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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第91章 運ばれてきた資材

水曜日の放課後。


悠真は宿題を終えると、机の上に置いていたゲーム端末を起動した。


画面に表示されたオンライン人数は、二十万人を少し超えていた。


週末に比べれば少ない。それでも、ロビーにはいつも通り、任務の募集や装備の売買、対戦相手を探すプレイヤーの書き込みが流れている。


悠真は装備を確認してから、KAIにメッセージを送った。


【YUMA:今日はどうする?】


【KAI:昨日の輸送任務、経路変更があっただろ。別の地域でも似たような任務があるらしい】


【YUMA:そっちをやる?】


【KAI:先に普通の任務を一つ。そのあと、例の管理路を見に行こう】


少し遅れて、RIONからも返事が届いた。


【RION:了解。今日は遠距離武器の調整もしたい】


三人はまず、北側の補給拠点で発生している護衛任務を受注した。


今回の任務は、補給車両を山道の中継地点まで送り届けるものだった。


道中には敵機の出現予測地点が三か所ある。


「最初の二か所は俺が前に出る。RIONは後方から見てくれ」


KAIが役割を決めた。


「三か所目は?」


「現地で判断する。予測地点に必ず敵がいるとは限らないからな」


悠真はその言葉を聞き、任務情報をもう一度確認した。


確かに、画面にはあくまで「出現予測」と書かれている。過去の記録をもとにした情報であって、今回も同じ展開になる保証はなかった。


任務が始まると、最初の地点には二機の敵が現れた。


KAIが接近して敵の注意を引きつけ、RIONが後方から援護する。悠真は車両の進行方向を確保しながら、横から回り込もうとした敵を迎え撃った。


二つ目の地点でも戦闘は起きた。


しかし、三つ目の地点には敵の姿がなかった。


代わりに、道の脇で一機の作業用ロボットが立ち往生していた。


【任務情報更新】

【障害:作業用車両の故障】

【輸送経路:一時停止】

【対応:現地確認】


「敵じゃなくて故障か」


悠真が呟く。


KAIは周囲を警戒しながら答えた。


「放っておけば車両が通れない。先に確認しよう」


三人が作業用車両を調べると、車輪を動かす部品が破損していた。補給車両の運転手に当たるNPCは、近くの整備拠点へ応援を要請するよう指示した。


悠真たちは周囲の安全を確保し、到着した整備ロボットが作業を始めるまで待つことになった。


戦闘だけで任務が進むわけではない。


待機時間は増えたが、車両を放置して先へ進むより、結果的には確実だった。


故障した車両が移動できるようになると、輸送任務は再開された。


最終評価はA。


予定時間を超過したものの、補給物資は無事に届けられた。


「敵を倒すだけなら、もっと早かったな」


KAIが言った。


「でも、あの車両を放置したら、あとから来る輸送隊も困ったかもしれない」


悠真は報酬を確認しながら答えた。


「それに、あそこは敵が出なかった。毎回同じだと思って動くと、別の問題を見落とす」


RIONは武器の調整画面を閉じた。


「そういう意味では、今日の任務は悪くなかったな」


三人は報酬を受け取り、いったんロビーに戻った。


その後、悠真は母親から夕食までに休憩を取るよう言われ、短い時間だけ端末から離れた。


目を閉じていると、思った以上に疲れが残っていることに気づいた。


昨日までの調査、任務、対戦。


一つ一つは大した時間ではなくても、積み重なれば疲れる。


悠真は水を飲み、少し体を伸ばしてから、もう一度端末の前に戻った。


「あと一つだけ」


自分にそう言い聞かせ、KAIたちに連絡した。


⸻


旧設備管理路では、前日からの作業が続いていた。


悠真たちが到着すると、入口付近に資材を積んだ小型運搬車が止まっていた。作業員のNPCたちが荷物を降ろし、必要な資材を種類ごとに分けている。


石材、固定金具、路面補修材。


昨日、補修班が不足していると言っていたものだった。


「資材が届いたんだな」


悠真が声をかけると、近くの作業員が振り返った。


「補給管理所に依頼していた分だ。これで、東側の通路を少しだけ確認できる」


「通れるようになったの?」


「いや、まだだ。先に崩れやすい部分を補修する。通路の奥まで安全かどうかは、別に調べなければならない」


作業員は運搬車から補修材を取り出し、別のNPCへ手渡した。


