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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第五十四章 遊ばない時間

土曜日の午後。


昼食を終えた悠真は、すぐにはゲームへ戻らなかった。


母親が食器を片づけている間、テレビをつける。


しばらく見ていると、学校の友達からメッセージが届いた。


《今日クロスギアやる?》


悠真は少し考えてから返した。


《今はやってない》


《珍しい》


《あとでやるかも》


それだけ送って、スマートフォンを置いた。


母親が言う。


「今日はゲームしないの?」


「あとで」


「何かあるの?」


「別に」


悠真はソファに座ったまま、テレビを見ていた。


ゲームをやらない理由があるわけではない。


ただ、今はやる気にならなかった。


一時間ほど経った。


窓から入る風を眺めているうちに、少し眠くなった。


「眠いなら寝たら?」


母親が言う。


「うん」


悠真はそのまま昼寝をした。


目を覚ましたのは午後三時だった。


時計を見る。


「……寝すぎた」


母親が笑う。


「昨日も少し疲れてたんじゃない?」


「そうかも」


悠真は顔を洗った。


それからパソコンの前に座る。


【本日の接続可能回数:5】


ゲームを起動する。


【現在オンライン:241,627】


昼よりさらに増えていた。


休日だからだろう。


メインロビーには、久しぶりに見る名前がたくさん並んでいる。


MIZUからメッセージが来た。


《午後もやる?》


《うん》


KAIもいた。


RIONもいる。


四人でロビーに集まった。


「今日は何する?」


KAIが聞く。


悠真は少し考えた。


「昨日のイベント、もう一回やってみたい」


「また扉?」


「うん」


四人はイベントを選んだ。


しかし、イベント一覧にはなかった。


「消えた?」


RIONが言う。


悠真は検索する。


何も出てこない。


「一回だけだったのかな」


「そうかも」


KAIが言った。


「じゃあ普通の任務にする?」


「うん」


四人は新しい任務を選んだ。


【湖畔地域・護衛任務】


目的は、NPCの輸送隊を目的地まで護衛すること。


開始すると、複数のNPCが現れた。


先頭には小型車両。


その後ろに三台の輸送車。


「これ、NPCを守ればいいんだよね?」


MIZUが聞く。


「そう」


悠真は答えた。


最初は順調だった。


敵が現れる。


KAIが前へ出る。


RIONが遠距離から攻撃する。


悠真とMIZUが輸送車の周囲を守る。


ところが、途中で一台の輸送車が突然停止した。


「どうした?」


MIZUが近づく。


NPCが車両から降りる。


そして、道路の外へ歩き始めた。


「またか」


KAIが呟く。


悠真が追う。


NPCは森の中へ入っていく。


「任務目的は護衛だよ」


MIZUが言う。


「分かってる」


「戻したほうがいいんじゃない?」


「たぶん」


悠真はNPCの前に回り込んだ。


「戻ろう」


NPCは悠真を見る。


しかし、動かない。


しばらくして、NPCが森の奥を指差した。


その方向から、小さな音が聞こえた。


「……何?」


RIONが耳を澄ます。


木の陰に、一台の壊れた輸送車があった。


中には別のNPCがいる。


負傷して動けない。


「これを見つけたかったのか」


悠真が言った。


NPCは頷いた。


「助ける?」


KAIが聞く。


悠真は迷わなかった。


「助けよう」


四人で壊れた車両を調べる。


しかし、敵の反応が近づいてきた。


「急いだほうがいい」


RIONが言う。


KAIが敵を止める。


悠真とMIZUはNPCを運ぶ。


なんとか車両から出す。


その瞬間、敵が襲ってきた。


KAIが吹き飛ばされる。


【耐久値:42%】


「KAI!」


「まだ大丈夫!」


RIONが攻撃。


悠真も前へ出る。


短い戦闘だった。


敵を倒す。


そして、負傷したNPCを輸送車へ戻す。


【護衛対象:正常】


【追加救助:成功】


【任務評価:S】


MIZUが笑った。


「最初の目的とは違うことしてたな」


悠真も笑った。


「でも、成功した」


KAIが言う。


「たぶん、あのNPCが勝手に動かなかったら見つけられなかった」


四人はその言葉に少し黙った。


NPCが勝手に動く。


それによって危険になる。


でも、同じことによって、予定されていなかったものが見つかることもある。


悠真はNPCを見る。


「やっぱり、面白いな」


MIZUが言った。


「何が?」


「自分たちで全部決められないところ」


KAIが笑う。


「それ、ゲームとしては結構面倒だけどな」


「うん」


悠真は頷いた。


「でも、全部自分で決められるなら、たぶん同じゲームになっちゃう」


その言葉を、誰も否定しなかった。


任務を終えた四人はロビーへ戻った。


しばらく雑談してから、MIZUが言った。


「俺、今日はもう終わる」


「早いな」


KAIが言う。


「昨日より長く遊んだから」


「そっか」


「また明日」


MIZUはログアウトした。


その後、RIONも抜けた。


KAIも別の任務へ向かった。


悠真は一人でロビーに残った。


【現在オンライン:241,102】


さっきより少し減っている。


悠真はその数字を眺めた。


たくさんの人がいる。


でも、ずっと同じ人がいるわけではない。


入る人。


出る人。


休む人。


戻ってくる人。


やめる人。


それぞれ違う。


悠真も今日は昼寝をした。


ゲームをしない時間もあった。


それでも、今ここにいる。


「……明日も来るかな」


自分に問いかける。


答えはすぐに出た。


「たぶん」


ログアウトする。


その夜。


ゲーム会社では、休日の接続データが集計されていた。


【接続者数:241,102】


【平均接続回数:2.8】


【平均連続接続時間:42分】


【戦闘不能率:11.4%】


平日よりも接続者は多い。


しかし、一人あたりの接続時間は以前より短くなっていた。


担当者はグラフを見る。


「休日でも、長時間遊ぶ人は減っています」


「でも、戻ってくる人はいる」


「はい」


「一度離れて、また戻る」


「その割合も高いです」


画面に新しい項目が表示された。


【再接続率】


【休日:68.2%】


【平日:41.7%】


担当者はしばらく考えた。


「疲労だけでは説明できない」


「はい」


「それなら、何が戻らせている?」


誰も答えられなかった。


別の画面には、NPCとの交流データが表示されている。


【NPCとの再遭遇】


【継続率:高】


【未知エリア再探索】


【継続率:高】


【未完了任務への再挑戦】


【継続率:高】


しかし、これも完全な説明にはならない。


同じNPCに会っても戻らない人はいる。


報酬をもらっても戻らない人もいる。


強い装備を手に入れても、やめる人はいる。


逆に、ほとんど報酬がない任務を何度も続ける人もいる。


担当者は最後に一つの記録を開いた。


【YUMA】


今日の接続回数。


【2】


最初のログインから二時間以上空いている。


【再接続理由:記録なし】


担当者はその空白を見つめた。


「……記録できない」


隣の社員が言う。


「本人に聞けば分かるんじゃないですか?」


担当者は首を横に振った。


「聞いたとしても、それは本人の答えでしかない」


「どういう意味ですか?」


「人間は、自分がなぜ戻ったのかまで、毎回考えているわけじゃない」


画面には、まだ空白が残っていた。


【継続理由:不明】


そして、別の項目が静かに更新された。


【データ収集率:78%】


数字だけは、確実に増えていた。

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