第四章 戦いのあと
ワールドボスとの戦闘は、一時間近く続いた。
最後の一撃を入れたのは、悠真ではなかった。
ランキング上位のプレイヤーが放った大型砲撃だった。
巨大な機体が膝をつく。
街を覆っていた暗雲が消えていく。
【ワールドボス撃破】
【参加プレイヤー:184,327】
【戦闘時間:58分42秒】
【報酬を配布します】
その瞬間、戦場にいたプレイヤーたちから歓声が上がった。
『やった!』
『勝った!』
『今回きつかったな』
『次はもっと強くなるんじゃない?』
悠真も笑った。
「勝った……」
ゲームを始めたばかりの頃なら、こんな人数で戦うことなど想像もしなかった。
普段は一人で任務をこなす。
ロビーで知らない人と話す。
ランキングを眺める。
それが悠真にとっての《クロスギア》だった。
でも、ワールドボスの日だけは違う。
何万人ものプレイヤーが一つの場所に集まり、同じ敵を倒す。
それが楽しかった。
やがて画面に表示が出た。
【ワールドボス戦を終了します】
【各プレイヤーをメインロビーへ転送します】
白い光が広がった。
次に目を開けたとき、悠真はロビーに戻っていた。
周囲には、さっきまで一緒に戦っていたプレイヤーがいる。
『お疲れ』
『また次回』
『じゃあ、落ちるわ』
『俺も』
一人。
また一人。
プレイヤーがログアウトしていく。
悠真はランキング画面を開いた。
今回の戦闘結果が表示される。
【総合貢献度ランキング】
一位。
二位。
三位。
悠真は少し下の順位にいた。
以前よりも順位は上がっている。
「まだまだだな」
そう呟いた。
そのとき、隣にいたプレイヤーが話しかけてきた。
「悠真、今回もいたな」
「うん」
「結構いい動きしてた」
「ありがとう」
「次も参加する?」
「もちろん」
「じゃあ、またな」
「またね」
そのプレイヤーもログアウトした。
悠真はしばらくロビーに残った。
さっきまであれほど騒がしかった場所が、少しずつ静かになっていく。
けれど、まだ人は多い。
チャット欄も流れている。
いつものロビーだった。
悠真は時計を見た。
「そろそろ寝るか」
ログアウトボタンを押す。
画面が暗くなる。
その直前。
ほんの一瞬だけ、画面の端に見慣れない文字が表示された。
【同期処理を終了します】
悠真は気づかなかった。
次の日。
学校から帰ってきた悠真は、いつものようにゲームを起動した。
ロビーに入る。
昨日と同じ場所。
昨日と同じ音。
昨日と同じように、プレイヤーたちが歩いている。
何も変わっていない。
悠真は任務を選んだ。
その日の任務は、昨日のワールドボスとは関係のない普通のものだった。
いつものように一人で出撃する。
敵を倒す。
報酬を受け取る。
そしてロビーに戻る。
そんな日が何日か続いた。
ある日。
悠真はロビーで見覚えのある名前を探した。
昨日までよく話していたプレイヤーだった。
「……あれ?」
名前がない。
オンラインプレイヤー一覧を開く。
何度見ても、その名前は表示されなかった。
「今日は来てないのかな」
それだけだと思った。
次の日もいなかった。
その次の日も。
一週間後。
やはりいなかった。
悠真は少し気になった。
けれど、ゲームの中でしか知らない相手だ。
連絡先も知らない。
学校も知らない。
住んでいる場所も知らない。
だから、確かめる方法はなかった。
その日の夜。
悠真はロビーの中央に立っていた。
周囲にはまだたくさんのプレイヤーがいる。
チャットも流れている。
ゲームは何も変わっていない。
それでも。
以前より少しだけ静かになったような気がした。
画面の右上には、現在のオンライン人数が表示されていた。
【現在のオンラインプレイヤー数:2,097,416】
数字が少し減っている。
悠真は特に気にしなかった。
ゲームをしていれば、ログインする人もいれば、ログアウトする人もいる。
数字が変わるのは当たり前だ。
そのときの悠真には、それがただの数字にしか見えなかった。
けれど。
ワールドボスが開催されるたびに。
その数字は少しずつ減っていった。
そして誰も、それを問題だとは思っていなかった。
まだ二百万人以上いる。
ゲームは十分に賑わっている。
運営もそう考えていた。
悠真もそう思っていた。
だから、その変化が何を意味しているのか。
まだ誰も知らなかった。




