第六章 MVP
プレイヤーが減っていっても、悠真はゲームを続けていた。
理由は、それほど特別なものではなかった。
楽しかったからだ。
学校から帰ってきて、宿題を終える。
母親に「ゲームは時間を決めてやりなさい」と言われる。
「分かってる」
そう答えて、パソコンの前に座る。
ログインする。
それだけだった。
ゲームを続けているうちに、悠真の順位は少しずつ上がっていった。
以前はランキングの上位を見上げていた。
今では、その中に自分の名前がある。
【プレイヤーランキング】
【1位 KAI】
【2位 RION】
【3位 YUMA】
悠真は自分の名前を見て、少しだけ驚いた。
「三位……」
いつの間にか、ここまで来ていた。
ランキング一位のKAIは、何度もワールドボスで見かけるプレイヤーだった。
攻撃のタイミングが速い。
敵の動きを読むのも上手い。
悠真が何度挑戦しても勝てない任務を、一度でクリアすることもある。
二位のRIONも強かった。
ただ、二人とも最近はログインする時間が少なくなっていた。
悠真はそれに気づいていた。
ランキングを開くたびに、以前よく見ていた名前が少しずつ消えていく。
順位が上がる。
けれど、悠真自身が急に強くなったわけではない。
むしろ、周りの人が減っていた。
ある日。
悠真がログインすると、ランキングの一位が変わっていた。
【1位 YUMA】
「……え?」
悠真は画面を二度見した。
自分の名前が一番上にある。
しばらく動けなかった。
チャット欄にも書き込みが流れていた。
『YUMA、一位になってる』
『いつの間に?』
『最近ずっといるからな』
『ワールドボスの参加率も高い』
『MVP取った回数も多いし』
悠真は少し恥ずかしくなった。
「そんなに見てたのかよ……」
誰かが書き込んだ。
『今回もMVP取る?』
悠真は笑った。
『取れたらいいな』
それだけ返した。
そして数日後。
新しいワールドボスが出現した。
今回の参加人数は、以前よりさらに少なかった。
【参加プレイヤー:68,214】
それでも十分な人数だった。
戦闘が始まる。
巨大な敵が街を破壊する。
プレイヤーたちが一斉に攻撃する。
悠真も前へ出た。
しかし、今回はいつもと違った。
敵の攻撃パターンを、悠真はかなり正確に予測できた。
何度も戦ってきたからだ。
敵が右腕を上げる。
次は広範囲攻撃。
悠真はすぐに後退する。
攻撃が終わる。
その瞬間に接近する。
攻撃。
離脱。
また攻撃。
他のプレイヤーも同じように動いている。
それでも悠真の動きは少しだけ速かった。
戦闘終了。
【ワールドボス撃破】
【総合貢献度】
【1位 YUMA】
【MVP】
悠真は画面を見つめた。
「……本当に取った」
チャット欄が一気に流れた。
『YUMAおめでとう!』
『さすが』
『今回の動きすごかった』
『MVPおめ』
悠真は少しだけ嬉しかった。
MVP。
ゲームの中で一番活躍したプレイヤー。
それは、子供の悠真にとって純粋に嬉しい称号だった。
母親に見せたいと思った。
でも、母親はゲームのランキングにはあまり興味がない。
だから見せなかった。
その日の夜。
悠真はランキング画面を閉じる前に、もう一度自分の名前を見た。
【MVP PLAYER】
その文字が表示されている。
以前なら、これを目標にしていたかもしれない。
もっと強くなりたい。
もっと上手くなりたい。
誰にも負けたくない。
けれど、今は少し違った。
MVPになったからといって、ゲームの中で何かが変わったわけではない。
次の日も任務はある。
敵は待っている。
新しいクエストも追加される。
そして、プレイヤーはまた少し減っている。
悠真はロビーを歩いた。
昨日までいた人がいない。
以前よく話していた人もいない。
けれど、新しく入ってきたプレイヤーもいる。
悠真は初心者らしいプレイヤーが、ロビーの隅で困っているのを見つけた。
「何か分からないことある?」
「え?」
「その機体、最初は使いにくいよ」
「そうなの?」
「うん。最初はこの武器を使ったほうがいい」
「ありがとう!」
悠真は簡単に説明した。
相手は何度も礼を言った。
そのまま別の任務へ向かっていった。
悠真も自分の任務へ向かう。
MVPになったからといって、特別な仕事が増えたわけではない。
ゲームの中では、相変わらず一人のプレイヤーだった。
ただ一つだけ。
以前と違うことがあった。
ロビーにいる人が、少しずつ減っていた。
そして悠真は、いつの間にかその中で一番長くゲームを続けているプレイヤーになっていた。
そのことを、悠真自身はまだ深く考えていなかった。
ただ、今日もログインする。
ゲームをする。
それが好きだった。
だから続けていた。
MVPだからではない。
誰かに頼まれたからでもない。
ただ、まだ遊びたかった。
それだけだった。




