↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
90/315

第90章 道を直す理由

火曜日の放課後。


悠真が《クロスギア》に接続すると、ロビーの地域情報に新しい通知が表示されていた。


【地域情報更新】


【森林集落・旧設備管理路】


【東側区画:調査継続】


【通行状態:変更なし】


【周辺道路:修復作業中】


悠真は通知を確認し、カイに連絡した。


【YUMA:東側はまだ通れないみたい】


【KAI:なら、今日は別の任務をやるか?】


【YUMA:そうしよう。修復作業も少し気になるけど】


【RION:俺も参加できる。先に任務を終わらせてから見に行こう】


三人は、森林集落と北側の集落を結ぶ資材輸送任務を選んだ。


任務の説明は簡単だった。


指定された資材を輸送車両に積み、途中の検問所を通過して、北側の集落まで届ける。


戦闘が発生する可能性はあるが、危険度は通常だった。


悠真は機体の装備を確認してから出発した。


⸻


輸送車両は、森林集落の資材置き場からゆっくりと動き始めた。


途中の道では、NPCの作業員たちが路面の補修を行っていた。


車両が近づくと、作業員の一人が手を上げた。


「少し待ってくれ。路面の確認をしている」


先頭の輸送車両が停止する。


悠真はマップを確認した。


予定されていた経路に通行止めの表示はない。


しかし、現地のNPCは通行を止めていた。


「任務の経路には問題ないはずだけど……」


「現場で何か見つかったんじゃないか?」


カイが答えた。


やがて作業員が戻ってきた。


「路面の一部が沈んでいる。大型車両を通すと、さらに崩れる可能性がある」


【経路情報更新】


【路面状態:一部不良】


【大型車両:通行保留】


【代替経路:確認中】


輸送隊の責任者が地図を開いた。


「西側の道を使えば、遠回りになるが通行できるはずだ」


別のNPCが反対した。


「西側は修復作業中だ。資材車両が通れば、作業に影響するかもしれない」


二人は地図を見比べながら話し合った。


悠真たちは、その様子を待つことになった。


「プレイヤーが決めるんじゃないんだな」


悠真が小さく言った。


「護衛するのが任務だからな。経路の管理まで全部こっちが決めるわけじゃないだろ」


カイの言葉に、リオンもうなずいた。


しばらくして、輸送隊の責任者が決定を伝えた。


「北側の道は使わない。西側の修復担当と連絡が取れた。作業区域を避ける経路を確保できたので、そちらへ進む」


輸送隊は経路を変更した。


悠真たちは車両の前後に付き、周囲を警戒しながら進んだ。


途中、小型の敵機が現れたものの、三人が連携して撃退した。


輸送車両は予定より遅れて目的地に到着した。


【任務結果:成功】


【輸送物資:損失なし】


【経路変更:記録済み】


【任務時間:延長】


悠真は結果画面を見た。


「道が壊れていたから遠回りした。それだけなんだけど、思ったより時間がかかったね」


「実際に物を運ぶなら、そういうこともあるだろ」


カイが答えた。


「最短の道が、いつでも一番使いやすいとは限らないってことだな」


リオンはそう言って、輸送任務の記録を閉じた。


⸻


任務を終えた三人は、森林集落へ向かった。


旧設備管理路の入口では、道路の修復作業が進んでいた。


前に見た石壁の近くで、NPCたちが崩れた土砂を取り除き、地面の状態を確認している。


ただし、旧設備の調査区域と道路修復区域は、目印によって明確に分けられていた。


悠真は修復担当者に声をかけた。


「この道は、いつごろ通れるようになるんですか?」


担当者は工具を置き、地図を確認した。


「今のところ、通行再開の日時は決まっていない。崩れた場所の地盤を調べて、必要な補強をしてからだ」


「旧設備の調査とは別に進めているんですか?」


「そうだ。こっちは道路の安全を確保する作業だ。設備の用途が分からなくても、道を使う必要はあるからな」


担当者は、道路の向こうを指さした。


「この先には資材置き場や、以前から使われている保守施設がある。道が使えないと、物資の運搬に余計な時間がかかる」


悠真は地図を見た。


旧設備管理路は、古い設備を調べるためだけに存在しているわけではない。


周辺の施設をつなぎ、人や物が移動するための道でもある。


「じゃあ、調査が終わる前に、道路だけ先に直すこともあるんですね」


「必要ならな。ただし、設備の調査を妨げないように、作業する場所は調整する」


修復担当者は再び工具を手に取った。


「どちらも必要な仕事だから、順番を考えて進めているんだ」


三人は作業の邪魔にならない場所へ移動した。


