第五章 少しずつ減っていく
それからしばらくの間、悠真の日常は変わらなかった。
朝、学校へ行く。
授業を受ける。
友達と話す。
家に帰る。
宿題をする。
夕食を食べる。
そして、ゲームをする。
《クロスギア》の中でも、毎日はそれほど変わらなかった。
ログインするとロビーがある。
そこにはたくさんのプレイヤーがいる。
知らない名前。
見覚えのある名前。
ランキング上位のプレイヤー。
始めたばかりらしいプレイヤー。
それぞれが好きなように過ごしている。
悠真もその中の一人だった。
「今日、何しようかな」
任務一覧を眺める。
新しいクエストが追加されていた。
悠真はそれを選んだ。
出撃する。
戦う。
失敗する。
もう一度やる。
今度は成功する。
そんなことを繰り返しているうちに、一週間が過ぎた。
そして、またワールドボスの予告が出た。
【緊急世界イベント】
ロビーが一気に騒がしくなる。
『また来た』
『今回は何だ?』
『前より強いらしい』
『報酬は?』
『新武器あるって』
悠真も参加準備をした。
開始時刻になる。
プレイヤーたちが一斉に戦場へ転送された。
今回の敵は前回より大きかった。
攻撃範囲も広い。
最初の十分で、多くのプレイヤーが倒された。
『強すぎる!』
『回復お願い!』
『左から来るぞ!』
『無理だ、逃げろ!』
悠真も必死に機体を動かした。
敵の攻撃を避ける。
仲間を援護する。
隙を見て攻撃する。
戦闘は二時間近く続いた。
最後には、なんとか勝利した。
【ワールドボス撃破】
【参加プレイヤー:153,806】
悠真は結果を見て、少し驚いた。
「……前より少ない」
前回は十八万人以上いた。
今回は十五万人ほど。
もちろん、それでも十分に多い。
だから、誰も問題にはしなかった。
ロビーへ戻る。
チャットには、いつものように書き込みが並んでいた。
『疲れた』
『今回やばかった』
『次はもっと強いだろうな』
『もう無理。しばらく休む』
悠真は最後の書き込みを見た。
「しばらく休む?」
それを書いたプレイヤーに聞こうとした。
けれど、その名前はすぐにオフラインになった。
悠真は少しだけ画面を見つめた。
それから、任務一覧を開いた。
ゲームはまだ続いている。
新しい任務もある。
新しい機体もある。
新しい装備もある。
やることはいくらでもあった。
だから、悠真は気にしなかった。
数週間後。
またワールドボスが出現した。
【参加プレイヤー:121,403】
さらに減った。
その次は九万。
その次は七万。
それでも、ロビーにはまだ大勢の人がいた。
運営から特別な発表はなかった。
不具合でもない。
サービス終了でもない。
ゲームの売上も悪くない。
ただ、プレイヤーが少しずつログインしなくなっている。
それだけだった。
ある夜。
悠真はロビーで、以前よく話していたプレイヤーの名前を見つけた。
「久しぶり」
話しかける。
しばらく返事がなかった。
やがて、短い文章が返ってきた。
『久しぶり』
「最近来なかったね」
『ちょっと忙しくて』
「またワールドボス来るよ」
『たぶん、もう参加しない』
「どうして?」
少し間があった。
『前ほど楽しくないから』
悠真は画面を見た。
何と返せばいいのか分からなかった。
相手から続きが来た。
『ゲーム自体は好きなんだけどね』
『最近は、勝つためにやってる感じがする』
悠真はしばらく考えた。
そして、
「そっか」
とだけ返した。
『じゃあ、またいつか』
「うん」
そのプレイヤーがログアウトした。
名前が消えた。
悠真はその場所をしばらく見ていた。
ゲームをやめる。
それは特別なことではない。
現実では、毎日のように起きていることだ。
人は新しいゲームを始める。
別の趣味を見つける。
学校が忙しくなる。
仕事が忙しくなる。
飽きる。
疲れる。
そしてログインしなくなる。
悠真も、それは分かっていた。
だから何も言えなかった。
ただ、その日から。
ロビーに入ったとき、悠真は以前より少しだけ周囲を見るようになった。
誰がいるのか。
誰がいなくなったのか。
そして、画面の右上に表示されている数字。
【現在のオンラインプレイヤー数:1,486,203】
まだ百万人以上いる。
悠真はそう思った。
まだ、大丈夫だ。
そう思って、ゲームを始めた。
そのときはまだ。
この数字が半分になる日が来ることも。
十分の一になる日が来ることも。
最後には、ほとんど誰もいなくなることも。
悠真は知らなかった。




