第八十四章 記録された座標
水曜日の放課後。
悠真がクロスギアにログインすると、フレンド一覧にKAIの名前が表示されていた。
RIONはまだオンラインではない。
悠真はメインロビーの地域情報を確認した。
【森林集落・旧輸送路】
【修復状況:継続】
【旧設備管理路:調査中】
大きな更新はなかった。
昨日見つけたM-06も、まだ用途不明のままだ。
「今日は別の場所を調べようかな」
悠真がつぶやくと、KAIからメッセージが届いた。
《今日はランキング戦に行くか?》
《少しだけなら》
《じゃあ、一戦やろうぜ》
悠真はKAIと合流し、ランキング戦の受付へ向かった。
*
ランキング戦は、三対三のチーム戦だった。
対戦相手は、近距離戦を得意とするプレイヤーと、遠距離から支援するプレイヤーを組み合わせたチームだった。
試合開始と同時に、KAIが前へ出る。
悠真は少し距離を保ち、敵の動きを見ながら進んだ。
最初の交戦では、KAIが相手の近距離型とぶつかった。
悠真は援護しようとしたが、敵の遠距離型が射線を変え、側面から攻撃してきた。
「そっちか!」
悠真は回避したものの、機体の耐久値が減った。
敵は、悠真がKAIを援護するために近づくことを予測していたらしい。
悠真は一度距離を取り、地形を利用して敵の射線を遮った。
その間にKAIが前方の敵を押し返し、二人は位置を入れ替えた。
試合は接戦になった。
最後の局面で、悠真は敵の動きを読み違え、攻撃を受けた。
機体が大きくよろめき、画面に警告が表示される。
【機体耐久値:低下】
「悠真、下がれ!」
KAIの声が届いた。
悠真は無理に反撃せず、後退した。
KAIが相手の攻撃を引きつけ、その隙に悠真は体勢を立て直す。
しかし、時間切れまでに相手の機体をすべて撃破することはできなかった。
【ランキング戦:敗北】
悠真は画面を見つめた。
「惜しかったな」
KAIが言った。
「うん。でも、途中で敵の動きを読み違えた」
「相手もこっちの動きを見ていたってことだ。次は変えればいい」
悠真は頷いた。
一度の敗北で、すべてが分かるわけではない。
けれど、自分がどこで判断を誤ったのかを振り返ることはできる。
悠真は対戦記録を保存し、ランキング戦を終えた。
*
その後、RIONがログインした。
三人は森林集落へ向かい、旧設備管理路の調査記録を確認することにした。
現地では、NPCの作業員たちが昨日と同じ場所で作業を続けていた。
ただし、平地の端に新しい測量標識が設置されている。
【測量点:M-06-A】
【座標記録:保存済み】
悠真は標識を確認した。
「昨日は、こんなのなかったよね」
「調査が進んだんだろうな」
KAIが答えた。
近くにいたNPCの測量担当者が、三人に説明した。
「昨日確認した接続箱を基準点として、周囲の地形を測量している。古い地図と現在の地形を照合するためだ」
「古い地図と、今の地形は違うんですか?」
悠真が尋ねた。
「一部は一致しているが、すべてではない。地形そのものが変わった場所もあるし、古い地図の精度が低い場所もある。記録の欠損によって、正確な位置が分からない区間もある」
測量担当者は端末を操作した。
「ただ、いくつかの地点については、古い座標記録が残っている。これから、それを現地の測量結果と照合するところだ」
悠真たちは、その作業を見守った。
*
測量担当者の端末に、古い座標記録が表示された。
【旧設備管理路・座標記録】
【基準点:M-06】
【記録状態:部分保存】
【次地点:座標あり】
【設備識別:欠損】
「次の地点が分かるんですか?」
悠真が尋ねた。
「座標は残っている。ただし、そこに何があったのかは分からない」
測量担当者は地図上に座標を表示した。
その地点は、現在の地図では森の奥に位置していた。
