第五十五章 やめる選択
月曜日。
朝。
悠真は目覚ましが鳴る前に目を覚ました。
昨日は二回ゲームに入った。
それでも、昼寝をしたからか、体はそれほど重くない。
学校へ行く準備をしていると、スマートフォンにメッセージが届いた。
友達からだった。
《クロスギア、もうやめることにした》
悠真は少し驚いた。
《本当に?》
《うん》
《なんで?》
しばらくして返信が来た。
《嫌いになったわけじゃない》
《でも最近、ゲーム終わったあと疲れる》
《学校から帰って、ゲームして、寝るだけになってきたから》
悠真は画面を見つめた。
《分かった》
それ以上は聞かなかった。
学校へ行く。
昼休み。
友達が言った。
「昨日で最後にした」
「そっか」
「面白かったんだけどな」
「うん」
「またやりたくなったら戻るかも」
悠真は笑った。
「じゃあ、そのときまた遊ぼう」
「うん」
それだけだった。
引き止める理由もない。
ゲームを続けることが正しいわけでもない。
やめることが間違いでもない。
放課後。
悠真は家に帰った。
宿題を終える。
それからパソコンの前に座った。
少し迷った。
今日はゲームをしなくてもいい。
友達もやめた。
自分も疲れている。
それでもログインした。
【現在オンライン:213,806】
週末から大きく減っている。
メインロビーには、昨日まで見かけた名前がいくつかない。
KAIがいた。
《今日どうする?》
《普通の任務》
《深層は?》
《今日はやめとく》
RIONも来た。
三人で普通の任務へ向かう。
しかし、途中でKAIが言った。
「最近、人数減ったな」
「うん」
RIONが答える。
「ランキングも変わってきた」
悠真はランキングを見る。
1位 KAI
2位 RION
3位 YUMA
その下の順位が、かなり入れ替わっている。
以前よく見かけた名前が消えている。
新しい名前が上がっている。
「人が減ると、順位も変わるな」
KAIが言う。
「うん」
悠真は答えた。
「残ってる人もいるから」
任務が始まる。
今回は山岳地帯。
敵を倒しながら進んでいく。
途中で、一体のNPCが合流した。
以前見たことのない機体だった。
NPCは三人の後ろを歩いている。
戦闘になる。
敵が現れる。
NPCは動かない。
「こいつ、戦わないのか?」
KAIが言う。
悠真はNPCを見る。
「たぶん、戦う役割じゃない」
敵が近づく。
NPCは後ろへ下がった。
RIONが敵を倒す。
さらに奥へ進む。
そこで、NPCが突然立ち止まった。
「どうした?」
悠真が振り返る。
NPCは、山の斜面を見ている。
その方向に、小さな洞窟があった。
悠真たちは近づく。
中には古い装備が置かれていた。
【旧式装備】
【現在使用不可】
「使えないのか」
KAIが言う。
悠真は装備を調べる。
すると、
【修復可能】
と表示された。
「修理できる」
「でも、素材がない」
RIONが言う。
三人は周囲を探す。
しばらくして、必要な素材を見つけた。
しかし、一つだけ足りない。
【特殊鉱石】
「これ、北方鉱山じゃない?」
悠真が言った。
「前に見つけたやつ?」
「うん」
KAIが笑った。
「また昔の場所に戻るのか」
「たぶん」
任務はそこで終了した。
【評価:A】
報酬は少ない。
それでも悠真は満足していた。
ロビーに戻る。
KAIが言った。
「今日はもう終わる」
RIONも続く。
「俺も」
「じゃあ、また明日」
二人がログアウトする。
悠真は一人になる。
しばらく画面を見ていた。
そして、ログアウトした。
今日は一回だけだった。
夕食のあと。
母親が聞いた。
「今日はゲーム短かったね」
「うん」
「楽しくなかった?」
「楽しかった」
「じゃあ、どうして?」
悠真は少し考えた。
「明日もやりたいから」
母親は何も言わなかった。
ただ、
「それならいいんじゃない?」
とだけ答えた。
夜。
ゲーム会社。
【現在オンライン:211,903】
担当者は今日のデータを確認していた。
大量のプレイヤーが離れている。
しかし、サービスそのものは正常に動いている。
【サーバー稼働:正常】
【ワールドイベント:正常】
【NPC行動:正常】
【接続負荷:許容範囲】
社員が言った。
「このまま人数が減り続けたら、問題になりませんか?」
担当者は答えた。
「なるでしょう」
「対策しますか?」
「何を?」
「イベントを増やすとか、報酬を増やすとか」
担当者は少し考えた。
「それをしたら、今度は別のデータが取れなくなる」
「別のデータ?」
「自分から残る人間が、何をするのか」
画面には、プレイヤーの離脱記録が並んでいる。
【ログイン頻度低下】
【接続時間短縮】
【戦闘参加減少】
【完全離脱】
そして、
【再接続】
離れたあと戻ってくる人もいる。
戻らない人もいる。
担当者は言った。
「ゲームを続ける人だけ見ても、人間のことは分からない」
「……やめる人も必要?」
「そうです」
「なぜ?」
「やめるという選択も、人間の行動だからです」
画面の端に、今日やめたプレイヤーの記録が表示された。
【接続終了】
【最終ログイン:本日】
【離脱理由:不明】
その隣には悠真の記録。
【接続:1回】
【任務:完了】
【再接続予定:高】
二つの記録が並んでいる。
片方は離れていく。
片方は残る。
どちらが正しいわけでもない。
どちらも、プレイヤー自身が選んだ結果だった。
そして、ゲームはその違いを記録し続けていた。
【継続行動分析】
【離脱行動分析】
【再接続行動分析】
【個人差:大】
その下に、
【統合率:81%】
と表示された。
まだ、空白は残っている。
そして、その空白が何なのか。
システム自身にも、まだ分かっていなかった。




