第99章 届くまでの時間
木曜日の放課後。
悠真が《クロスギア》に接続すると、ロビーの掲示板に新しい任務が追加されていた。
【期間限定任務:補給路の点検】
【目的:指定地点まで点検用機材を運搬する】
【追加条件:道路状況の記録】
【推奨人数:1~3人】
悠真は任務の詳細を開いた。
配送先は、森林集落から北へ進んだ場所にある補給路の管理所だった。旧設備管理路とは別の地域で、任務説明にも特別な関連性は書かれていない。
「今日はこれにしない?」
悠真がKAIとRIONに提案した。
【KAI:いいよ】
【RION:道路状況の記録が追加条件か。普通の輸送任務より少し手間がかかりそうだね】
三人は機材を積んだ車両を受け取り、出発した。
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最初の区間は順調だった。
道幅は広く、見通しもよい。途中の分岐点には案内標識があり、車両の進行方向に問題はなかった。
しかし、二つ目の区間に入ると、道路の端に小さな亀裂がいくつも見つかった。
車両の速度を落とし、悠真は道路情報を記録した。
【道路状態:部分的な損傷】
【通行可否:通行可能】
【推奨対応:補修班への報告】
「ここ、通れないほどじゃないけど、放っておいたら広がるかもしれないね」
RIONが路面を確認した。
「車両を止めて、全部調べる必要はあるかな?」
KAIが尋ねた。
悠真は任務の条件を見直した。
目的は道路の完全な修復ではなく、指定地点への機材運搬と道路状況の記録だ。
「今は記録だけにしよう。補修が必要なら、報告を受けたNPCが判断するはずだよ」
三人は損傷の位置と範囲を記録し、車両を再び走らせた。
その後も、道路脇で古い標識の傾きや排水溝の詰まりを確認した。
どれも直ちに通行を止めるほどではなかったが、管理所へ伝える価値のある情報だった。
目的地に到着すると、NPCの管理員が機材を受け取った。
【機材搬入:完了】
【道路情報:記録済み】
【追加条件:達成】
【任務評価:S】
「運ぶだけじゃなくて、途中の状態も確認するんだね」
悠真が言うと、RIONが答えた。
「道路は、誰かが使っている間にも変わっていくからね。壊れてから直すだけじゃなくて、壊れ始めた段階で気づくことにも意味があるんだと思う」
悠真は記録を保存した。
その考え方は、以前の輸送任務にも少し似ていた。
道が通れるかどうかだけでなく、どんな状態で通れるのか。それを知っていれば、次の判断が変わることもある。
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任務を終えた三人は、森林集落へ戻った。
悠真はそのまま旧設備管理路へ向かったが、入口の表示に大きな変化はなかった。
【旧設備管理路・東側区画】
【補強範囲:算定完了】
【必要資材:確認済み】
【資材手配:進行中】
【搬入予定:未確定】
【通路開放:未定】
現地では、補修班が作業場所の周囲を整理していた。
昨日まで置かれていた道具の一部が移動し、資材を仮置きするための区画が設けられている。
ただし、肝心の補強資材はまだ届いていなかった。
「作業の準備は進んでいるみたいだね」
KAIが周囲を見た。
「うん。でも、準備が終わったからって、すぐに補修できるわけじゃない」
悠真は補修班の責任者に話しかけた。
「資材の搬入予定は、まだ決まっていないんですか?」
「いくつかの補給拠点と調整しているところだ。必要な資材を一か所から全部そろえるのは難しいからな」
「別々の場所から届くんですか?」
「その予定だ。だが、到着する順番によっては、保管場所や運搬の手順を変える必要もある」
責任者は、資材の一覧を確認した。
「届いたものから使えばいい、という単純な話でもない。現場で必要な順番があるからな」
悠真は頷いた。
ゲームの任務では、目的地に到着すれば評価が出ることが多い。
しかし、こうした作業では、必要なものがそろうまでの準備も仕事の一部だった。
「俺たちが手伝えることはありますか?」
「今は大丈夫だ。搬入の日程が決まれば、運搬の依頼を出すかもしれない」
三人は無理に仕事を探さず、その場を離れた。
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ロビーに戻る途中、悠真は装備研究の掲示板を開いた。
最近使っている中距離用の武器について、調整案がいくつか投稿されていた。攻撃力を高める代わりに、連射後の冷却時間が長くなる構成と、威力を抑えて安定性を上げる構成がある。
悠真は訓練用の小型標的を相手に、それぞれの構成を試した。
最初の構成では、短時間に大きなダメージを与えられた。しかし、敵が移動すると、冷却時間のために攻撃を続けられない場面があった。
二つ目の構成は一撃ごとの威力こそ低かったが、狙いを修正しながら攻撃を続けやすかった。
「どっちが強いんだろう」
悠真がつぶやくと、KAIが答えた。
「相手によるんじゃないか。動かない敵なら最初の構成でもいいけど、動き回る相手なら二つ目の方が使いやすいかもしれない」
RIONも意見を加えた。
「武器だけで決まるわけでもないよ。味方が敵の動きを止めてくれるなら、冷却時間の長さも補えるからね」
悠真は二つ目の構成を保存し、最初の構成も削除せずに残した。
どちらか一方を正解にする必要はなかった。
使う場面が違えば、選択も変わる。
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運営側では、その日の任務記録が整理されていた。
補給路の点検任務では、プレイヤーが報告した損傷箇所に対して、NPCの道路管理班が後続の確認作業を割り当て始めていた。
一方、旧設備管理路の補修計画は、依然として資材の手配段階にある。
両者は別々の地域情報として記録され、直接的な関連づけは行われなかった。
旧設備管理路の空洞についても、新たな構造や用途を示す情報は得られていない。
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夜、悠真は母親に今日の任務について話した。
「道路の点検を手伝ったんだ。通れないほどじゃなくても、壊れかけている場所を記録するんだよ」
「そういう仕事もあるのね」
「うん。直す人と、異常を見つける人は、同じじゃなくてもいいんだと思う」
母親は少し考えてから、言った。
「何か問題が起きたとき、全員が同じことをする必要はないものね」
悠真は頷いた。
「それぞれが分かることを記録して、必要な人に伝えれば、次の作業につながるから」
話を終えると、悠真は翌日の学校の準備をした。
旧設備管理路の補修資材は、まだ届いていない。
いつ搬入されるのかも、通路がいつ開くのかも分からない。
それでも、現場では準備が続いていた。
悠真は端末を充電器につなぎ、布団に入った。
明日になれば、何か新しい通知が届いているかもしれない。
届いていなければ、そのときは別の任務を探せばいい。
ゲームの世界は、ひとつの場所が動かないからといって、すべてが止まるわけではなかった。