旧地図では、管理路の分岐点に近い場所だった。
「ここなら、今の道からも近そうだね」
RIONが言った。
「ただ、地形が変わっている可能性はある。実際に到達できるかどうかは、現地を確認しないと分からない」
測量担当者は、座標を保存した。
【次地点:座標登録】
【現地確認:未実施】
【設備の有無:不明】
悠真は、その地点を自分の地図にも登録した。
新しい場所が見つかった。
しかし、それが通信設備なのか、電源設備なのか、単なる管理用の標識なのかは分からない。
三人は、作業員の許可を得て、座標の近くまで歩いてみることにした。
*
指定された地点へ向かう道は、途中から細くなっていた。
草木が伸び、地面には倒れた枝が散らばっている。
地図上の座標には近づいていたが、周囲には目立った建物が見当たらなかった。
悠真は位置情報を確認した。
「もうすぐだと思うんだけど……」
KAIが周囲を見回す。
「何もないな」
RIONは足元に目を向けた。
「待って。地面の形が少し違う」
三人が近づくと、草に隠れた低い金属板が見つかった。
悠真が周囲の草を避けると、金属板の端に古い固定具が見えた。
【旧設備基礎】
【状態:埋没】
【設備本体:未確認】
【識別番号:欠損】
「設備があった場所なのかな?」
悠真が言った。
RIONは金属板の周囲を調べた。
「基礎の形は人工物に見える。でも、何の設備だったのかは分からないね」
KAIが地面を見下ろした。
「本体はどこへ行ったんだ?」
「撤去されたのかもしれないし、土に埋まっているのかもしれない。最初から別の設備の基礎だった可能性もある」
悠真は周囲を探したが、識別番号や記録板は見つからなかった。
【旧設備基礎:発見】
【座標記録:一致】
【設備用途:不明】
【本体の所在:未確認】
悠真は情報を保存した。
新しい設備が見つかったことは確かだった。
ただ、これで何かがつながったとは言えない。
三人は基礎の周囲を記録し、測量担当者に位置情報を送った。
その後、森林集落へ戻った。
*
メインロビーに戻ると、悠真は今日の探索記録を整理した。
旧設備管理路。
M-06。
M-06-A。
そして、座標が一致した埋没設備基礎。
それぞれの情報は保存できたが、設備同士の関係はまだ分からない。
「少しずつ場所は見つかってるね」
悠真が言った。
RIONは頷いた。
「うん。でも、位置が近いことと、同じ設備網に属していることは別だからね」
KAIはランキング戦の対戦記録を見返していた。
「調査も戦闘も、すぐに答えが出るとは限らないってことか」
「そういうことだと思う」
悠真は地図を保存した。
その日は、追加の探索をせずにログアウトした。
*
夜。
運営施設では、旧設備管理路の測量記録が更新されていた。
【旧設備管理路】
【基準点:M-06】
【座標記録:部分復旧】
【旧設備基礎:発見】
【設備本体:未確認】
担当者が報告した。
「古い座標と現地の位置が一致しました。ただし、見つかったのは設備基礎だけです。本体や識別番号は確認できていません」
責任者は地図を確認した。
「周囲にほかの設備は?」
「現時点では見つかっていません。地中の調査もまだです」
「では、設備基礎として記録しておこう。用途は推定しないこと」
担当者は記録を更新した。
【旧設備基礎】
【用途:未判定】
【旧型通信設備との関連性:未確認】
【追加調査:保留】
別の画面では、森林集落のNPCたちが測量作業を続けていた。
彼らは古い座標を現地の地形と照合し、通行可能な場所を確認している。
その作業は、悠真たちがログアウトしたあとも続いていた。
旧設備管理路には、まだ確認されていない地点が残っている。
けれど、そこに何があるのかは、地図だけでは分からない。
記録された座標は、次に向かう場所を示しているにすぎなかった。




