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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第89章 予定にない訪問者

月曜日の放課後。


悠真は帰宅すると、宿題を机の上に広げた。


週末にゲームを長く遊んだせいか、今日は少し眠かった。それでも、明日に持ち越すより先に終わらせたほうがいい。


問題を解き終え、答えを確認する。


間違いが一つあった。


悠真は消しゴムで答えを消し、もう一度計算した。


「……あ、ここを間違えてたのか」


解き直してから、ようやく端末を手に取った。


母親が部屋の入口から声をかける。


「今日は何時まで遊ぶの?」


「いつもどおり。疲れたら途中でやめるよ」


「分かった。眠そうだったら無理しないでね」


悠真はうなずき、《クロスギア》に接続した。


⸻


ロビーに入ると、カイはすでにログインしていた。


【KAI:今日は旧設備管理路の調査が更新されてる】


【YUMA:本当?】


【KAI:掲示板に出てる。通行可能な範囲が少し変わったらしい】


リオンも合流した。


【RION:ただし、奥まで入れるようになったわけじゃない。入口付近の調査範囲が広がっただけみたいだ】


悠真は地域情報を開いた。


【地域情報更新】


【森林集落・旧設備管理路】


【調査区域:一部拡張】


【通行可能範囲:更新】


【安全確認:継続】


【未確認区域:進入不可】


「じゃあ、見に行こう」


三人は森林集落へ向かった。


⸻


旧設備管理路の入口では、NPCの調査員たちが新しい案内標識を設置していた。


昨日まで立ち入りが制限されていた区画の一部に、通行可能な範囲を示す目印が追加されている。


悠真たちは案内に従って進んだ。


少し歩くと、昨日確認した基礎が見えてきた。


周囲には測量用の目印が増えている。基礎の東側では、作業員が地面の高さを測り、別の作業員が古い地図と照合していた。


調査員が三人に気づいた。


「今日は少しだけ先まで確認できる。ただし、標識のある範囲から出ないようにしてくれ」


「分かりました」


悠真たちは指定された経路を進んだ。


基礎の東側を回り込むと、低い石壁のような構造物が現れた。


一見すると、ただの崩れた壁に見える。


しかし、近くには金属製の固定具が残っていた。


【旧設備管理路・東側区画】


【構造物:確認】


【材質:石材・金属】


【用途:不明】


【調査状態:初期確認】


カイが周囲を見回した。


「これも、さっきの基礎と関係があるのか?」


「位置は近いけど、まだ分からないね」


悠真は地図を開いた。


東側区画は、以前の地図では細い通路として描かれていた場所だった。しかし、現在の地形とは一致しない部分がある。


リオンは石壁の向こうを見た。


「壁の先にも道が続いているように見える」


確かに、草木の間に細い空間が見えた。


ただし、そこには進入禁止の標識が立っている。


三人は先へ進まず、調査員を呼んだ。


「この先も調査する予定はあるんですか?」


調査員は壁の状態を確認した。


「予定には入っている。ただ、通路の一部が崩れている。今は安全に通れるかどうか分からない」


「じゃあ、修復されるまでは入れないんですね」


「そうだ。周辺の構造を確認してから判断する」


調査員は端末に記録を追加した。


【東側区画】


【通路の存在:確認】


【通行状態:未確認】


【安全確認:未完了】


【調査予定:検討中】


悠真はその記録を見て、少し考えた。


道があることと、通れることは違う。


通れることと、通っても安全なことも違う。


地図に描かれているからといって、すぐに進めるわけではなかった。


「今日はここまでだな」


カイが言った。


「うん。調査員が確認してからだね」


三人は来た道を戻った。


⸻


森林集落へ戻る途中、悠真は修理工房の前で足を止めた。


工房の入口には、見慣れないNPCが立っていた。


年配の整備士だった。


古びた作業服を着ており、腰には複数の工具を下げている。工房の整備士と何かを話し合っていたが、悠真たちが近づくと会話を中断した。


「何か用か?」


年配の整備士が尋ねた。


「旧設備管理路を調べに来たんです。ここの修理工房で、古い記録媒体を解析していると聞いて」


「そうか」


整備士は少し考えた。


「なら、ちょうどいい。俺もあの辺りの地形を確認しに来たところだ」


