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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第五十一章 続ける理由

木曜日の朝。


悠真は少し眠かった。


昨夜はいつもより早く寝た。


それでも、体には昨日のワールドボス戦の疲れが残っている。


朝食を食べながら、母親が言った。


「まだ疲れてる?」


「ちょっとだけ」


「今日はゲーム、休んでもいいんじゃない?」


悠真は少し考えた。


「うん。でも、帰ってから決める」


「それでいいよ」


学校では、昨日のワールドボスの話が出ていた。


「見た?」


「見た」


「俺、途中でやられた」


「俺は二回やられた」


「今日はもうやらない」


それぞれ言うことが違った。


悠真は黙って聞いていた。


誰かは続ける。


誰かは休む。


誰かはもうやめる。


ゲームの中だけではなく、現実でも、それぞれの遊び方が変わっていく。


放課後。


悠真は家に帰った。


宿題を終える。


それから、パソコンの前に座った。


画面には、


【クロスギア】


が表示されている。


しばらく見つめた。


「……今日は一回だけ」


ログインする。


【現在オンライン:221,763】


昨日より減っていた。


メインロビーに入ると、KAIがいた。


《今日は?》


《一回だけ》


《俺も》


RIONからも通信が来た。


《じゃあ普通の任務にする?》


「うん」


三人で任務を選ぶ。


今回は、海岸地域だった。


敵はそれほど強くない。


しかし、途中で一体のNPCが道を外れた。


悠真が気づく。


「まただ」


KAIが振り返る。


「放っておく?」


「……いや」


三人はNPCを追った。


海岸の先に、小さな港があった。


そこには、数人のNPCが集まっている。


「何かあるのかな」


RIONが言った。


港の中央に、一台の古い機械が置かれていた。


NPCの一人が、その機械を触る。


すると、画面が表示された。


【旧型航路管理装置】


【現在、機能停止中】


「これ、修理できるのかな」


悠真が近づく。


NPCが振り返った。


「直したい」


「手伝える?」


「分からない」


悠真は少し笑った。


ゲームの中では、こういうことがよくある。


攻略サイトにも載っていない。


報酬も分からない。


成功する保証もない。


それでも、気になった。


「やってみよう」


三人は装置を調べ始めた。


必要な部品。


古い電源。


破損した配線。


どれも簡単には見つからない。


一時間が過ぎた。


「これ、普通の任務より時間かかってない?」


KAIが言う。


「かかってる」


RIONが笑う。


「でも、面白い」


三人で部品を探す。


最後の一つを見つけた。


悠真が装置に取り付ける。


一度、画面が点滅した。


そして、


【航路管理システムを再起動します】


港の奥にある古い灯台が光った。


NPCたちが一斉に振り返る。


「……灯りだ」


一人のNPCが呟いた。


別のNPCが走り出す。


「船が戻ってくる!」


悠真は驚いた。


任務の目的には、そんなことは書かれていなかった。


やがて海の向こうから、小さな船が見えてきた。


港に入る。


NPCたちが集まる。


誰かが笑う。


誰かが泣く。


ゲームの中の出来事なのに、悠真は少しだけ黙っていた。


【特殊イベント達成】


【評価:A】


【報酬:航路管理者の記録】


報酬は珍しい素材でも、強力な装備でもなかった。


ただの記録データだった。


悠真はそれを開いた。


そこには、昔この港で暮らしていたNPCたちの記録が残っていた。


「……これもゲームなんだよな」


KAIが言う。


「そうだな」


RIONも答えた。


「でも、結構好きかも」


悠真は頷いた。


「俺も」


その後、三人はログアウトした。


【本日の残り接続可能回数:3】


悠真は、もう一度入ることもできた。


でも、入らなかった。


母親が夕食を作っている。


学校の宿題も終わっている。


明日も学校がある。


「今日は一回だけって決めたから」


そう言って、パソコンの電源を切った。


その夜。


ゲーム会社では、別の種類のデータが整理されていた。


【YUMA】


【戦闘時間:短】


【探索時間:長】


【報酬価値:低】


【継続行動:高】


担当者が画面を見る。


「戦闘以外の行動が多いですね」


「そうですね」


「普通なら効率が悪い」


「でも、本人は続けている」


画面には、過去の悠真の記録も表示されていた。


高難度任務。


ワールドボス。


PVP。


装備研究。


NPCとの会話。


失敗。


再挑戦。


探索。


何度も繰り返された記録。


担当者は一つずつ確認する。


「このプレイヤーは、勝つためだけに遊んでいるわけじゃない」


「そう見えます」


「では、何のために?」


隣の社員は答えなかった。


システムも答えなかった。


画面に表示されているのは、数字だけだった。


【勝利】


【敗北】


【接続時間】


【再接続率】


【探索回数】


【NPC交流】


【継続日数】


しかし、


「楽しいから」


という言葉を数値にする項目はなかった。


担当者は新しい分析項目を追加した。


【継続理由:解析中】


数秒後。


【解析不能】


と表示された。


「……まだ分からないか」


担当者が呟く。


その頃、悠真は自分の部屋で眠っていた。


今日遊んだ時間は長くない。


強い敵も倒していない。


ランキングにも大きな変化はない。


それでも、明日になればまたログインするだろう。


理由を説明しろと言われたら、きっと悠真はこう答える。


「面白いから」


それだけだった。


そして、その「それだけ」が。


大量の戦闘記録よりも、ずっと難しいデータになっていた。

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