↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
80/320

第八十章 修復される世界

土曜日の朝。


悠真は目覚まし時計が鳴る前に目を覚ました。


窓の外は明るく、部屋には静かな朝の空気が流れている。


昨日はゲームを終えたあと、いつもより早く眠った。そのおかげか、頭もすっきりしていた。


朝食を食べ、母親の手伝いを少ししてから、悠真は机に向かった。


学校の宿題は残っていない。


「今日は早くから遊ぶの?」


母親が尋ねた。


「うん。でも、昨日見つけたところの続きだけ。まだ先には行けないかもしれないけど」


「そう。疲れたら休憩するのよ」


「分かってる」


悠真は自分の部屋へ戻り、クロスギアを起動した。


【メインロビー接続中】


【現在のオンライン人数:241,592】


土曜日ということもあり、ロビーは平日よりにぎわっていた。


ランキングの更新を確認するプレイヤー、装備を交換するプレイヤー、仲間を募集するプレイヤー。


その中で、悠真はKAIからのメッセージを見つけた。


《昨日の保守所、気になるな》


悠真は返事を送った。


《ぼくも。今日はもう一度行ってみよう》


RIONも合流し、三人は森林集落へ向かった。


          *


旧輸送路の入口に着いたとき、悠真はすぐに違いに気づいた。


昨日まで道を塞いでいた大きな岩が、脇へ移動されていた。


地面には新しい轍が残り、道の両側では作業用の機体が動いている。


「昨日より進めるようになってるな」


KAIが言った。


道の先では、NPCたちが崩れた土を取り除いていた。


一人が資材を運び、別の一人が補強材を設置している。少し離れた場所では、作業の進行状況を確認しているNPCもいた。


悠真たちが近づくと、そのNPCが振り向いた。


「昨日も来ていた者たちだな」


「はい。道の修復が進んだんですね」


「ああ。昨日、保守所の設備を確認したあと、古い作業記録が見つかった。使える資材の保管場所が分かったので、修復を続けられるようになったんだ」


悠真は驚いた。


「ぼくたちが見つけた設備が役に立ったんですか?」


「直接のきっかけは、保守所の位置が確認できたことだな。だが、修復に使った資材は別の場所に保管されていた。すべて君たちのおかげというわけではない」


NPCは淡々と答えた。


その言い方が、悠真には少し面白かった。


プレイヤーが何かを発見すれば、それだけで世界が動くわけではない。


もともと世界には、世界なりの事情がある。


誰かが作業を続け、別の誰かが資材を運び、必要なものがそろえば、止まっていた道も少しずつ使えるようになる。


「奥の施設まで行けるようになったんですか?」


RIONが尋ねた。


「まだだ。途中に崩落している場所がある。通行できるようになるまで、もう少しかかるだろう」


「分かりました」


悠真たちは、作業の邪魔にならないように道の端を通り、保守所へ向かった。


          *


保守所に到着すると、昨日は停止していた設備小屋の扉が開いていた。


内部では、NPCの整備士が配電盤を調べていた。


「こんにちは」


悠真が声をかける。


「おや、昨日の探索者か」


整備士は手を止めた。


「この設備を直しているんですか?」


「直せるところからな。蓄電設備は完全に使えなくなっているが、配電盤の一部はまだ生きている。記録媒体も、電源が安定すれば読み出せるかもしれない」


整備士は配電盤を指した。


【旧型配電盤】


【設備診断:進行中】


【H-012:状態確認中】


【H-019:状態確認中】


「昨日は、この番号しか分からなかったんです」


悠真が説明すると、整備士は頷いた。


「H-012は旧輸送路の照明設備、H-019は保守所の予備電源に割り当てられていたようだ。少なくとも、ここでは通信設備の番号ではないな」


悠真は少し考えた。


「じゃあ、通信設備とは関係ないんですか?」


「それはまだ分からない。電源設備の番号と、通信設備の番号が別々に管理されていた可能性もある。ただ、今の情報だけで結びつける理由はないだろう」


RIONが頷いた。


「設備番号が違うから無関係とも、同じ場所にあるから関係があるとも言えない、ということですね」


「そういうことだ」


整備士は再び作業に戻った。


悠真は昨日保存した記録を更新した。


【H-012:旧輸送路照明設備】