カイが周囲を見回す。


「道路を直す人と、設備を調べる人が別々にいるんだな」


「仕事が違うからじゃない?」


悠真が答えた。


「同じ場所にいても、やることは違うんだろうね」


リオンは地面に並べられた資材を見ていた。


「それに、道路を直す理由は設備の謎を解くことじゃない。通れないと困る人がいるからだ」


悠真はうなずいた。


目の前の作業員たちは、古い設備の正体を知っているわけではない。


それでも、自分たちの仕事を進めている。


世界にあるすべての問題が、一つの謎を解けば解決するわけではなかった。


⸻


そのとき、入口付近にいた別のNPCが、修復担当者へ声をかけた。


「北側の資材置き場から連絡が来た。補修用の固定具が足りないそうだ」


「どれくらい必要だ?」


「予定していた分では足りない。路面の状態が想定より悪かったらしい」


修復担当者は、手元の記録を確認した。


「分かった。資材管理の担当に追加分を確認してもらおう。こちらの作業は、必要なら順番を変える」


その会話を聞いた悠真は、少し前に受けた輸送任務を思い出した。


路面の状態が悪くなり、輸送経路が変更された。


その影響で、予定していた作業にも変更が生じている。


もちろん、同じ出来事が直接つながっているとは限らない。


しかし、道路の状態や資材の量、作業の順番によって、現地の仕事が変わることはある。


悠真は地域情報を確認した。


新しい任務はまだ表示されていない。


修復作業の完了時刻も分からない。


それでも、NPCたちは足りない資材を確認し、作業の順番を調整しようとしていた。


「何か手伝えることはありますか?」


悠真が尋ねると、担当者は首を横に振った。


「今は資材の確認が先だ。必要になれば、輸送の依頼を出す」


「分かりました」


三人は無理に仕事へ入り込まず、入口を離れた。


今日のところは、調査にも修復にも大きな進展はなかった。


それでも、現地の状況は少しずつ変化している。


⸻


開発側では、通常任務と地域活動の記録が更新されていた。


【資材輸送任務】


【経路変更:発生】


【変更理由:路面状態】


【輸送結果:成功】


【任務時間:延長】


別の項目には、旧設備管理路の修復記録が表示されていた。


【道路修復】


【補修用資材:不足】


【資材追加確認:開始】


【作業順序:調整中】


担当者は二つの記録を確認した。


「輸送任務と道路修復の記録が、どちらも経路や資材の変更を含んでいますね」


「ただし、これだけで同じ作業計画に属しているとは限らない。場所と時間、担当組織を照合してから判断しよう」


「分かりました」


担当者は記録を保存した。


NPCの活動は、個々の任務だけでは完結していない。


しかし、関連しているように見える出来事を、すべて同じ計画にまとめることもできない。


確認できる情報を残し、関係が分からないものは保留する。


その手順は、旧設備の調査でも変わらなかった。


⸻


ログアウトした悠真は、母親と一緒に夕食の準備をしていた。


「今日は古い設備のこと、分かった?」


「設備のことは、あまり進んでないよ。でも、近くの道路を直している人たちの話を聞いた」


「道路を?」


「うん。古い設備を調べるのとは別に、道を使えるようにする必要があるんだって」


悠真は野菜を皿に並べた。


「道が使えないと、資材を運ぶのも大変になるから」


母親はうなずいた。


「それなら、設備の謎が解けるまで待っているわけにはいかないね」


「そういうこと。必要な仕事は、必要な仕事として進めているんだと思う」


母親は料理を運びながら言った。


「全部が分かってから動くわけじゃないのね」


悠真は少し考えた。


「分からないことがあっても、できることはあるからね。ただ、危ないところは確認しないといけないし、勝手に進めていいわけでもない」


「それなら、今日のゲームは勉強になった?」


「……たぶん」


二人は笑った。


夕食の後、悠真は端末を片づけた。


旧設備管理路の謎は、まだ解けていない。


東側の通路も、通行できる状態にはなっていない。


けれど、道を直す人たちは、設備の正体が分かるのを待ってはいなかった。


彼らには、彼らが解決しなければならない問題がある。


悠真は、今日の出来事を思い返した。


一つの場所で起きていることにも、違う立場から見れば、違う理由がある。


そして、その理由が違うからといって、必ずしも互いに無関係とは限らない。


まだ何も決めつける必要はなかった。


明日もまた、ゲームの世界では、それぞれの仕事が続いていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。