↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
63/330

第六十三章 戻った場所、変わった場所

水曜日。


放課後。


悠真は家に帰ると、母親に声をかけた。


「ただいま」


「おかえり。今日は早かったね」


「うん」


「ゲームする前に宿題ね」


「分かってる」


昨日と同じように宿題を終える。


そのあと、少しだけ休んでからログインした。


【クロスギア】


【現在オンライン:214,287】


昨日より少し増えている。


メインロビーにはKAIとRIONがいた。


MIZUの名前もある。


「今日もいる」


悠真が言う。


KAIが笑った。


「昨日だけじゃなかったな」


MIZUから通信が届いた。


《今日は普通の任務にしたい》


《いいよ》


四人で任務を選ぶ。


【旧港湾都市・設備調査】


転送される。


古い港が広がっていた。


壊れた倉庫。


使われなくなった道路。


停止した輸送機。


NPCも少ない。


MIZUが周囲を見る。


「ここ、前にも来た気がする」


悠真が聞く。


「いつ?」


「かなり前」


MIZUは少し考えた。


「たぶん一年以上前」


「覚えてる?」


「全部は覚えてない」


四人で進む。


港の中央に、大きな管理施設があった。


入口にはNPCが一体立っている。


【NPC:管理員】


悠真たちが近づく。


「通行許可を確認します」


NPCが言う。


「この先は現在使用されていません」


KAIが聞く。


「中に入れない?」


「許可がありません」


MIZUが前へ出た。


「昔は入れたと思う」


管理員は答えない。


MIZUが昔の記録を確認する。


【過去任務】


【港湾施設調査】


【参加記録:MIZU】


しかし、現在の任務には含まれていない。


「前は入れたんだけどな」


MIZUが言った。


悠真は入口を見る。


「じゃあ、今は別の条件があるのかも」


四人で周囲を探す。


古い端末を見つけた。


電源を入れる。


【施設管理システム】


【現在の管理者:不在】


【代替管理者:検索中】


しばらくすると、


【候補:NPC管理員】


と表示された。


管理員が近づいてくる。


「管理権限を確認しました」


扉が開く。


「入れるようになった」


RIONが言った。


四人で中へ入る。


内部には、昔使われていた設備が残っていた。


輸送機。


修理設備。


古い通信装置。


そして壁に、いくつもの記録が残っている。


MIZUが一つの端末を操作した。


【旧任務記録】


【参加者:MIZU】


【任務結果:失敗】


MIZUが黙った。


悠真は何も言わなかった。


「……覚えてる」


MIZUが言った。


「この任務で何回も負けた」


KAIが聞く。


「だからやめたの?」


「それもある」


MIZUは画面を見た。


「でも、それだけじゃない」


しばらくして、MIZUが続ける。


「その頃は、ゲームで失敗すると、次も失敗する気がしてた」


「今は?」


「今は……失敗したら、今日はやめればいいと思ってる」


悠真は頷いた。


「それなら、戻ってきても大丈夫だね」


MIZUが笑った。


「そうかもな」


施設の奥で、突然警報が鳴った。


【未確認反応】


【施設防衛システム起動】


古い機械が動き出す。


「戦闘か!」


KAIが構える。


敵が出現する。


古い型の戦闘機械だった。


攻撃は強くない。


しかし、施設内の設備を利用して戦う。


壁を閉じる。


床を動かす。


通路を切り替える。


四人は少し苦戦した。


MIZUが一度攻撃を受ける。


「危ない!」


悠真が引き戻す。


「ありがとう」


「前なら?」


「たぶん、そのまま突っ込んでた」


「じゃあ、変わったね」


「そうだな」


四人で敵を倒す。


【任務成功】


【評価:S】


【追加報酬:旧港湾施設記録】


MIZUが報酬を見て笑う。


「これ、強くなるアイテムじゃないな」


「うん」


「でも、悪くない」


任務を終える。


ロビーへ戻る。


MIZUは少しだけ黙っていた。


「今日はもう一回やる?」


KAIが聞く。


「いや」


MIZUは首を振った。


「今日はここまで」


「また明日?」


「気が向いたら」


そう言ってログアウトした。


悠真も少ししてログアウトする。


現実に戻ると、母親が夕食を準備していた。


「今日はどうだった?」


「昔遊んでた友達と一緒にやった」


「昨日の子?」


「うん」


「楽しそうね」


「うん」


悠真は椅子に座った。


「でも、昔と同じ場所なのに、ちょっと違ってた」


母親は料理を並べながら言った。


「人が変われば、同じ場所でも違って見えるんじゃない?」


悠真は少し考えた。


「そうかも」


夕食を食べる。


その夜。


ゲーム会社では、MIZUのデータが更新されていた。


【長期離脱プレイヤー】


【再接続後:過去任務へ再訪】


【過去失敗経験:再確認】


【行動修正:確認】


【接続時間:短】


【再接続予定:不確定】


担当者が画面を見る。


「面白いですね」


「何が?」


「戻ってきたあと、過去の場所へ行っています」


「懐かしいから?」


「本人の言葉では、そういう可能性があります」


「でも、それはデータだけでは判断できない」


「はい」


画面には、過去と現在の行動が並んでいた。


同じ場所。


違う行動。


以前は敵に突っ込んだ。


現在は一度止まった。


以前は失敗すると続けた。


現在はログアウトした。


担当者はその差を見ていた。


「ゲームは変わっていない」


「はい」


「でも、プレイヤーは変わっている」


「そうですね」


別の画面に、新しい項目が表示された。


【過去経験による行動変化】


【失敗経験の再利用】


【長期離脱後の判断変化】


その下に、


【予測モデルへの反映】


という文字が表示される。


担当者が入力を確認する。


「これでいい?」


「はい」


データが保存される。


【統合率:84%】


しかし、その数字の下には依然として空白があった。


【行動理由】


【ゲーム外経験】


【継続理由】


【再接続理由】


それらは、完全には埋まらない。


その頃。


悠真は布団の中で、今日の港を思い出していた。


MIZUが昔失敗した場所。


そして、今日もう一度そこへ戻ったこと。


ゲームの中には、昔の記録が残っている。


でも、その記録をどう使うかは、そのときの自分によって変わる。


悠真は目を閉じた。


明日は何をしよう。


その答えは、まだ決めていなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。