【H-019:保守所予備電源】


【通信設備との関連性:未確認】


これで、少なくとも二つの番号については意味が分かった。


通信網の手がかりが増えたわけではない。


それでも、分からなかったものの一部が、別のものだと確認できた。


悠真はそれを無駄だとは思わなかった。


          *


三人は保守所の端末をもう一度調べた。


電源はまだ入らなかったが、整備士が装置の裏側を確認したことで、記録媒体の取り外しが可能になった。


「読み出しには専用の設備が必要だ。ここでは無理だな」


整備士は小さなケースに記録媒体を収納した。


「集落の整備工房に古い読み取り機がある。そちらへ運んでおこう」


「ぼくたちも見に行っていいですか?」


「構わない。ただし、修復作業が終わるまで、結果が出るとは限らないぞ」


悠真たちは礼を言った。


保守所を出ると、KAIが口を開いた。


「今日は通信設備の新しい情報は出なかったな」


「うん。でも、保守所の記録媒体を調べられるようになった」


「いつ解析できるかは分からないけどね」


RIONの言うとおりだった。


三人が見つけたものは、すぐに答えを与えてくれるとは限らない。


装置が動かないこともある。


記録が壊れていることもある。


そして、調べた結果、通信とは関係のない設備だと分かることもある。


それでも、少しずつ確認していけば、少なくとも最初よりは正確な地図ができる。


悠真は地図を保存した。


次に来るときには、道がもう少し先まで開通しているかもしれない。


          *


午後、悠真たちはいったんメインロビーへ戻った。


KAIはランキング戦へ向かうと言い、RIONは遠距離装備の調整を始めた。


悠真も、しばらく考えてから通常任務を選んだ。


通信設備の調査ばかりでは、ほかの遊び方を忘れてしまう。


今日の任務は、森林集落の近くで行う資材輸送の護衛だった。


輸送車両を守りながら、指定された地点まで移動する。


任務が始まると、NPCの輸送担当者が車両の速度を調整し、途中の障害物を避けながら進んだ。


途中、道が狭くなった場所で車両が止まった。


「前方の障害物を除去する。少し待ってくれ」


NPCがそう告げると、別のNPCが車両を降り、道路脇の木材を移動させ始めた。


悠真は周囲を警戒しながら待った。


以前なら、プレイヤーが何もしない時間は、ただの待ち時間だと思っていたかもしれない。


しかし、今は少し違う。


NPCたちは、プレイヤーが操作しなくても、自分たちの仕事を続けている。


障害物が取り除かれると、輸送車両は再び動き始めた。


任務は大きな戦闘もなく、無事に完了した。


【任務達成】


【輸送物資:到着】


【輸送車両:無傷】


【報酬:獲得】


悠真は報酬を確認し、満足そうに頷いた。


特別な発見がなくても、こういう任務にはこういう任務の面白さがある。


          *


その夜、運営施設では、旧輸送路の修復記録が更新されていた。


【旧輸送路】


【修復状態:進行中】


【保守所:調査継続】


【旧中継施設:未到達】


担当者が報告した。


「プレイヤーが発見した保守所について、NPC側の修復作業が進んでいます。旧作業記録から資材の保管場所が確認され、道路の一部が通行可能になりました」


責任者は記録を確認した。


「通信設備の調査は?」


「新しい通信先は見つかっていません。H-012とH-019についても、保守所の照明設備と予備電源だと確認されています」


「分かった。無関係な記録まで同じものとして扱わないように」


責任者は画面を切り替えた。


旧型通信設備の一覧には、依然として複数の不明項目が残っている。


港湾設備のP-037。


森林集落の通信装置。


旧工業地区の制御装置。


それぞれの情報は、まだ一つの構造として説明できる段階にはなかった。


「道路の修復は、そのまま進めていい。プレイヤーの調査結果とは別に、NPC側の作業記録も残しておいてくれ」


「了解しました」


記録が更新される。


【旧輸送路の修復:継続】


【旧型通信設備の照合:継続】


【両者の関連性:未確認】


二つの作業は、同じ世界の中で進んでいた。


だが、同じ世界で起きているからといって、必ずしも同じ目的を持っているわけではない。


今のところ、誰にもそれを断定する材料はなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。