↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
70/312

第七十章 予定にない来訪者

木曜日の放課後。


悠真は宿題を終えると、ランドセルを机の横に置いた。


「今日は早く帰ってきたのね」


母親が台所から声をかけた。


「うん。授業が少し早く終わったんだ」


「ゲームをする前に、明日の準備も忘れないでね」


「もう終わったよ」


母親は部屋をのぞき、机の上を確認した。


「本当だ。じゃあ、遊んでいいわよ。疲れたら、ちゃんと休みなさい」


「分かった」


悠真はクロスギアに接続した。


【接続を開始します】


【メインロビー】


【オンライン人数:205,782】


ロビーの人数は、少しずつ減っていた。


以前は、ログインするたびに見かける名前がたくさんあった。今も同じ名前を見かけることはあるが、最近はしばらく見ていないプレイヤーも増えている。


悠真は掲示板を開いた。


港湾施設の任務は、昨日の記録が更新されたばかりだった。


【港湾施設:輸送設備試験】


【北部旧市街:物資輸送準備】


【森林の集落:資材倉庫建設】


三つの地域で、それぞれ新しい動きがある。


悠真は少し迷ってから、港湾施設を選んだ。


昨日の輸送機が、実際に荷物を運べるようになったのか気になっていた。


KAIとRIONも、ほどなくログインした。


「今日は港か?」


KAIが尋ねた。


「うん。輸送機がどうなったか見たい」


「なら、先に確認しておこう」


三人は港湾施設へ向かった。


          *


港に着くと、輸送機はすでに動き始めていた。


倉庫の前に積まれた部品を載せ、ゆっくりと出発するところだった。


整備担当のNPCが、運転席の横で計器を確認している。


「今日から本格的に運用するの?」


悠真が尋ねた。


「まだ試験段階だ。まずは少量の荷物を運んで、問題がないか確かめる」


「どこまで行くの?」


「北部旧市街までだ。そこで荷物を下ろし、向こうの担当者に確認してもらう」


輸送機の荷台には、修理用の部品が積まれていた。


それほど多くはない。


しかし、以前なら何度も人手で運ばなければならなかった量だ。


「これがうまくいけば、もっと運べるようになるんだね」


「そういうことだ」


NPCはうなずいた。


悠真たちは輸送機の出発を見送った。


その後、港湾施設の管理所で別の任務を確認していると、見慣れないNPCが入ってきた。


服装は、この港の作業員たちとは少し違っていた。腰には工具袋を下げ、手には古い端末を持っている。


「ここが港湾施設か?」


NPCが管理担当に尋ねた。


「ああ。何か用か?」


「北部旧市街から来た。輸送機が動き始めたと聞いてな。こちらの設備と接続できるか、確認したい」


管理担当は少し考えた。


「設備の接続については、まだ試験中だ。担当者を呼ぼう」


NPCは待つ間、周囲を見回していた。


悠真はその姿を見て、声をかけた。


「旧市街から来たの?」


「ああ。あそこの整備区画で働いている」


「輸送機は動いたよね?」


「動いた。ただ、荷物を運ぶだけならともかく、港の設備と連動させるには、まだ調整が必要だ」


NPCは端末を操作し、画面を見せた。


そこには、輸送機の運行記録と、港の設備情報が並んでいた。


「輸送機が港に着いたら、荷物を下ろす場所を自動で知らせる仕組みを作りたいんだ。今は担当者が毎回確認しているが、運行回数が増えれば、それだけでは間に合わなくなる」


悠真は画面を眺めた。


「それなら、港の人たちと相談しないといけないんだね」


「そうだ。向こうだけで決めても、こちらの設備が対応できなければ意味がない」


NPCはそう言って、管理担当のもとへ戻った。


やがて両方の担当者が集まり、設備の接続について話し始めた。


悠真たちは、その話をしばらく聞いていた。


専門的な内容が多く、すべてを理解できたわけではない。


ただ、一つ分かったことがあった。


輸送機が動くようになったからといって、それだけで輸送の仕組み全体が完成するわけではない。


荷物を運ぶ側と、受け取る側。


それぞれの設備と、そこで働くNPCたち。


別々の場所で進められてきた仕事をつなぐには、まだ調整が必要だった。


          *


話し合いが終わると、旧市街から来たNPCが悠真たちに声をかけた。


「せっかくだから、少し手伝ってもらえないか」


「何をすればいいの?」


「港の荷受け設備と、輸送機の停止位置を確認したい。実際に動かしてみないと、うまく接続できるか分からないからな」


【追加任務:輸送設備の接続確認】


【確認項目:停止位置】


【確認項目:荷受け設備】


【確認項目:運行記録】


三人は任務を受注した。


輸送機が到着する予定時刻まで、港の荷受け設備を確認する。


