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最弱陰陽師は、自分にかけた呪いとまだ向き合えていない  作者: ふみよ
4部(思ひ染む 逆さ芙蓉の 鬼子母神編)

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【思ひ染む 逆さ芙蓉の 鬼子母神】15

簡単あらすじ

狐輪教の本拠地で狐白に導かれた八雲は、キイチに再会する。キイチは、人が変わったかのように冷酷な態度で八雲に問いかける。『どうして古御門八雲になったのか』と。

そんなキイチに、十二神晶のひとつである霜月、氷狼を奪われてしまった八雲は……?




 氷狼は、低い唸り声を上げながら八雲(やくも)を見下ろしている。

 通常、陰陽師と主従関係を結んだ式神は、主に歯向かうことはできない。それは十二神晶であっても同じこと。

 不可能なはずなのだ。


「ガァアッ!!」


 卯月の結界が、氷のブレスを弾く。光の壁越しでも、体の芯まで凍りつきそうな寒さが八雲を襲った。


「……酔わせろ、弥生」


 八雲が再度命じる。命令に応じて出現したのは、赤い衣を纏った虎。その体からは甘い花の香りが立ち上り、対象者の神経を和らげる。それは、軽く酔わされたような感覚に近い。

 痛覚を麻痺させることで、受けたダメージが軽減する。弥生の力は多岐にわたるが、今回は防御に全振りした。


「揺らせ、葉月」


 続けて命じると、結界の外に羊が飛び出した。それは次々に増殖し、群れを形成して氷狼へと突進していく。

 キイチは、涼しげな青い瞳を瞬いた。風もないのに、ふわり、と白い髪が靡く。

 羊の群れに向かって、両手の親指と人差し指を使い、カメラで撮影するかのような形を取った。


「剥がしてあげる……文月」


 その言葉と共に、八雲の体から一瞬力が抜ける。弥生の力を持ってしても、耐え難いほどの脱力感。

 結界の外側で、キイチの傍には白馬が佇んでいた。

 知恵の式神、文月。八雲が支配していたはずの十二神晶がそこにいる。


「それから……」


 キイチの青い瞳が、八雲を映す。力を失いかけた、偽りの当主代理へと。


「おいで、弥生と葉月も」


 青い炎に包まれた虎と羊は、それぞれ八雲の傍を離れ、キイチの足元へとかしずいた。


 ありえない。


 十二神晶が、ことごとく主を乗り換えたことも。これまで、戦闘経験すらなかったキイチが、自分で考え、行動し、八雲を追い詰めていることも。


「もう八雲じゃ、ボクに勝てない」


 キイチの呟きは、まるで死刑宣告のように聞こえる。


「ちッ……」


 卯月の壁が破られるよりも前に、印を結んで顕現させたのは、十二神晶の睦月。白ねずみの姿をした、複数型の式神だ。

 睦月は、キイチの周囲に光の柱を何本も突きたてる。青い炎の威力を弱め、塞ぐ算段だった。


「無駄なのに」


 キイチは、ふーっと静かなため息をついて白い指を伸ばす。

 青い炎はそれらを飴細工のように溶かし、睦月までも取り込んでしまった。


 古御門の至宝、十二神晶。理論上、誰も扱うことは出来ない式神。しかし、八雲には使役することができる。

 陰陽師12人分の霊力を必要とする式神を調伏できるのは、体内で無尽蔵に霊力を作り出せる狐衾だけのはず。

 鬼道の血──あるいは、八雲も知らない別の力が、それを可能にしているのかもしれない。


「辛そうですね」


 尾崎狐白(おさきこはく)は、そんな2人の戦いを、慈愛に満ちた眼差しで見つめている。八雲は、両手を地面についたまま荒い呼吸を繰り返していた。

 体が重い。底なしのはずの霊力が、尽きかけている。


鬼道椋(きどうむく)さんに傷をつけられていたでしょう? あの呪具には術を防ぐ効果もありますが……霊力を奪う効果もあるんです。気づいていましたか?」


 狐白が言った。

 八雲の脳裏によぎるのは、薙刀使いの麗人の姿。やってくれたな、と奥歯を噛み締めて毒づくが、その苛立ちをぶつけられる相手はここにいない。

 ごぼごぼ、と音を立てて地面から青い炎に包まれた巨大な両手が、まるで鳥かごのようにキイチの体を包み込んでいく。


「……キイチをッ……連れていくな!」


 執念にも近い叫びとともに、八雲が手を伸ばす。

 少しだけでいい。十二神晶の権限を自分に移すことができれば。


「揺ら、せ……葉月ッ!」


 残された霊力を使って八雲が叫んだ。

 八雲との僅かな繋がりで、キイチの傍にいる葉月が反応する。羊たちが、モコモコと細胞分裂をするように増殖し始めた。


「……!」


 防御の遅れたキイチが、僅かに目を見張る。八雲の狙いは、キイチではない。


「死ね、尾崎狐白ッ!!」


 キイチを狂わせた元凶にして、邪教の主。彼を殺せばすべて解決する。幸い、狐白は丸腰だ。最初からこうしておけばよかった。

 そのまま、踏み潰されて死んでしまえ。


 羊たちが狐白を飲み込む瞬間、その身体は青い炎によって一瞬で消え去った。まるで自分から火に飛び込んだようにも見える。

 しん、と静まったホールの中で、キイチがぽつりと言った。


「本当に……馬鹿だよね、八雲は。ボクを狙えば良かったのに」


 呆れたような、彼を憐れむような声色。

 次の瞬間、羊を飲み込んだ炎から、無数の棘が飛び出す。

 それは、青い流星のように八雲の体を貫いた。


「ぐッ!」


 青い炎の棘が、八雲の体に焼けるような激痛を引き起こす。傷口から、金色の光がこぼれ、キイチの体へと流れ込んでいった。

 権限が、失われる。これまで古御門八雲を形作っていたものが吸い取られ、消えていく。


(ここで、終わる……)


 死が、近づいている。それを悟って、八雲の口元に微かな笑みが浮かんだ。

 悪くない。彼は、ずっと死に場所を探していたのだ。

 唯一の心残りは、最後の尾崎の血筋である狐白を殺せなかったこと。だが、それもきっと、いずれ他の陰陽師たちが処理してくれることだろう。


(今日は……疲れた、な……)


 指一本すら動かせない、心地いい疲労感。

 久しぶりに、ゆっくり眠れそうだ。ずっと、長い道を走り続けていた気がする。最近は仕事続きで、満足に睡眠が取れていなかったから、余計にそう感じた。

 目が覚めたら、キイチと一緒にホットケーキを焼こう。あの子はひとりで料理すら出来ないのだから。フライパンの扱いを間違えて、火傷でもしたら大変だ……。


 それが、教育係であり、兄代わりとして生かされてきた彼の役目。今までも、これからも、ずっと。

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