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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第97章 待つあいだにできること

月曜日の朝、悠真は学校へ行く準備をしていた。


週末に遊びすぎたわけではないが、世界BOSS戦の映像を見直したこともあり、昨夜はいつもより少し遅く寝た。


母親は朝食を並べながら、悠真の顔を見た。


「今日は眠くない?」


「大丈夫。昨日はちゃんと途中でやめたから」


「ならいいけど、眠くなったら授業中に困るでしょう」


「分かってるよ」


悠真は朝食を食べ終えると、ランドセルを背負った。


ゲームの中には、まだ調べたい場所がある。


けれど、学校がある日は学校へ行く。


それは以前から変わらない。


⸻


放課後、帰宅した悠真は宿題を済ませてからゲームを起動した。


ロビーのオンライン人数は、週末よりも減っていた。


ランキング戦の募集も、世界BOSS攻略の話題も、昨日ほど目立たなくなっている。


悠真はKAIとRIONに連絡した。


【YUMA:今日は旧設備管理路の様子を見に行く?】


【KAI:いいけど、先に任務を一つやろう】


【RION:私も賛成。昨日の対戦記録も整理したいし】


三人は、北側の修理拠点から森林集落へ資材を運ぶ任務を受けた。


今回は輸送経路が最初から確保されており、途中に大きな障害もなかった。


しかし、目的地に近づいたところで、NPCの運転手が車両を停止させた。


【任務情報更新】

【荷受け施設:受入準備中】

【到着後の待機:発生】

【任務状態:継続】


「今度は受け取り側か」


悠真が画面を確認した。


荷受け施設では、別の輸送隊が先に到着していた。NPCたちは運ばれてきた資材を整理し、保管場所を確保している最中だった。


運転手は待機を指示されたが、三人には周辺の荷下ろしを手伝う追加任務が表示された。


【追加任務】

【資材の仕分け補助】

【報酬:小】

【任意参加】


「これ、受ける?」


悠真が尋ねた。


KAIは荷受け施設の様子を見た。


「報酬は少ないけど、待っているあいだにできることではあるな」


RIONも頷いた。


三人は追加任務を受け、運ばれてきた資材を指定された場所へ移した。


作業は単純だったが、すべての資材を同じ場所へ置けばいいわけではなかった。補修用の部品と、通常の輸送用資材では保管場所が違う。


悠真が一度、部品を別の区画へ運ぼうとすると、NPCの作業員が声をかけた。


「それは修理班の管理品だ。こちらの棚に置いてくれ」


悠真は指示された場所へ運び直した。


作業が終わる頃には、先に到着していた輸送隊の荷下ろしも完了していた。


【追加任務:完了】

【輸送任務:完了】

【評価:A】


「待ち時間があったけど、無駄にはならなかったな」


悠真が言った。


「ただし、いつも追加の仕事があるとは限らない」


KAIが答えた。


「今回は手伝える作業があった。それだけだ」


悠真は頷いた。


待つしかない状況でも、周囲を見ればできることが見つかる場合がある。


だが、何かを見つけようとして、必要のない仕事まで引き受ける必要はない。


三人は報酬を受け取り、旧設備管理路へ向かった。


⸻


現地に到着すると、入口付近では作業員たちが測量器具を片づけていた。


東側通路の封鎖線は、昨日と同じ位置にある。


「今日は調査が進んだのかな」


悠真が尋ねると、年配の整備士が答えた。


「空洞の周囲は確認できた。ただし、内部構造までは分からなかった。今日は周辺の地盤を測定して、補強が必要な範囲を見積もっていたんだ」


「通路はまだ開かないんですか?」


「もう少し時間がかかる。補強材の量も、作業に必要な人数も、まだ確定していないからな」


整備士は、現場の地図を表示した。


【旧設備管理路・東側区画】

【空洞周辺:測量完了】

【補強範囲:算定中】

【必要資材:未確定】

【通路開放:保留】


悠真は地図を眺めた。


昨日までは、空洞が見つかったことしか分かっていなかった。


