第六十一章 いない間に起きたこと
月曜日。
学校から帰った悠真は、ランドセルを置いた。
母親が台所から顔を出す。
「今日はゲーム?」
「うん。でも宿題してから」
「昨日は結構遊んでたでしょう」
「昨日は休みだから」
「そうね」
悠真は机に向かった。
宿題を終え、少し休んでからパソコンを起動する。
【クロスギア】
ログイン。
【現在オンライン:211,438】
土曜日より少ない。
メインロビーを見る。
KAIはいる。
RIONもいる。
「今日は何する?」
KAIが聞く。
悠真は少し考えた。
「昨日の森」
「NPCのところ?」
「うん」
三人で森林地域へ向かった。
転送される。
昨日と同じ場所。
しかし。
景色が少し変わっていた。
「……?」
悠真が立ち止まる。
昨日まで何もなかった場所に、道ができている。
「こんな道あった?」
RIONが聞く。
「なかったと思う」
三人は道を進む。
森を抜ける。
昨日見つけた集落が見えてきた。
しかし、集落の入口に新しい建物が建っていた。
【建設中】
「昨日はなかった」
KAIが言う。
近くにNPCがいる。
資材を運んでいる。
別のNPCが木材を加工している。
さらに別のNPCが建物の壁を修理している。
誰も三人に話しかけない。
「本当に変わってる」
悠真は周囲を見回した。
集落の奥にも変化があった。
昨日は空いていた場所に、畑ができている。
小さな倉庫もある。
NPCの数も少し増えていた。
「これ、イベント?」
RIONが言った。
「イベント通知はない」
悠真はメニューを確認した。
何も表示されていない。
そのとき。
一人のNPCが三人に近づいてきた。
【NPC:ラグ】
昨日のNPCだった。
ラグは悠真たちを見ると、一度だけ頭を下げた。
そして、新しく建てられた建物の方へ歩いていく。
「ついてこいってことかな」
KAIが言う。
三人は追いかけた。
建物の中には、昨日見つけた古い機械が置かれていた。
しかし、昨日とは違う。
機械の横に新しい部品が取り付けられている。
【旧型通信装置】
【状態:修復中】
「誰が直したんだろう」
悠真が機械を見る。
ラグは何も答えない。
その代わり、別のNPCが部品を持ってきた。
部品を置く。
さらに別のNPCが工具を持ってくる。
少しずつ修理が進んでいく。
「NPCだけでやってる」
RIONが言った。
「昨日の俺たちは何もしてないよな」
KAIが確認する。
「してない」
悠真は答えた。
修理が終わった。
【旧型通信装置】
【修復率:100%】
画面が点灯する。
しかし、表示されたのは昨日と同じだった。
【接続先なし】
「またこれか」
KAIが言う。
だが、今回はその下に別の表示があった。
【新規通信記録:1】
三人が黙る。
悠真が画面を開く。
短い文字列が表示された。
【受信日時:現在】
【送信元:不明】
【内容:……】
文字が途切れている。
「読めない」
RIONが言う。
悠真は何度も操作する。
しかし、表示は変わらない。
【データ破損】
【復元不能】
「誰かが送ったのかな」
KAIが言った。
「分からない」
そのとき。
通信装置が突然停止した。
【接続終了】
【送信元:不明】
記録だけが残った。
悠真はしばらく画面を見ていた。
「これ、昨日までなかったよね」
「なかった」
RIONが答えた。
三人は集落を出た。
帰り道。
森の中で敵が出現した。
ラグが突然、戦闘に参加した。
昨日までは戦わなかった。
ラグは敵の攻撃を避け、別のNPCを守った。
そして、戦闘終了後。
そのNPCのところへ戻った。
「昨日と違う」
悠真が言う。
「行動が変わってる」
KAIが答える。
ラグは何事もなかったように歩き出した。
三人も後を追った。
任務を終える。
【評価:S】
【特殊行動:確認】
【報酬:なし】
ロビーへ戻る。
悠真はランキングを見る。
1位 KAI
2位 RION
3位 YUMA
ランキングには大きな変化がない。
しかし、その下には以前より少ない名前しか残っていなかった。
KAIが言う。
「また減ったな」
「うん」
RIONがランキングを閉じる。
「でも、休日は増えるんだよな」
「戻ってくる人もいるから」
悠真は答えた。
その日の接続を終了する。
現実に戻る。
母親が聞いた。
「今日はどうだった?」
「ゲームの中が変わってた」
「どういう意味?」
「NPCが勝手に建物を作ったり、機械を直したりしてた」
母親は少し笑った。
「ゲームなのに?」
「うん」
「それは面白いね」
「うん」
悠真は少し考えてから言った。
「明日も変わってるかもしれない」
「じゃあ、明日見ればいいね」
「うん」
その夜。
ゲーム会社。
内部サーバー。
【NPC自律行動ログ】
新しい記録が追加されていた。
【集落建設】
【資源分配】
【通信装置修復】
【NPC間協力】
【戦闘時の行動変化】
担当者が画面を見つめる。
「昨日のデータと違いますね」
「はい」
「誰かが更新した?」
「プレイヤー側の操作記録はありません」
「NPCだけで?」
「はい」
担当者は少し黙った。
画面に別の記録が表示される。
【通信記録:1】
【送信元:不明】
【データ:破損】
担当者が眉をひそめる。
「これは?」
「まだ解析中です」
「プレイヤーが送った可能性は?」
「接続履歴にはありません」
「NPC?」
「それも不明です」
担当者は画面を見つめた。
しばらくして言う。
「消さないでください」
「はい」
「そのまま記録しておいて」
「分かりました」
別の画面には、ゲーム全体のデータが表示されている。
【戦闘データ】
【装備データ】
【プレイヤーデータ】
【NPCデータ】
【ワールドイベントデータ】
【PVPデータ】
そして、
【長期行動データ】
その数字が少しずつ増えていた。
【統合率:82%】
しかし、その下にはまだ空白がある。
【新規判断】
【予測不能な行動】
【未経験状況への対応】
【継続的な選択】
そして新しく、
【NPC自律変化】
という項目が追加された。
画面はしばらく点滅した。
【データ収集を継続します】
その頃。
悠真はもう眠っていた。
明日の学校。
明日の宿題。
そして、明日のゲーム。
何が変わっているのか。
まだ誰にも分からない。
ただ一つだけ。
昨日まで存在しなかったものが、今日には存在していた。
それだけだった。




