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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第七十九章 地図にない道

金曜日の放課後。


悠真は学校から帰ると、いつものように宿題を始めた。


算数の問題を解き、国語のプリントに目を通す。途中で一問だけ答えに迷ったが、教科書を確認すると解決した。


「終わった」


机の上を片づけ、悠真は母親に声をかけた。


「宿題、終わったよ」


「分かった。ゲームをするなら、今日はあまり遅くならないようにね」


「うん」


母親はそれ以上何も言わなかった。


悠真は自分の部屋に戻り、クロスギアを起動した。


【メインロビー接続中】


【現在のオンライン人数:213,904】


金曜日になり、オンライン人数は前日より少し増えていた。


ロビーでは、週末限定のイベントを待つプレイヤーたちが話をしている。


悠真はKAIとRIONに連絡した。


《昨日見つけた古い道、調べに行こう》


KAIからすぐに返事が来た。


《了解。場所は分かるのか?》


《地図に残ってるよ》


RIONも合流した。


三人は森林集落へ向かった。


          *


森林集落の東側には、現在使われている道路とは別に、草木に覆われた細い道が残っていた。


入口には古い案内板が立っている。


文字の大部分は消えていたが、かろうじて「旧輸送路」という表示が読み取れた。


「本当に道が残ってるな」


KAIが周囲を見回した。


「でも、かなり荒れてるね」


RIONは地面を確認した。


道の中央には草が伸び、ところどころで土が崩れている。大きな岩が転がっている場所もあった。


悠真が進もうとすると、画面に通知が表示された。


【未整備区域】


【現在の通行条件:徒歩機体のみ】


【車両通行:不可】


「機体を変えないと駄目みたいだ」


悠真たちは装備を変更し、徒歩で進むことにした。


道は森の中へ続いていた。


途中には壊れた標識があり、かつて分岐路だったらしい場所もあった。


現在の地図には載っていない。


悠真は位置情報を保存した。


「この道、どこまで続いているんだろう」


「行けるところまで行こう。ただし、帰り道は確認しておけよ」


KAIの言葉に、悠真は地図を保存した。


三人はさらに奥へ進んだ。


          *


歩き始めて二十分ほど経ったころ、道の先に小さな建物が現れた。


屋根の一部が崩れ、壁には蔦が絡まっている。


入口には、古い金属板が取り付けられていた。


【旧輸送路保守所】


【施設状態:休止】


【管理者:未登録】


「保守所か」


KAIが入口を調べた。


扉は半分開いていた。


中には、壊れた工具棚や空の収納箱が残されている。壁際には古い作業用端末が置かれていた。


悠真が端末を起動しようとしたが、反応はなかった。


【電源:停止】


【記録媒体:装着済み】


【媒体状態:読み取り不能】


「記録媒体が残ってる」


RIONが端末の裏側を確認した。


「ただ、電源がない。ここで無理に取り外すより、近くに電源設備がないか探そう」


三人は建物の周囲を調べた。


保守所の裏手には、小さな設備小屋があった。


扉を開けると、内部に古い蓄電設備と配電盤が並んでいる。


しかし、蓄電設備は完全に停止していた。


【旧型蓄電設備】


【残存電力:0】


【充電機能:停止】


【外部電源接続:未確認】


悠真は配電盤の表示を確認した。


そこには、いくつかの設備番号が残っていた。


【接続設備一覧】


【H-012】


【H-019】


【識別番号:欠損】


「H-012とH-019……」


悠真は記録した。


港で見つけたP-037とは異なる番号だ。


同じ通信設備の系列なのか、それとも単に施設内の設備番号なのか。


この表示だけでは判断できない。


「別の番号が出てきたな」


KAIが言った。


「うん。でも、これが通信設備と関係しているかも、まだ分からない」


悠真は配電盤の画面を保存した。


そのとき、建物の外から足音が聞こえた。


          *