倉庫の扉が開く範囲。


荷台から荷物を下ろすための空間。


運搬機が通れる幅。


それぞれの項目を確認し、端末に記録していった。


しばらくして、輸送機が港へ戻ってきた。


機体はゆっくりと停止位置に入り、荷受け設備の前で止まった。


一度目は、少しだけ位置がずれた。


二度目は、問題なく停止できた。


荷物を下ろす作業も、無事に終わった。


【停止位置:確認完了】


【荷受け設備:確認完了】


【運行記録:取得完了】


【総合評価:A】


大きな報酬はなかった。


しかし、輸送機は港と旧市街を往復できるようになった。


旧市街から来たNPCは、満足そうに端末を閉じた。


「これなら、次はもう少し多くの荷物を運べそうだ」


「よかったね」


悠真が言うと、NPCはうなずいた。


「ただ、今度は向こうの倉庫を整理しないとな。荷物が増えれば、置き場所も必要になる」


KAIが笑った。


「一つ解決すると、次の問題が出てくるんだな」


「そういうものだろう」


NPCは当然のことのように答えた。


悠真は、その言葉を聞いて笑った。


ゲームの中でも、何かを始めれば、別のことを考える必要が出てくる。


それは特別な仕組みというより、普通のことなのかもしれなかった。


          *


任務を終えた悠真たちは、メインロビーへ戻った。


RIONは取得した記録を整理していた。


「今回の任務、戦闘は一度もなかったね」


「うん」


「それでも、前よりできることが増えた」


悠真はランキングを開いた。


【総合ランキング】


1位:KAI


2位:RION


3位:YUMA


順位は変わっていない。


「こういう任務も、ランキングに影響するのかな?」


悠真が尋ねると、RIONは首を振った。


「大きな影響はないと思う。少なくとも、戦闘能力が直接上がるわけじゃないからね」


「そっか」


悠真は画面を閉じた。


強くなるためだけなら、もっと効率のいい任務がある。


それでも、今日の任務は面白かった。


自分たちが運んだ荷物が、別の場所で使われる。


修理された設備が、別の仕事を可能にする。


その先で、また新しい問題が見つかる。


それを全部追いかけるつもりはなかった。


ただ、気になったら、また見に来ればいい。


「今日はそろそろ終わりにするよ」


悠真が言った。


「もういいのか?」


KAIが尋ねる。


「うん。明日も学校があるし、続きはまた今度」


「分かった。またな」


悠真はログアウトした。


          *


クロスギアの運営施設。


担当者が、港湾施設と北部旧市街の最新データを確認していた。


【輸送機:往復運行成功】


【荷受け設備:接続確認】


【運行記録:取得成功】


【設備間調整:継続】


「今回の任務で、二つの地域の設備が接続されました」


担当者が報告した。


「輸送機の修理だけでなく、港側の荷受け設備も調整する必要があったということか」


「はい。片方の設備が動いても、もう片方が対応できなければ、輸送全体は成立しません」


責任者は、二つの地域の画面を並べた。


「この先、接続先が増えれば、調整する対象も増えるな」


「そうなります。森林の集落との物資移動もありますし、今後は別の地域から接続要請が出る可能性もあります」


「予測はできるか?」


「ある程度は可能です。ただし、どのNPCが、いつ、どの設備を必要と判断するかまでは確定できません」


責任者は、少し考えてから言った。


「引き続き記録しよう。今は、世界の変化を一つの計画にまとめようとするより、変化がどのようにつながっているのかを確認する段階だ」


担当者は記録を保存した。


【地域間接続:拡大】


【設備相互運用:進行中】


【NPCによる新規要請:観測継続】


画面の片隅には、まだ処理されていない要請が一件表示されていた。


【送信元:不明】


【接続先:未登録】


【内容:確認待ち】


担当者は、その記録を開いた。


内容は、以前受信した破損データと関連しているようにも見えた。


しかし、確証はなかった。


「この記録は?」


責任者が尋ねた。


「以前から残っている未確認の通信です。現時点では、通常の地域間通信との関連を判断できません」


「消さずに保存しておこう。新しい情報が入れば、何か分かるかもしれない」


「了解しました」


画面が閉じられた。


港では、輸送機が次の運行に向けて整備されていた。


旧市街では、倉庫の整理が始まっていた。


森林の集落では、新しい資材の置き場所が検討されていた。


それぞれの場所で、次の仕事が生まれようとしていた。


そして、そのすべてを見ている者がいなくても、世界は少しずつ動いていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。