第100章 変わっていく場所
金曜日の放課後。
悠真が《クロスギア》に接続すると、ロビーのオンライン人数は二十万人を少し上回っていた。
掲示板には、週末のランキング戦に向けた募集や、装備構成の検証結果が並んでいる。新しい大型イベントの告知はなかったが、通常任務の種類は少しずつ増えていた。
悠真はKAIとRIONに声をかけた。
【YUMA:今日はランキング戦をやらない?】
【KAI:いいよ。昨日の装備、試してみるか?】
【RION:その前に一度、普通の任務で動きを確認してもいいと思う】
悠真は昨日保存した中距離用の武器構成を確認した。
「じゃあ、先に護衛任務をやって、そのあとランキング戦にしよう」
三人は森林集落の任務掲示板を開いた。
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今回の任務は、集落から東の採掘拠点へ工具と交換部品を運ぶものだった。
依頼内容には、途中の作業地点でNPCの整備班が道路の点検を行うため、必要に応じて待機するよう記されている。
「待機することも任務の条件なんだね」
悠真が説明を読む。
KAIは車両の積み荷を確認した。
「作業中に無理に通ろうとしたら、かえって危ないんだろう」
三人は車両を受け取り、採掘拠点へ向かった。
途中の道路では、NPCの整備班が路肩に集まり、排水設備を調べていた。作業用の車両が道路の半分を占めており、一般の輸送車両は通過できない状態だった。
【道路作業中】
【通行制限:一時停止】
【再開条件:作業責任者の確認】
悠真たちは車両を安全な場所に停めた。
「どのくらいかかるんだろう」
悠真が作業員に尋ねると、整備班の責任者は排水設備を確認しながら答えた。
「内部に詰まりがあるようだ。取り除いてから、水の流れを確認する。終わるまで少し待ってくれ」
三人は了承した。
待っている間、悠真は周囲を見回した。
道路脇には、取り外された部品や工具が整然と並べられている。作業員たちは必要なものを順番に使い、確認が終わったものから片づけていた。
やがて、排水設備の詰まりが取り除かれた。
責任者が水の流れを確認し、道路の安全を確かめると、通行制限が解除された。
【道路作業:完了】
【通行制限:解除】
車両は再び動き始めた。
採掘拠点への配送は予定より遅れたものの、工具と交換部品は無事に届けられた。
【任務評価:A】
「時間はかかったけど、失敗じゃないね」
悠真が言った。
「作業が終わるのを待ったから、余計な問題も起きなかった」
RIONが答えた。
悠真は任務記録を保存した。
予定通りに進むことだけが、任務の成功ではない。
状況が変わったときに、それに合わせて進めることも必要だった。
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三人はロビーへ戻り、ランキング戦の募集に参加した。
今回のルールは三対三。相手チームより先に規定ポイントを獲得するか、制限時間終了時にポイントが上回っていれば勝利となる。
試合開始と同時に、相手チームの一人が中央の目標地点へ向かった。
KAIは前線を押し上げ、RIONは後方から射撃できる位置を探す。
悠真は中央へ進みながら、相手の残り二人の動きを確認した。
一人はKAIの進路を塞ぎ、もう一人は悠真の右側へ回り込もうとしている。
悠真はすぐに迎撃しようとしたが、昨日試した武器の冷却時間が頭をよぎった。
ここで攻撃を急げば、敵の移動に合わせて狙いを修正する余裕がなくなるかもしれない。
悠真は一歩下がり、相手が遮蔽物から出てくる瞬間を待った。
敵が射線に入る。
悠真は短い連射を行い、敵の移動先を塞いだ。
その隙に、RIONが中央の目標地点を確保した。
しかし、KAIの前にいた敵は正面からの攻撃を避け、反対側へ回り込んでくる。
「右から来る!」
悠真が叫んだ。
KAIはすぐに向きを変えたが、敵の攻撃を受けて体勢を崩した。
悠真は援護に向かおうとしたものの、中央の目標地点を離れれば、もう一人の敵に奪われる可能性がある。
一瞬だけ迷った。
「RION、中央を頼む。俺がKAIを援護する!」
悠真は目標地点から離れ、KAIの近くへ移動した。
二人で敵を押し返すことには成功したが、その間に中央を奪われた。
残り時間が少なくなる。
「ポイント差が縮まらない!」
