↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
88/335

第88章 変わっていく配置

日曜日。


悠真が《クロスギア》に接続すると、ロビーには週末らしい賑わいが戻っていた。


通常任務の募集が次々と更新され、ランキング戦の待機人数も増えている。装備交換所では、昨日まで見かけなかった機体パーツが出品されていた。


悠真は掲示板を眺めながら、今日は何をしようか考えた。


旧設備管理路の調査は気になる。


しかし、調査が進むのを待つだけでは、ゲームの時間を持て余してしまう。


「今日は先にランキング戦をやろうかな」


ロビーで合流したカイにそう伝えると、彼はすぐに返事をした。


「いいぞ。ただし、昨日までと同じ戦い方をするなよ」


「分かってるって」


「本当に?」


「……分かってるつもり」


リオンが二人の会話に割って入った。


「その言い方だと、まだ分かってない気がするけどな」


悠真は反論しようとしたが、うまい言葉が見つからなかった。


結局、三人はそのままランキング戦へ向かった。


⸻


最初の試合では、相手チームは遠距離攻撃を中心とした編成だった。


リオンは射線を切りながら敵の位置を探り、カイは前線を押し上げる。


悠真は二人の動きに合わせて、空いた場所を埋めていった。


試合は序盤から優勢だった。


しかし、中盤に差しかかったところで、敵の一機が突然、後方へ下がった。


悠真は追撃を考えた。


耐久値が減っている。ここで倒せば、相手の戦力を一つ減らせる。


だが、その機体は明らかに悠真を誘っていた。


昨日までの悠真なら、相手の耐久値を見て追いかけていたかもしれない。


今日は違った。


「カイ、前に出すぎないで。リオン、右側の敵を見てくれる?」


「了解」


「分かった」


悠真は追撃をやめ、味方の位置を確認した。


数秒後、後退した敵機の背後から、もう一機が現れた。


悠真が追いかけていれば、二機に挟まれていた可能性が高い。


「なるほどな」


カイが短く言った。


「今のは追わなくて正解だった」


その後、三人は相手の陣形を崩し、試合に勝利した。


【ランクマッチ:勝利】


【チーム連携:良好】


【戦闘記録:保存】


ロビーへ戻った悠真は、勝利の表示を見て笑った。


「今回はうまくいったね」


「今回はな」


カイは相変わらずだった。


「一回うまくいったからって、次も同じとは限らない」


「それは分かってるよ」


「ならいい」


リオンは戦闘記録を閉じた。


「でも、前よりは相手の動きを見ていたと思う。追撃するかどうかを、耐久値だけで決めなかった」


悠真はうなずいた。


勝てたことよりも、昨日とは違う判断ができたことが嬉しかった。


ただし、それを新しい正解として覚えるつもりはなかった。


相手が本当に逃げている場合もある。


味方が援護できない場合もある。


追撃しなければ、逆に不利になる場面もある。


必要なのは、いつでも同じ行動をすることではない。


状況を見て、判断を変えることだった。


⸻


昼過ぎ、三人は森林集落へ向かった。


旧設備管理路の入口では、調査員たちが地図を広げて話し合っていた。


昨日まで地面に置かれていた測量用の目印が、一部移動している。


「何か変わりましたか?」


悠真が尋ねると、調査員が振り返った。


「基礎の周囲を再測量した。最初に想定していた形より、少し東側へ広がっているらしい」


端末に新しい地図が表示された。


【旧設備基礎】


【調査範囲:更新】


【構造推定:再計算中】


【設備本体:未確認】


【用途:不明】


以前の記録では、基礎は比較的小さな構造物だと考えられていた。


しかし、周囲の地面を調べた結果、埋没している部分が想定より広い可能性が出てきたという。


「じゃあ、何か大きな設備があったんですか?」


「まだ何とも言えない。基礎が大きいからといって、設備本体も大きかったとは限らないからな」


調査員は別の画面を開いた。


そこには、周囲の地形と、発見された固定穴の位置が示されていた。


「土が積もったことで、もともとの地形が変わっている可能性もある。古い地図との照合も必要だ」


悠真は地図を見つめた。


地面の上から見れば、ただの金属板が埋まっているだけに見える。


少し掘れば固定穴が見つかり、さらに調べれば、最初に考えていた形とは違う構造が見えてくる。


最初の印象だけでは、全体は分からない。


「全部を掘り出すのは大変そうですね」


「時間はかかるだろう。周囲の地盤も確認しながら進める必要がある」


調査員はそう答え、作業に戻っていった。


三人は、立ち入りが許可されている場所から新しい測量点を確認した。


昨日までの目印とは異なる場所に、いくつかの番号が追加されている。


そのうちの一つには、簡単な説明が付いていた。


【測量点:M-06-B】


【位置:基礎東側】


【地形情報:更新】