今日は、その周囲の測量が終わり、補強の範囲を決める段階へ進んでいる。


通路そのものは開いていないが、作業は止まっているわけではなかった。


「俺たちに手伝えることはありますか?」


KAIが尋ねた。


整備士は少し考えたあと、首を横に振った。


「今はないな。測量結果をもとに、こちらで作業計画を立てる。補強材が届けば、運搬を頼むこともあるだろう」


「分かりました」


三人は現場の邪魔にならない場所へ移動した。


悠真は封鎖線の向こうを見た。


壁面の窪みも、床面のひび割れも、昨日と同じ場所にある。


目に見える変化は少ない。


それでも、作業員たちは必要な情報を集め、次の工程へ進む準備をしていた。


「今日は何も見つからなかったな」


RIONが言った。


「でも、補強範囲を決めるための測量は終わった。次に何をするかは、少しずつ決まっていくんだろう」


悠真は記録を保存した。


【旧設備管理路・調査記録】

【測量:完了】

【補強範囲:算定中】

【新規構造物:なし】

【調査継続:予定】


それ以上、無理に調べることはなかった。


⸻


三人は旧設備管理路を離れ、ロビーへ戻った。


RIONは昨日のランキング戦の映像を整理し、KAIは装備の調整を始めた。


悠真は、最近の任務記録を並べてみた。


世界BOSS戦。


道路の迂回。


資材の運搬。


設備管理路の測量。


どれも違う出来事だが、共通していることもあった。


予定通りに進まないことがある。


そのとき、状況を確認して方法を変えることもあれば、作業が終わるまで待つしかないこともある。


そして、待っているあいだに別の作業を進められる場合もある。


悠真は新しいメモを作った。


【今日の記録】

【状況確認】

【可能な作業の有無】

【必要な待機時間】

【次の判断条件】


「何を書いてるんだ?」


KAIが尋ねた。


「最近の任務で気づいたこと。何でもすぐに解決できるわけじゃないけど、止まっている理由が分かれば、次に何をするかは考えられるから」


「なるほどな」


KAIはそれ以上、深く聞かなかった。


RIONも装備の調整を終え、三人は短い対戦を一つだけ行った。


結果は勝利だった。


ただし、悠真は最後まで攻撃に集中しすぎないよう、味方の位置を確認し続けた。


以前なら追いかけていた敵が後退しても、無理に追撃しなかった。


代わりに、味方が守っている目標地点へ戻り、相手の再進入に備えた。


大きな活躍ではなかった。


けれど、チームの配置を崩さずに勝てたことには意味があった。


⸻


運営側では、旧設備管理路の調査状況が更新された。


【旧設備管理路・東側区画】

【測量:完了】

【補強範囲:算定中】

【必要資材:未確定】

【通路開放:保留】


プレイヤーが調査を離れたあとも、NPCの作業記録には新しい項目が追加されていた。


測量結果の整理。


補強資材の見積もり。


作業人数の調整。


それぞれの記録は、別々の工程として保存されている。


旧型通信設備との関連性については、新しい情報がないため、今回も判断は保留された。


⸻


夜、悠真は母親に今日のことを話した。


「古い通路は、まだ開かなかったよ」


「そうなの?」


「でも、空洞の周りの測量は終わったらしい。次は補強に必要な資材を調べるんだって」


母親は食器を片づけながら言った。


「すぐに終わらなくても、少しずつ進んでいるのね」


「うん。何も見つからなかったけど、調査が止まっているわけじゃない」


「悠真も、疲れたときは無理しないでね」


「分かってる」


悠真は端末を充電器につないだ。


今日のゲームでは、大きな発見はなかった。


けれど、任務は終わり、調査記録は増え、次の作業に必要な情報も集まっていた。


進むことだけが、前進ではない。


何を待つ必要があるのかを知ることも、次の行動を決めるための一つの材料になる。


悠真は明日の学校の準備を済ませ、早めに眠ることにした。


ゲームの中では、補強資材の見積もりが続いている。


通路がいつ開くのかは、まだ決まっていなかった。

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