悠真は驚いた。


「調査員の人ですか?」


「いや、俺は修理工だ。昔から使っている設備の修理を頼まれて、森林集落に来た」


整備士は工房の中に視線を向けた。


「最近、古い部品がいくつか見つかったらしいな。だが、見つかった部品が全部、同じ場所で使われていたとは限らない」


カイが尋ねた。


「古い設備に詳しいんですか?」


「詳しいというほどじゃない。壊れた機械を直す仕事を長くやっているだけだ」


整備士はそう答えた。


「古い機械は、部品が一つ足りないだけで動かないこともある。逆に、同じ部品が別の機械に使われていることもある。見た目だけで決めつけると、余計に壊すことになる」


悠真は、旧設備管理路で見た固定具を思い出した。


「じゃあ、部品の規格が分かっても、どこに使われていたかは別なんですね」


「そのとおりだ。規格は、部品そのものの情報だ。使われていた場所を知るには、周りの構造や記録も必要になる」


年配の整備士は、工房の整備士に向き直った。


「例の記録媒体、もう少し調べられるか?」


「復旧できる部分は限られています。損傷がひどいので、時間をかけても情報が増えるとは限りません」


「そうか。なら、無理に読み出そうとするな。壊れたら、残っている記録まで失う」


二人の会話を聞きながら、悠真は少し驚いていた。


新しい情報を得ることばかり考えていたが、記録を失わないことも重要なのだ。


何かを確かめようとして、残っていたものまで壊してしまえば、調査そのものが後退する可能性がある。


「ありがとうございました」


悠真が礼を言うと、年配の整備士は軽く手を振った。


「礼を言われるようなことはしていない。分からないものは、分からないまま扱う。それだけだ」


整備士は工具を持ち直し、工房の奥へ入っていった。


⸻


その日の夕方、開発側では地域情報の更新が確認されていた。


【旧設備管理路】


【東側区画:構造物確認】


【通路の存在:確認】


【通行状態:未確認】


【安全確認:継続】


担当者は、これまでの調査履歴と新しい記録を照合した。


東側区画で見つかった石壁状の構造物は、旧設備基礎とは別の項目として保存されている。


位置は近い。


しかし、それだけでは両者の関係は判断できない。


また、修理工房に訪れた整備士との会話も、ゲーム内の交流記録として保存された。


彼は旧設備について断定的な説明をしていない。


むしろ、部品の規格と設備の用途を区別し、記録媒体を無理に解析しないよう助言していた。


担当者は、その内容を確認した。


「NPC側から、調査の進め方に関する提案が出たようですね」


「そうだな。ただし、プレイヤー向けに用意した説明と、NPC自身の判断がどの程度重なっているかは、これだけでは分からない」


「引き続き記録しますか?」


「必要な範囲で。特別な意味があると決める段階ではない」


担当者は記録を保存した。


旧設備管理路の調査は続いている。


新しい構造物も見つかった。


修理工も一人、現地にやって来た。


しかし、それらが一つの大きな謎につながっているかどうかは、まだ分からなかった。


⸻


ログアウト後、悠真は母親と一緒に夕食を食べていた。


「今日は何か見つかったの?」


「古い道の先に、石壁みたいなものがあった。でも、その先はまだ通れないんだ」


「危ないから?」


「うん。崩れているかもしれないから、安全確認が終わってないんだって」


母親はうなずいた。


「それなら、確認が終わるまで待つしかないね」


「そうだね。あと、古い機械を直している人にも会ったよ」


「何か教えてくれたの?」


「部品の規格が分かっても、何に使われていたかは別だって」


母親は少し笑った。


「それは、ゲームの中だけじゃなくて、いろいろなことに当てはまりそうね」


悠真も笑った。


食事を終えると、彼は明日の学校の準備をした。


旧設備管理路の調査は、まだ続くだろう。


東側の通路が開放されるかもしれないし、調査の結果、別の用途だったと分かるかもしれない。


どちらになっても、今の段階では決められない。


悠真は端末を片づけ、部屋の明かりを消した。


ゲームの中には、まだ通れない道がある。


まだ用途の分からない部品がある。


そして、まだ知らない人たちが、それぞれの仕事を続けている。


次に接続したとき、何が変わっているのか。


それは、明日にならなければ分からなかった。

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