RIONが状況を伝えた。
悠真たちは反撃を試みたが、相手チームは中央を守りながら、無理に追撃してこなかった。
試合終了。
【試合結果:敗北】
【獲得ポイント:相手チームが上回る】
悠真はリザルト画面を見つめた。
KAIは攻撃を受けたものの、最後まで戦い続けていた。RIONも射撃位置を変えながら、中央の維持を試みていた。
誰か一人の失敗だけで負けたわけではない。
「俺がKAIを助けに行ったとき、中央を取られる可能性は分かっていたんだ」
悠真が言った。
「でも、あのまま放っておいたら、俺がやられていたかもしれない」
KAIは責める様子もなく答えた。
「だから、どっちを優先するかの判断だったんだろ」
「うん。問題は、その判断をしたあと、どうやって中央を取り返すかを考えていなかったことかもしれない」
RIONは試合記録を開いた。
「相手は中央を奪ったあと、追撃せずに守りを固めた。僕たちがKAIを助けること自体は、間違いだったとは言い切れない。でも、相手がどう動くかまで考えられていなかった」
悠真は試合の映像を保存した。
負けた理由は一つではない。
次に同じ状況になったとき、同じ選択をするかどうかも、まだ決める必要はなかった。
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休憩を挟んだあと、悠真は旧設備管理路の情報を確認した。
表示には、昨日とほぼ同じ内容が並んでいた。
【旧設備管理路・東側区画】
【補強範囲:算定完了】
【必要資材:確認済み】
【資材手配:進行中】
【搬入予定:未確定】
【通路開放:未定】
現地では、作業員たちが補修区画の整理を続けていた。
資材を置く場所には目印が追加され、運搬車両が入るための経路も確保されている。
ただし、資材の搬入予定はまだ決まっていなかった。
悠真は整備士に尋ねた。
「今日は何か進みましたか?」
「補給管理所から連絡があった。資材の一部は確保できそうだが、残りの調整が必要らしい」
「じゃあ、先に届いた分だけで作業するんですか?」
「まだ決めていない。部分的に作業を始めることで安全を確保できるなら、その方法も検討する。ただし、途中まで補強しても十分な安全性が得られないなら、まとめて実施する必要がある」
整備士は、補修区画を確認した。
「資材が手に入ることと、それを使って安全に作業できることは別だからな」
悠真は、その言葉を覚えておこうと思った。
調査が止まっているように見えても、現場では判断するための情報が増えている。
ただし、情報が増えたからといって、すぐに結論が出るわけではなかった。
三人は作業の邪魔にならないように、その場を離れた。
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運営側では、ランキング戦の記録が保存されていた。
悠真のチームは敗北したが、試合中の位置取りや、味方を援護するために目標地点を離れた判断も記録対象となっていた。
一方、旧設備管理路の補修については、資材の調整が続いている。
それぞれの記録は別々に管理され、旧設備管理路の調査に関する新しい結論は出されなかった。
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夜、悠真は母親にランキング戦の話をした。
「今日は負けたよ。味方を助けに行ったら、目標地点を取られちゃった」
「助けに行かなかったら、どうなっていたの?」
「それも分からない。でも、助けたあとにどうするかを考えていなかったのは、よくなかったと思う」
母親は少し考えた。
「何かを選ぶときは、選ばなかった方に何が起こるかも考えないといけないのね」
「うん。でも、全部を予想するのは難しいよ」
「そうね。だから、予想が外れたときにどうするかも考えておく必要があるのかもしれないわね」
悠真は頷いた。
そのあと、宿題の残りを確認し、明日の準備を済ませた。
旧設備管理路の補修は、まだ始まっていない。
ランキング戦では負けた。
それでも、今日やったことが全部無駄になったわけではなかった。
悠真は端末を置き、眠る前に一度だけ試合の記録を思い出した。
次に同じ状況になったら、どう動くだろう。
答えはまだ出ていない。
けれど、次の試合では、今日よりもう少し先まで考えてみようと思った。