入口に立っていたのは、一人のNPCだった。


作業用の機体を使い、肩には工具袋を下げている。


「ここに来る者がいるとは珍しいな」


NPCは三人を見て言った。


「この施設を調べているのか?」


「はい。古い設備を見つけたので」


悠真が答えた。


NPCは設備小屋の中をのぞき込んだ。


「なるほど。私は西側の輸送路を修復している。最近、こちらの保守所にも部品が残っていないか確認するよう頼まれたんだ」


「修復しているんですか?」


「そうだ。集落から東側への輸送を再開できれば、運べる資材が増えるからな。ただ、この道は長い間使われていなかった。崩れた場所も多い」


NPCは工具袋から紙の地図を取り出した。


そこには、現在の地図とは違う道路が描かれていた。


森林集落から東へ延びる旧輸送路は、保守所の先で南へ曲がっている。


さらに進むと、小さな中継施設らしい記号があった。


「この先に、もう一つ施設があるんですか?」


悠真が尋ねた。


「地図ではそうなっている。ただ、私はまだそこまで到達していない。道が崩れていてな」


NPCは地図をしまった。


「修復が進めば、いずれ調べることもできるだろう」


悠真たちは顔を見合わせた。


新しい目的地が見つかった。


だが、すぐに向かえるわけではない。


道の状態が悪く、NPCもまだ到達できていない場所なのだ。


「ありがとうございました」


悠真は礼を言った。


NPCは軽く手を上げ、工具を取り出して保守所の外壁を点検し始めた。


三人が会話を終えたあとも、NPCは作業を続けていた。


          *


「今日はここまでかな」


RIONが言った。


「そうだね。電源もないし、端末も起動できない」


悠真は保守所の位置と設備番号を保存した。


【旧輸送路保守所】


【H-012:確認】


【H-019:確認】


【記録媒体:未解析】


【旧中継施設:未到達】


三人は森林集落へ戻った。


帰り道、悠真は何度か後ろを振り返った。


保守所では、あのNPCがまだ作業をしていた。


彼らがログアウトしている間にも、NPCは修復を続けるのだろう。


次に来たときには、道が少し変わっているかもしれない。


あるいは、保守所の端末が動くようになっているかもしれない。


悠真はそれを楽しみにしながら、メインロビーへ戻った。


          *


同じ夜。


運営施設では、悠真たちが保存した設備情報が確認されていた。


【旧輸送路保守所】


【設備番号:H-012】


【設備番号:H-019】


【旧中継施設:記録あり】


担当者が地図を表示した。


森林集落の通信装置、港湾通信端末、旧工業地区の制御装置。


それぞれの場所に記録された設備番号を、旧地図と照合していく。


しかし、すべての番号が一致するわけではなかった。


P-037は港湾設備の記録に複数回現れている。


一方、H-012とH-019は、現時点では保守所の配電盤にしか確認されていない。


「番号体系が違いますね」


担当者が言った。


「同じ設備網のものとは限りません。施設内の管理番号という可能性もあります」


責任者は頷いた。


「その可能性も残しておこう。旧輸送路に中継施設があるという記録は重要だが、通信設備だと決まったわけではない」


「NPCによる修復作業も進んでいます」


「なら、その変化も記録しておいてくれ。プレイヤーが発見した設備だけでなく、世界の側で何が変化するのかも確認したい」


担当者は記録を追加した。


【旧輸送路:修復作業中】


【保守所:再発見】


【旧中継施設:未確認】


【設備番号の共通性:未判定】


画面の地図には、まだ確認されていない道が何本も残っていた。


その先に何があるのか。


古い設備が何のために設置されたのか。


そして、現在の世界から失われたものが何だったのか。


今の段階では、どれも答えが出ていなかった。


ただ、旧輸送路の修復が進めば、これまで誰も訪れていなかった場所にも、少しずつ人と機体が戻ってくる。


悠真たちが次にログインしたとき、世界はまた少し変わっているかもしれなかった。

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