー遅かったなー」

 

 火照った顔の三人にルバートが声をかけた。三人ともなにやら疲れた様子だった。


「すいませんセル様」

 

 かざきりが謝罪する。


「……構わないが、何かあったのか」

 

 その言葉に三人とも溜息を吐いた。


「それがね。聞いてよセル」

「セル……ッ‼」


 同時にレナードの眉がピクリと動いて絵吏を睨みつける。


「あたしがレナード様のことをレナードちゃん。って呼んじゃって、ずぅーっと湯船に浸からされて説教されたのよ! おかげでもう、のぼせそう……」


 原因を聞いたセルは苦笑いを浮かべた。


「レナードっ、ちゃん。ぶっ、はははははははははっ、は?」

 

 お腹を押さえるルバートにその場の全員が冷ややかな視線を送る。それに気が付いたルバート、だがしかし時はすでに遅い。


「愚かとしかいえん」

 

 呆れる様子もなくかざきりがルバートに向かって言った。ルバートの背後に拳をかざしたレナードが真顔で立っていた。


 ルバートの悲鳴が響きわたった後で、セルがエリスに声をかける。


「星汰に記憶干渉能力(メモリー)を――」

 

 エリスは静かに頷いた。星汰の元へと歩み寄るエリス。


「ねえ、何するの?」絵吏の問にセルは答えない。


 セルの背後でレナードがセルと記憶接続(ワールドコネクト)をして言葉を交わす。


 ――セル様……姉さまに喰われた記憶はエリスの治癒ではどうすることもできません。

 ――そうだとしても、可能性があるなら……。


 星汰の首筋へ咬みついたエリスの瞳が赤く光る。


記憶回帰(イービルヒール)

 

 しばらく俯いたままのエリスがゆっくりと顔を上げた。


「ここ………は?」星汰がエリスの顔を見つめて言った。「絵――吏、ちゃん?」

 

 星汰の言葉にエリスが顔を上げた。


「絵吏さん、星汰さんが呼んでいます」

 

 エリスはそう言うと立ち上がって、絵吏と入れ違いにセルの傍へ歩み寄る。


「星汰……」


 起き上がった星汰を絵吏が抱きしめる。


「星汰、星汰っ!」

 

 泣きじゃくる絵吏に手を回し、そっと星汰が抱きしめた。


「心配したんだからっ! ……もうあんな危ない真似しちゃだめだよ」

「絵吏ちゃん………――ごめん。」


 星汰の頬にも一筋の涙が流れていた。


「それで………聞きたいことが、ある…………」

 

 星汰の言葉に泣き顔で目を腫らした絵吏が顔を上げる。


「てっきりここは死んだ後の世界だと思ってたんだけど、違うよね?」

 

 星汰の視線はセル達の方へと向けられる。


「そうじゃないと困る。もし、死後の世界だったら、絵吏ちゃんがここに居ていいわけがないから」


 真っ直ぐな瞳で見つめる星汰に、絵吏は涙を浮かべるも眉を寄せて必死に堪えた。


「それは星汰も同じなんだけど」

「……ごめん」

「ここはもう一つの世界だ。そちらの世界をもう一つとするかは決められんが、二つの世界は繋がっている」


 セルの言葉に少しだけ笑って星汰は口を開く。


「……バベル八十七階層の大穴……そこから戻ることができる?」


「ああ、戻れる」


 セルの言葉には、何一つ迷いは無かった。


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