第六十四章 同じ失敗は、同じ結果にならない
木曜日。
放課後。
悠真は帰宅すると、ランドセルを置いた。
「ただいま」
「おかえり」
母親は時計を見る。
「今日は少し早いね」
「うん。今日は一回だけ遊ぶ」
「昨日もそう言ってなかった?」
「昨日は一回で終わったよ」
「それならいいけど」
悠真は宿題を終わらせてから、ゲームを起動した。
【クロスギア】
【現在オンライン:209,873】
平日になり、人数が少し減っている。
メインロビーを見る。
KAI。
RION。
MIZU。
四人ともいる。
KAIが通信を送ってきた。
《今日はどこ行く?》
悠真はランキングを見た。
1位 KAI
2位 RION
3位 YUMA
MIZUは少し下にいる。
しかし、以前より順位が上がっていた。
《普通の任務でいいんじゃない?》
RIONが言った。
「じゃあ、昨日の港の続き」
MIZUが提案した。
悠真は少し驚いた。
「また?」
「昨日の場所、まだ見てないところがある」
「いいよ」
四人で港へ向かう。
転送される。
昨日と同じ景色。
しかし、施設の入口には昨日と違う表示が出ていた。
【旧港湾施設】
【再調査可能】
「昨日はなかった」
KAIが言う。
MIZUは笑った。
「やっぱり続きがある」
施設へ入る。
昨日倒した防衛機械は消えている。
奥へ進む。
古い倉庫。
さらにその奥に、地下へ続く階段があった。
「昨日はここまで来てない」
悠真が言う。
階段を下りる。
地下には、古い作業場があった。
いくつもの機械が並んでいる。
その中央に一体のNPCがいた。
【NPC:整備員】
整備員はこちらを見ると、すぐに話しかけてきた。
「設備の修復を手伝ってください」
【特殊任務】
【港湾施設・復旧作業】
【推奨参加人数:4】
「戦闘じゃないのか」
KAIが言う。
「こういうのもあるんだな」
RIONが周囲を見る。
任務は単純だった。
壊れた設備を調べる。
必要な部品を探す。
NPCに渡す。
しかし、問題があった。
必要な部品が一つ足りない。
【必要部品:旧型制御基板】
【所在:不明】
四人で探す。
MIZUが古い倉庫を調べる。
KAIは作業場。
RIONは上階。
悠真はNPCに話しかけた。
「制御基板はどこ?」
「分かりません」
NPCは答えた。
「最後に使用された場所を記録しています」
画面に地図が表示される。
そこには昨日の戦闘場所が示されていた。
「昨日のところ?」
「はい」
四人は戻る。
しかし、制御基板はない。
「ないな」
KAIが言う。
MIZUが周囲を探す。
「別の場所に移動したんじゃないか?」
そのとき。
近くにいたNPCが、突然歩き始めた。
昨日も見たNPCだった。
四人は追いかける。
NPCは倉庫の裏へ向かう。
そこに小さな箱があった。
NPCが箱を開ける。
中から制御基板が出てくる。
【旧型制御基板】
RIONが驚く。
「そんなところにあったの?」
悠真はNPCを見る。
「昨日は何してた?」
NPCは答えない。
制御基板を整備員へ渡す。
修理が始まる。
機械が動く。
【復旧率:35%】
しかし、すぐに停止した。
【追加部品が必要です】
「また?」
KAIが笑う。
「終わらないな」
整備員が新しい部品を要求する。
四人で探す。
今度はすぐに見つかった。
修理を続ける。
一時間ほどして、
【復旧率:100%】
と表示された。
港の一部に電気が戻る。
灯りが点く。
停止していた輸送機が動き出す。
【施設復旧】
【特殊任務クリア】
【評価:A】
【報酬:なし】
MIZUが言う。
「報酬なし、またか」
悠真は笑った。
「でも、昨日より港が変わった」
確かに。
昨日まで暗かった場所に明かりがついている。
動かなかった機械が動いている。
NPCたちも、それぞれの仕事へ戻っている。
任務終了後。
MIZUが言った。
「じゃあ、今日はこれで」
KAIが聞く。
「もう終わる?」
「うん」
「疲れた?」
「少し」
MIZUは笑った。
「明日もやりたいから」
悠真はその言葉を聞いて、少し笑った。
「俺も」
四人はログアウトした。
現実。
悠真が夕食を食べていると、母親が言った。
「今日はどうだった?」
「港を直した」
「港?」
「ゲームの中の港」
「戦わなかったの?」
「少しだけ」
母親は頷いた。
「そういう日もあるんだね」
「うん」
悠真は食事を続けた。
その夜。
ゲーム会社。
【旧港湾施設】
【昨日】
【設備復旧率:0%】
【本日】
【設備復旧率:100%】
担当者がデータを見る。
「NPCが自分で必要な部品を探した?」
「はい」
「その行動は事前に設定されていた?」
「一部は設定されています」
「一部?」
「部品の所在までは固定されていません」
担当者が画面を見る。
【NPC行動:部品探索】
【行動結果:制御基板発見】
【プレイヤー介入:あり】
【NPC判断:あり】
「つまり、プレイヤーがいなくても、NPCは行動する」
「はい」
「プレイヤーがいると、その行動が変わることもある」
「はい」
担当者は少し考えた。
「じゃあ、同じ任務でも毎回同じ結果にはならない」
「その通りです」
画面にデータが追加される。
【同一任務】
【異なる行動】
【異なる結果】
【再現性:低下】
担当者はその表示を見つめた。
以前なら、ゲームとしては扱いにくい現象だった。
同じ任務なら、同じ条件で、同じ結果になる方が管理しやすい。
だが。
《クロスギア》では、そうならない。
プレイヤーが違う。
NPCも違う。
その日の判断も違う。
失敗した経験も違う。
だから、同じ場所へ戻ってきても、昨日と同じことが起きるとは限らない。
担当者は画面を閉じた。
【プレイヤー行動データ】
【NPC行動データ】
【相互作用データ】
三つのデータが重なっていく。
【統合率:84%】
そして、その下。
【予測誤差:上昇】
小さな数字が表示されていた。
誰も、それをすぐには問題にしなかった。
ただ、記録された。
一方。
悠真は布団に入る前に、明日のことを考えていた。
今日と同じ場所へ行けば、また何か変わっているかもしれない。
でも。
明日も同じ場所へ行くとは限らない。
そのとき何をするかも、まだ決めていない。
悠真は眠った。
ゲームの中では、夜になってもNPCたちが動き続けていた。
灯りのついた港で。
整備員が機械を確認している。
輸送機がゆっくり動いている。
誰もログインしていない時間にも。
世界は止まらなかった。




