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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第98章 見積もりの先

火曜日の放課後。


悠真は宿題を終えると、ゲームを起動した。


ロビーには、いつも通り任務の募集が流れていた。週末の世界BOSS戦の話題は少しずつ減り、代わりにランキング戦の結果や、新しく発見された装備構成についての書き込みが増えている。


悠真はKAIとRIONに連絡した。


【YUMA:今日は旧設備管理路の様子を確認して、それから何か任務をやろう】


【KAI:了解】


【RION:昨日の補強範囲、何か更新されているといいね】


三人は森林集落へ向かった。


⸻


旧設備管理路の入口に着くと、地域情報に新しい通知が表示された。


【地域情報更新】

【旧設備管理路・東側区画】

【補強範囲:算定完了】

【必要資材:確認済み】

【資材搬入:準備中】

【通路開放:未定】


「見積もりが終わったんだな」


KAIが通知を確認した。


現地では、作業員たちが資材の種類と数量を確認していた。昨日まで置かれていた測量器具は片づけられ、代わりに補修計画を記した板が設置されている。


悠真たちが近づくと、年配の整備士が説明してくれた。


「空洞の周囲を補強するために、必要な資材が決まった。これから補給管理所へ正式に依頼するところだ」


「資材が届いたら、すぐに通れるようになるんですか?」


悠真が尋ねた。


「いや。まず空洞の周囲を補強する。それから、通路の奥まで安全かどうかを確認する。補修が終わっても、調査が完了するとは限らない」


「分かりました」


悠真は地図を見た。


空洞が見つかってから、測量、補強範囲の算定、資材の見積もりと、作業は順番に進んでいる。


しかし、必要な資材が分かったことと、実際に補修できることは別だった。


「俺たちにできることはありますか?」


KAIが尋ねた。


整備士は補修計画を確認してから答えた。


「今は資材の手配を待つ段階だ。搬入が始まったら、運搬を頼むことがあるかもしれない」


三人は了承し、作業員の邪魔にならない場所へ移動した。


通路の奥は、まだ封鎖されたままだった。


⸻


「じゃあ、資材が届くまでは別の任務をやろう」


悠真が言った。


三人はロビーへ戻り、森林集落の周辺で発生している護衛任務を受注した。


今回は、修理部品を積んだ車両を、東側の小さな拠点まで送り届ける任務だった。


出発地点では、NPCの整備士が積み荷を確認していた。


【積載物:修理部品】

【配送先:東側補修拠点】

【輸送条件:損失を最小限にする】

【任務時間:標準】


車両が動き始めると、悠真たちは周囲を警戒しながら進んだ。


道は比較的平坦だったが、途中には細い橋がある。橋の両側には古い防護柵が設置されており、大型車両が通過するときには速度を落とす必要があった。


橋へ近づいたところで、先行していたNPCの偵察機が戻ってきた。


【経路情報更新】

【橋梁:通行可能】

【通行条件:低速】

【周辺警戒:継続】


「通れるみたいだな」


KAIが言った。


「でも、低速指定がある。急いで通る必要はないね」


RIONは車両の進行方向を確認した。


三人は橋の周囲に敵がいないことを確かめ、輸送車両を誘導した。


橋を渡り終えた直後、岩陰から小型機が現れた。


悠真は敵の動きを確認し、すぐに前へ出ようとした。


しかし、敵は輸送車両へ突進せず、三人の配置を確かめるように左右へ動いていた。


「こいつ、こっちを誘ってるのか?」


悠真は一度、足を止めた。


敵を追いかければ、車両から離れることになる。


「KAI、前を頼む。俺は車両の近くに残る」


「分かった!」


KAIが敵へ接近し、RIONが後方から射撃した。


悠真は車両の側面を守りながら、別の敵が現れないか確認した。


しばらくして、小型機は撃退された。


輸送車両に損傷はなかった。


【交戦結果:敵機撃退】

【輸送物資:損失なし】

【任務状態:継続】


その後は大きな問題もなく、部品を補修拠点へ届けることができた。


任務評価はSだった。


「今日は車両を守れたな」


悠真が言うと、KAIは笑った。


「さっき、敵を追いかけなかったからな」


「前なら追いかけていたと思う」


「なら、少しずつ変わっているんだろ」


RIONも頷いた。


「敵を倒すことと、任務を成功させることは、いつも同じじゃないからね」


悠真は報酬を受け取った。


勝ったことそのものより、前に失敗した判断を今回は変えられたことが嬉しかった。


⸻


任務を終えた三人がロビーへ戻ると、旧設備管理路の地域情報が再び更新されていた。


【地域情報更新】

【旧設備管理路・東側区画】

【補強資材:手配開始】

【搬入予定:調整中】

【作業開始:未定】


「手配は始まったみたいだな」


KAIが言った。


「でも、まだ届いてはいない」


悠真は現地へ戻ることにした。


⸻


旧設備管理路では、補修班のNPCが補給管理所へ送る依頼内容を確認していた。


資材の種類と数量だけでなく、運搬に必要な車両や作業人数も記録されている。


悠真たちは整備士に声をかけた。


「資材の手配は始まったんですね」


「そうだ。だが、必要な資材が全部そろうまでには時間がかかる。別の地域でも補修作業があるからな」


「先に届いたものだけで作業することはできないんですか?」


「できる部分もあるが、途中で作業を止めることになれば、かえって危険になる場合もある。今回は必要な資材をそろえてから始める予定だ」


悠真は補修計画を見た。


すべての資材が必要なのか、それとも一部だけ先に作業できるのか。


それを判断するのは、現場の作業員たちだった。


プレイヤーが手伝えることには限りがある。


三人は、資材搬入の通知が出たら再び確認することにした。


⸻


運営側では、補修計画の更新が保存されていた。


【旧設備管理路・東側区画】

【補強範囲:算定完了】

【必要資材:確認済み】

【資材手配:開始】

【通路開放:未定】


旧型通信設備に関する記録には、新しい情報は追加されていなかった。


今回の補修作業は、空洞の安全確保を目的としたものであり、通信設備との関連性を示す証拠はない。


調査記録は引き続き、別々に管理されていた。


⸻


夜、悠真は母親に今日の出来事を話した。


「古い通路の補修に必要な資材が決まったよ。でも、届くまでは作業できないんだって」


「じゃあ、今日は待つしかなかったのね」


「うん。だから別の任務をやった」


悠真は、輸送車両を守った任務についても話した。


母親は聞き終えると、頷いた。


「予定が決まっていても、すぐに実行できるとは限らないのね」


「そうだね。必要なものがそろっているかどうかも大事なんだと思う」


悠真は端末を片づけた。


古い通路の調査は、まだ先へ進んでいない。


けれど、必要な資材は決まり、手配も始まった。


次に動くための条件が、一つずつ整っている。


悠真は、明日も地域情報を確認してみようと思った。


資材がいつ届くかは分からない。


ただ、届いたときに何ができるかは、少しずつ見えてきていた。

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