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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第93章 記録された作業順序

金曜日の放課後。


悠真は宿題を終えると、いつものようにゲームを起動した。


ロビーでは、週末を前にして任務の募集が少しずつ増えていた。装備を更新するプレイヤーもいれば、ランキング戦の相手を探しているプレイヤーもいる。


悠真はKAIとRIONに連絡した。


【YUMA:今日は先にランキング戦をやらない?】


【KAI:いいぞ】


【RION:昨日の防衛任務で気になったことがあるから、実戦で確認したい】


三人は三対三のランキング戦に参加した。


対戦相手は、近接型が二機、遠距離型が一機という編成だった。


戦闘開始直後、相手の近接型二機がKAIへ接近した。悠真は援護に向かおうとしたが、遠距離型の射撃が進路を塞ぐ。


「無理に来なくていい!」


KAIが叫んだ。


悠真は進路を変え、射撃を避けながら相手の遠距離型へ回り込もうとした。しかし、相手は最初からその動きを予測していたように後退し、悠真を味方から引き離した。


その間に、もう一機の近接型がRIONへ接近する。


RIONは応戦したものの、二対一の状況を維持できず、耐久値を大きく削られた。


悠真は戻ろうとした。


しかし、戻る途中で遠距離型に進路を制限され、結局、RIONを助ける前に自分も攻撃を受けてしまった。


試合は敗北に終わった。


【ランキング戦結果:敗北】

【YUMA:戦闘不能】

【KAI:戦闘継続】

【RION:戦闘不能】


ロビーへ戻ると、KAIが最初に口を開いた。


「相手は、俺を倒すことだけが目的じゃなかったな」


「うん。KAIに二機を向けて、俺たちが助けに来るかどうかを見ていたんだと思う」


悠真は試合映像を再生した。


自分がRIONの援護へ向かおうとした瞬間、敵の遠距離型は攻撃を続けず、位置を変えていた。


その動きによって、悠真の進路が狭くなっていた。


「俺が助けに行くこと自体は間違いじゃない。でも、相手がそれを利用するなら、別の方法も考えないといけない」


RIONが言った。


「次に同じ状況になったら、私もすぐに援護を求めるんじゃなくて、どこまで時間を稼げるか考える」


三人は映像を止め、位置関係を確認した。


敗北の原因を一つに決めつけることはできない。


相手の作戦、味方の配置、判断の遅れ。それぞれが影響していた。


悠真は最後に、自分が進路を変えた場面をもう一度見た。


相手の遠距離型を追うことに集中し、KAIとRIONの位置を見失っていた。


次の試合では、攻撃する相手だけでなく、味方がどこにいるかも確認する必要がある。


「もう一戦する?」


KAIが尋ねた。


悠真は少し考えてから首を横に振った。


「今日はここまでにする。今の試合を覚えておきたい」


「分かった。無理に続けても、同じ失敗をするかもしれないしな」


三人はランキング戦を終え、旧設備管理路の調査記録を確認することにした。


⸻


森林集落の旧設備管理路では、昨日と違う作業が行われていた。


東側通路の入口付近に、新しい測量用の標識が設置されている。


作業員たちは壁面の窪みを再測定していたが、調査範囲そのものはまだ広がっていなかった。


悠真たちが近づくと、以前から現地にいた年配の整備士が声をかけてきた。


「昨日の窪みについて、追加の記録が見つかった」


「何か分かったんですか?」


悠真が尋ねた。


「窪みそのものについてではない。ここで使われていた古い作業記録の一部だ」


整備士は、作業員から受け取った記録画面を見せた。


【旧設備管理路・作業記録】

【記録項目:通路点検】

【記録項目:固定部確認】

【記録項目:資材搬入】

【作業順序:一部保存】

【作業対象:識別不能】


「作業順序?」


KAIが画面を覗き込んだ。


整備士は頷いた。


「古い記録には、何を使ったかだけでなく、どの作業を先に行ったかが残っていることがある。今回は、その順番の一部が復元できたらしい」


画面には、短い項目が並んでいた。


【第一工程:通路点検】

【第二工程:固定部確認】

【第三工程:資材搬入】

【第四工程:詳細欠損】


「これだけだと、普通の工事記録にも見えるね」


RIONが言った。


「その通りだ」


整備士は否定しなかった。


「固定部の確認が必要だったのは、何かを取り付けるためかもしれない。だが、壁の補強や手すりの設置でも同じような作業は行われる。これだけで、特別な設備があったとは言えない」


悠真は記録を見直した。


作業の順序は分かっても、作業の目的は分からない。


しかも、最後の工程は欠損している。


「この記録と、昨日の壁の窪みは関係があるんですか?」


「まだ確かめられていない。記録にある場所の名前が欠けているからな」


整備士は画面を閉じた。


「ただ、今後の調査では役に立つかもしれない。似たような構造物が見つかったとき、比較できる記録が一つ増えたということだ」


悠真は納得した。


すぐに答えが出なくても、比較するための材料にはなる。


それなら、今回の記録を保存しておく意味はある。


⸻


三人は調査班の許可を得て、通路の入口から補修済みの範囲を見て回った。


壁面の窪みには、まだ新しい変化はなかった。


床面のひび割れは測量用の印で囲まれ、奥へ進むための安全確認は継続中だった。


作業員の一人が、通路の端に置かれた資材を別の場所へ移していた。


「何をしているんですか?」


悠真が尋ねると、作業員は答えた。


「次の点検に備えている。この位置に資材があると、調査用の器具を運びにくいからな」


「今日は奥の調査をするんですか?」


「予定はある。ただ、路面の状態次第だ。安全を確認できなければ、今日は入口付近だけで終わる」


作業員は資材を移し終えると、別の場所へ向かった。


悠真たちは、それ以上質問せず、作業の邪魔にならない位置へ移動した。


しばらくして、調査班から更新情報が出た。


【旧設備管理路・調査情報】

【壁面窪み:再測定完了】

【作業記録:一部復元】

【通路奥側:調査待ち】

【通行範囲:変更なし】


通路は開かなかった。


新しい設備も見つからなかった。


ただ、昨日までなかった作業記録が一つ加わり、現地の測定が進んだ。


悠真はその情報を保存した。


⸻


運営側では、復元された作業記録が既存の旧設備資料と照合されていた。


【旧設備管理路・作業記録】

【作業順序:一部復元】

【作業対象:識別不能】

【壁面窪みとの関連性:未確認】


別の調査項目には、旧型通信設備や各地域の接続記録が並んでいたが、今回の記録をそれらに結びつける根拠はなかった。


照合は継続される。


判断は保留されたままだった。


⸻


ログアウトしたあと、悠真は母親に今日のことを話した。


「古い作業記録が見つかったんだ。何を先にやったかは少し分かったけど、何のための作業だったかは分からない」


「順番が分かっても、目的までは分からないのね」


「うん。しかも、最後の部分が壊れていた」


母親は食卓に料理を並べながら言った。


「それでも、残っている部分を調べることはできるんでしょう?」


「できるよ。ただ、関係ないものまでつなげないようにしないと」


「それなら、焦らずにやればいいんじゃない?」


悠真は頷いた。


ゲームの中では、古い設備を調べる人たちが少しずつ記録を集めている。


けれど、記録が増えたからといって、必ず一つの答えにたどり着くわけではない。


分かったことと、まだ分からないこと。


その二つを分けながら進むしかなかった。


明日は土曜日だ。


少し長く遊べるかもしれない。


悠真は夕食を食べながら、明日の任務を考え始めた。

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