その動きに無駄はなかった。


資材を運ぶ者、地面の状態を確認する者、固定金具を取り付ける者。それぞれが担当を持ち、作業の進み具合に合わせて配置を変えていた。


悠真は以前にも似たような光景を見たことがある。


ただし、ここでは旧設備の調査だけが行われているわけではない。


道路を直す者がいて、資材を運ぶ者がいて、その道路を使って物を届ける者がいる。


誰かが一つの作業を終えれば、別の作業を始められる。


「俺たちにできることはある?」


KAIが尋ねた。


作業員は少し考えたあと、運搬車の荷台を指した。


「奥に置く固定材が足りない。運搬車が通れない場所だから、ここから先は手で運ぶ必要がある。持てる分だけ手伝ってくれると助かる」


三人は依頼を引き受けた。


運ぶ資材は大きくはないが、通路の足元には石が転がっていた。走れば早く着けるものの、荷物を落とせばやり直しになる。


悠真は周囲を見ながら、足場の安定した場所を選んで進んだ。


KAIは前方の障害物を確認し、RIONは後ろから来る作業員とぶつからないよう、道の端を空けていた。


指定地点に資材を届けると、作業員たちはさっそく補修を始めた。


しばらくして、東側の通路に設けられていた仮の封鎖線が、数メートルだけ奥へ移された。


【旧設備管理路・東側区画】

【補修状況:部分完了】

【通行範囲:限定的に更新】

【安全確認:継続中】


封鎖線の向こうには、石壁に沿って続く狭い通路が見えた。


以前は崩れた資材に隠れていた部分だった。


壁の下部には、一定間隔で金属の留め具が取り付けられている。いくつかは錆びていたが、形状の異なるものも混じっていた。


悠真は近づきすぎない位置から眺めた。


「また古い設備の一部かな」


「可能性はある。でも、今の段階では壁を固定する部品かもしれない」


KAIはそう答えた。


RIONも通路の奥を見ていたが、目立った装置や端末は見つからなかった。


「今すぐ調べられる場所じゃないな。作業が終わるのを待つしかない」


そのとき、先ほどの作業員が戻ってきた。


「ここから先は、まだ入らないでくれ。壁の向こう側で地面が沈んでいる可能性がある。調査班が確認してからだ」


「分かった」


悠真たちは封鎖線の手前まで戻った。


通路が少し開いたからといって、すべてを調べられるわけではない。


むしろ、見える範囲が広がったことで、確認しなければならない場所も増えていた。


⸻


同じ頃、運営側の記録には、旧設備管理路の更新情報が追加されていた。


【旧設備管理路】

【補修資材:搬入確認】

【東側通路:部分補修】

【通行範囲:限定更新】

【安全確認:継続中】


別の記録には、今回の資材搬入と作業員の配置変更が保存されている。


旧設備の基礎、金属製プレート、旧型通信設備。


それらとの関連性については、今回も新しい判断は加えられなかった。


現時点で確認できたのは、補修によって通路の一部が新たに見えるようになったことだけだった。


運営側は更新された地形情報を保存し、次の調査結果を待つことにした。


⸻


ログアウトする前、悠真は東側通路の記録をもう一度確認した。


新しい設備は見つからなかった。


通信端末も、読み取れる番号も、正体の分からない記録媒体もない。


代わりに、運ばれた資材と、少しだけ広がった通路が残っていた。


「今日は進展なし、か」


悠真が言うと、RIONが返した。


「通れる場所は増えた。何も変わっていないわけじゃない」


「そうだな」


KAIも同意した。


「ただ、通路が開いたことと、俺たちが探しているものが見つかることは別だ。次もそこは分けて考えよう」


悠真は調査記録を保存した。


何かが見つかるまで、調べ続けることはできる。


けれど、何かが見つかると決まっているわけではない。


その日の探索は、そこで終わった。


夕食の時間が近づいていた。


端末を片づけると、母親が台所から声をかけてきた。


「今日はもう終わり?」


「うん。少し通路が開いたけど、まだ調査中」


「じゃあ、続きはまた今度ね」


母親はそれ以上、細かく聞かなかった。


悠真も、今はそれでよかった。


ゲームの中では、作業員たちが明日も資材を運び、通路を直し、安全を確かめていくのだろう。


その先に何があるのかは、まだ分からない。


分からないままでも、世界は少しずつ動いていた。

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