第六十二章 帰ってきたプレイヤー
火曜日。
放課後。
悠真は学校から帰ると、いつものように宿題を終わらせた。
母親が机の横を通る。
「今日は少し眠そうね」
「昨日、ちょっと遅くなったから」
「今日は早めに寝なさいよ」
「うん」
悠真は時計を見る。
まだゲームをする時間はある。
しかし、昨日より少しだけ早く切り上げようと思った。
パソコンを起動する。
【クロスギア】
ログイン。
【現在オンライン:213,904】
昨日より少し増えている。
メインロビーに入ると、KAIから通信が届いた。
《YUMA、見た?》
《何を?》
《ランキング》
悠真はランキングを開いた。
1位 KAI
2位 RION
3位 YUMA
その下。
しばらく見ていると、一つの名前に目が止まった。
「……MIZU?」
RIONが通信を送ってくる。
《戻ってきたな》
MIZU。
以前から何度も一緒に任務をしていたプレイヤーだった。
最近はほとんどログインしていなかった。
ランキングから名前が消えていた時期もある。
しかし、今日は戻っている。
《久しぶり》
悠真が送る。
少しして返事が来た。
《久しぶり》
《元気だった?》
《まあまあ》
《またやるの?》
《分からない》
それだけだった。
KAIが言う。
《一緒に任務行く?》
しばらくして、
《いいよ》
と返ってきた。
四人で任務を選ぶ。
【旧市街地・輸送路確保】
開始。
街の中へ入る。
MIZUは以前と少し動きが違っていた。
慎重になっている。
敵が出ると、すぐには近づかない。
NPCの動きもよく見ている。
悠真が聞く。
「前より慎重になった?」
MIZUが答える。
「前にNPCに突っ込まれて負けたから」
「ああ」
「もう同じことはしたくない」
四人で進む。
NPCの輸送部隊が現れた。
先頭のNPCが道を選ぶ。
MIZUが止まった。
「待って」
「どうした?」
KAIが聞く。
「この道、危ないと思う」
NPCはそのまま進もうとする。
悠真も周囲を見る。
確かに、以前NPCがよく使っていた道だった。
しかし、その先には敵の反応がある。
「別の道にした方がいいかも」
RIONが言う。
しかしNPCは止まらない。
そのまま進む。
「またか」
MIZUが呟いた。
四人は追う。
案の定、敵が現れた。
輸送部隊が攻撃を受ける。
KAIが前へ出る。
RIONが後方から援護する。
悠真はNPCの動きを見る。
一体のNPCが敵の側面へ回り込もうとしている。
「待って!」
悠真が叫ぶ。
しかしNPCは止まらない。
敵の攻撃を受ける。
戦闘不能。
【NPC戦闘不能】
MIZUがすぐに動いた。
「もう一体は俺が守る!」
悠真も続く。
四人で戦う。
数分後。
敵を撃破。
輸送部隊は一部損傷したが、目的地まで到達した。
【任務成功】
【評価:A】
MIZUが言った。
「……前なら、ここで終わってたな」
悠真が聞く。
「前より上手くなった?」
「たぶん」
MIZUは少し考える。
「というより、失敗したときにどうするかを考えるようになった」
KAIが笑う。
「それなら十分だろ」
任務を終了する。
ロビーへ戻る。
MIZUはすぐにはログアウトしなかった。
「もう一回行く?」
KAIが聞く。
「いや」
MIZUが答えた。
「今日はこれでいい」
「もう?」
「明日も学校あるから」
悠真は少し笑った。
「じゃあ、また明日」
「うん」
MIZUがログアウトする。
画面から名前が消えた。
RIONが言う。
「戻ってきても、昔みたいには遊ばないんだな」
悠真は頷いた。
「人によって遊び方が変わるんだと思う」
「ゲームは同じなのに」
「うん」
その後、悠真も一度だけ普通の任務をした。
そしてログアウトした。
母親が聞く。
「今日は短かったね」
「友達が戻ってきた」
「それで?」
「一緒に一回だけ遊んだ」
「楽しかった?」
「うん」
「じゃあ、よかったね」
悠真は頷いた。
その夜。
ゲーム会社。
【プレイヤー再接続記録】
【MIZU】
【長期離脱期間:記録あり】
【再接続:確認】
担当者がデータを見る。
「戻ってきましたね」
「はい」
「再接続後の行動は?」
「以前より慎重です」
「接続時間は?」
「短くなっています」
画面に記録が表示される。
【過去】
【接続時間:長】
【戦闘不能:多】
【再接続:高】
そして現在。
【接続時間:短】
【戦闘不能:低】
【再接続:継続】
担当者が言う。
「離脱したことで、行動パターンが変わった」
「はい」
「ゲーム内だけのデータでは説明できないな」
「そうですね」
別の社員が画面を見る。
「でも、再接続後の行動は記録できます」
「そこは取れる」
「はい」
担当者は頷く。
【長期離脱後の行動変化】
【失敗経験後の行動修正】
【再接続後の接続時間】
【再接続後の戦闘不能率】
新しいデータが蓄積されていく。
しかし、その横には、
【離脱中の生活:不明】
と表示されていた。
担当者はその文字をしばらく見た。
「結局、ゲームの外で何をしていたかは分からない」
「はい」
「だから、戻ってきた理由も分からない」
「本人に聞けば?」
「本人が答えるとは限らない」
社員は苦笑した。
「確かに」
画面にはMIZUの再接続記録が残っている。
その下に、別のプレイヤーの名前が表示された。
【長期離脱:確認】
【再接続:なし】
さらに別の名前。
【長期離脱:確認】
【再接続予定:不明】
同じゲームを遊んでいた人たち。
戻る人。
戻らない人。
一度だけ戻る人。
毎日戻る人。
休日だけ戻る人。
その違いは、数字として残る。
しかし、数字だけでは説明できない。
翌朝。
悠真は学校へ向かった。
ゲームのことを考える時間は、それほど長くなかった。
帰ってきたら、また遊ぶ。
疲れていたら休む。
友達と遊ぶ。
宿題をする。
そして、気が向いたらログインする。
それだけだった。
けれど、その「それだけ」の積み重ねが、ゲームの中には大量の記録として残っている。
そして運営側は、その記録を少しずつ集め続けていた。
【プレイヤー行動データ】
【NPC行動データ】
【長期継続】
【離脱】
【再接続】
【失敗修正】
【新規判断】
そして、
【統合率:83%】
その数字だけが、静かに上がっていた。




