↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/335

第五十七章 戻るきっかけ

水曜日。


学校から帰った悠真は、玄関で靴を脱いだ。


いつもなら、そのまま自分の部屋へ向かう。


今日は違った。


母親が台所から声をかけた。


「今日は少し早かったね」


「うん」


「宿題は?」


「今からやる」


悠真はランドセルを置いた。


宿題を始める。


しかし、問題を解きながら昨日のゲームのことを思い出していた。


五年以上遊んでいたプレイヤー。


最後に残っていた記録。


【最終接続】


その後は何もない。


「……何してるんだろう」


小さく呟いた。


宿題を終える。


ゲームを起動する。


【現在オンライン:207,982】


また少し減っている。


メインロビーを見ると、KAIがいた。


しかし、RIONはいなかった。


《RIONは?》


《今日は来ないって》


《そっか》


悠真は少し考えた。


《じゃあ二人で行く?》


《いいよ》


二人で普通の任務に入る。


今日は街の警備任務だった。


NPCの警備兵と一緒に、街を巡回する。


敵は弱い。


ほとんど戦闘もない。


途中、KAIが言った。


「こういう任務、昔はもっと人がいたよな」


「うん」


「今は二人だけ」


「でも、NPCはいる」


悠真が言うと、KAIが笑った。


「それもそうだな」


二人は街を歩く。


しばらくすると、見覚えのあるNPCが現れた。


「こいつ……」


悠真が立ち止まる。


以前、港で助けたNPCだった。


「同じ個体?」


KAIが聞く。


「たぶん」


NPCも悠真に気づいたように近づいてきた。


「以前、港にいた」


悠真が言う。


NPCは何も答えない。


しかし、二人の前を歩き始めた。


「ついてこいってことかな」


KAIが言う。


悠真たちは後を追った。


街の外。


小さな道。


その先に、古い倉庫があった。


NPCが扉を開く。


中には、古い機械が置かれている。


悠真が近づく。


【旧型航路通信装置】


「これ、昨日の記録にあったやつと同じ系統かも」


KAIが言った。


悠真は装置を調べる。


一つのメッセージが残っていた。


【航路通信】


【最終更新:1,892日前】


「またこの数字……」


悠真は驚いた。


昨日見た、長期継続プレイヤーの記録と同じだった。


通信装置を起動する。


ノイズが流れる。


しばらくして、古い音声が再生された。


『……聞こえている人がいるなら、これを残しておく』


二人は黙った。


『この世界は、まだ完成していない』


『だから、たぶん、これからも変わる』


音声はそこで途切れた。


「誰?」


KAIが聞く。


「分からない」


悠真は記録を確認する。


名前は表示されない。


ただ、


【記録者:プレイヤー】


とだけ書かれている。


『もし、いつか戻ってきたら』


再び音声が流れる。


『前に進めなくても、別にいい』


『前に進むために遊んでいるわけじゃないから』


音声が途切れた。


それ以上は何もなかった。


悠真はしばらく黙っていた。


「……変な記録だな」


KAIが言う。


「うん」


「でも、ちょっと分かる気がする」


「何が?」


「ゲームって、別に強くなるためだけじゃないから」


悠真は頷いた。


任務はそこで終了した。


【評価:B】


【特殊記録:取得】


報酬はなかった。


ロビーへ戻る。


KAIが言った。


「俺、今日はもう落ちる」


「うん」


「また明日」


KAIがログアウトする。


悠真は一人でロビーに残った。


【現在オンライン:207,421】


その数字を見ながら、悠真は少し考えた。


ゲームを始めたばかりの頃。


強い機体を作りたかった。


ランキングにも興味があった。


勝てると嬉しかった。


負けると悔しかった。


でも、今はそれだけではない。


知らない場所を見つける。


NPCと話す。


誰かと一緒に戦う。


途中でやめる。


次の日に戻る。


そういうことも、いつの間にかゲームの一部になっていた。


「……だから戻るのかな」


誰もいないロビーで、悠真は呟いた。


その日の夜。


ゲーム会社。


【YUMA】


【継続行動】


【NPC再遭遇】


【旧記録への接触】


【戦闘:低】


【報酬:低】


【再接続:予定】


担当者がデータを見る。


「また報酬の低い任務ですね」


「はい」


「それでも続けている」


「はい」


担当者は少し考えた。


「きっかけがある」


「きっかけ?」


「昨日の記録を見たことです」


画面には、


【旧プレイヤー記録】


が表示されている。


「このプレイヤーは、過去の記録を見たあと、別の行動をしています」


「つまり?」


「過去の経験や記録が、次の行動に影響している」


「それなら、普通の学習モデルで予測できるんじゃないですか?」


担当者は首を横に振った。


「影響は分かる」


「でも、何をきっかけにするかは分からない」


画面には、悠真の行動履歴が並ぶ。


【NPCとの再遭遇】


【旧記録】


【探索】


【戦闘】


それらの間に、


【行動理由:不明】


という表示が何度も出ていた。


担当者はそれを見つめる。


「人間は、過去をそのまま繰り返すわけじゃない」


「でも、過去を捨てるわけでもない」


「その間にあるものが、まだ取れない」


画面の端に、


【新規判断】


【予測精度:低】


と表示された。


担当者はその数字を確認してから、画面を閉じた。


その頃。


悠真は布団の中で眠っていた。


明日、ゲームをするかどうかはまだ決めていない。


宿題もある。


学校もある。


疲れているかもしれない。


それでも、ゲームをやめる理由もない。


そして翌日。


学校から帰ってきた悠真は、パソコンの電源を入れた。


画面に、


【クロスギア】


と表示される。


悠真は少し笑った。


「……今日は何しようかな」


その一言だけで。


また一日が始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。