【調査状態:継続】


カイが画面を見た。


「M-06-Aの次だから、単純に次の測量点ってことか?」


「たぶんね。でも、番号が続いていることと、設備の番号がつながっていることは別だよ」


悠真が答えると、リオンが小さく笑った。


「最近、そういうことをよく言うようになったな」


「だって、前にそれで勘違いしそうになったから」


悠真は地図を保存した。


新しい測量点が増えた。


基礎の形状について、これまでの推定が修正された。


それ以上のことは、まだ分からない。


しかし、調査範囲は少しずつ具体的になっていた。


⸻


調査員たちが作業を続ける一方で、森林集落の別の場所では、NPCの修理工たちが運搬用の荷車を修理していた。


荷車の車輪を交換し、荷台の板を固定し直している。


近くでは、資材を運んできたNPCが、修理の終わるのを待っていた。


「この荷車、昨日も修理していなかった?」


悠真が尋ねると、近くの作業員が答えた。


「昨日は左側の車輪を直した。今日は荷台の固定具を交換している」


「同じ荷車なのに、別々に修理するんだ」


「車輪と荷台では、壊れる場所が違うからな」


作業員は固定具を締め直し、荷車を押して動きを確かめた。


「これなら、しばらく資材を運べるだろう」


修理が終わると、荷車は資材置き場へ向かっていった。


悠真は、その様子を見送った。


旧設備の調査も、道路の修復も、荷車の修理も、同じ世界の中で起きている。


しかし、それぞれの作業には別々の理由があり、別々の手順がある。


古い設備の謎を解けば、すべてが一度に分かるわけではない。


むしろ、世界には謎とは関係のない仕事も、毎日続いている。


悠真は、そういうところも《クロスギア》の面白さだと思っていた。


⸻


その日の夕方、開発側では新しい調査記録が追加された。


【旧設備基礎】


【調査範囲:拡張】


【構造推定:更新】


【用途:未判定】


【旧型通信設備との関連性:未確認】


担当者は以前の地図と、新しい測量結果を重ねて表示した。


基礎の推定範囲は、最初の記録より東側へ広がっている。


しかし、その位置にどのような設備が存在していたのかは、依然として分からない。


別の画面には、M-06の接続箱と金属製プレートの情報が表示されていた。


プレートの規格記号は一部判読できたが、具体的な設置先は特定されていない。


「基礎の範囲が変わったことで、プレートの発見位置との関係も見直す必要がありますね」


担当者が言った。


「そうだ。以前の推定を、そのまま前提にしないようにしてくれ」


「分かりました」


担当者は調査記録を更新した。


新しい情報が出れば、以前の推定が変わることもある。


それは、以前の調査が無意味だったということではない。


その時点で得られた情報から考えた結果が、追加の情報によって修正されたということだった。


記録室の画面には、修正前と修正後の地図が並んでいた。


まだ設備本体は見つかっていない。


用途も不明のままだ。


ただ、地面の下に残されたものの形は、昨日よりも少しだけ具体的になっていた。


⸻


悠真がログアウトすると、母親がリビングで洗濯物を畳んでいた。


「今日は長かった?」


「そんなに長くないよ。ランキング戦をやって、そのあと古い設備を見に行った」


「また、あの調査?」


「うん。基礎が思っていたより広いかもしれないんだって」


母親は手を止めた。


「じゃあ、最初に考えていたことが変わったの?」


「そう。最初の地図だけでは、全部は分からなかったみたい」


「調べてみたら違った、ということね」


「うん。でも、まだ何なのかは分からない」


母親は畳み終えた服を重ねた。


「分からないことがあっても、すぐに決めなくていいんじゃない?」


悠真は笑った。


「最近、カイにも似たようなことを言われるよ」


「それは、ゲームの中で?」


「そう。相手が逃げていると思って追いかけたら、逆に罠だったりするから」


「それなら、ゲームの中でも外でも、よく見てから決めたほうがいいのかもね」


悠真は少し考えた。


「でも、ずっと考えていたら、何もできなくなることもあるよ」


母親はうなずいた。


「そうね。だから、分かるところまで調べて、それから動けばいいんじゃない?」


悠真は、その言葉を聞いて、明日の予定を考えた。


ランキング戦には、また参加するつもりだった。


旧設備管理路の調査も、進んでいれば見に行きたい。


ただし、どちらも今日と同じ結果になるとは限らない。


勝てる試合もあれば、負ける試合もある。


調査が進む日もあれば、何も新しいものが見つからない日もある。


それでも、ゲームの世界は動き続ける。


悠真は端末を片づけ、夕食の準備を手伝い始めた。


明日になれば、また別の場所で、別の何かが変わっているかもしれなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。