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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第四十六章 疲れた世界

北方鉱山の深層。


三人は、しばらく動かなかった。


中央の台座に浮かんでいた機体の輪郭は、すでに消えている。


残ったのは、静かな機械音だけだった。


【データ統合を一時停止】


【接続負荷を確認】


悠真はその文字を見た。


「……接続負荷?」


「昨日も出てたか?」


KAIが聞く。


「いや」


RIONが答えた。


「初めてだと思う」


その瞬間。


悠真の視界が少し揺れた。


「……あれ?」


「どうした?」


「なんでもない」


一歩踏み出す。


足が少し重い。


ゲームの中なのに、身体が疲れているような感覚があった。


「悠真?」


「ちょっと疲れた」


KAIが笑った。


「じゃあ、今日は終わりにするか」


「うん」


RIONも頷いた。


三人は帰還ポイントへ向かった。


しかし、途中で敵が現れた。


小型機が三体。


さらに奥から、別の機体が二体。


「面倒だな」


KAIが武器を構える。


悠真も装備を確認した。


いつもなら、すぐに戦える。


けれど今日は違った。


敵の動きが少し遅く見える。


いや。


自分の反応が遅い。


「……まずい」


敵の一体が突っ込んできた。


悠真は避けようとした。


一瞬遅れた。


攻撃を受ける。


【耐久値:38%】


「悠真!」


RIONが援護する。


KAIが前に出た。


三人で敵を倒す。


しかし、その直後。


別の機体が背後から現れた。


悠真は振り向いた。


遅い。


攻撃を受ける。


【耐久値:0%】


【戦闘不能】


視界が暗くなる。


【接続を終了します】


「……」


ゲーム画面が消えた。


悠真は椅子に座ったまま、しばらく動かなかった。


「……疲れた」


母親が部屋を覗く。


「もう終わったの?」


「うん」


「今日は早いね」


「ちょっと眠い」


母親は時計を見る。


「まだ夕方よ」


「うん」


「じゃあ、ご飯まで少し寝る?」


「……寝る」


悠真はベッドに横になった。


目を閉じる。


すぐに眠った。


その日の夜。


悠真はゲームに戻らなかった。


翌朝。


いつも通り学校へ行った。


授業中。


数学の問題を解いている途中で、悠真は一度だけ欠伸をした。


「眠そう」


隣の席の友達が言う。


「昨日ゲームで負けた」


「それだけ?」


「うん」


「ゲームで負けて疲れるの?」


「たぶん」


友達は少し笑った。


「変なの」


悠真も笑った。


放課後。


家に帰る。


宿題を終える。


それからパソコンの前に座った。


画面には、


【クロスギア】


のタイトルが表示されている。


悠真は少し迷った。


昨日の疲労がまだ残っている。


でも、もう一度入りたい。


ログインする。


【接続を開始します】


【本日の接続可能回数:3】


「……三回?」


昨日までは五回だった。


悠真は画面を見つめた。


【前回接続時:戦闘不能】


【接続負荷:中】


【推奨休憩時間:6時間】


「そういうことか」


一回負けただけで、今日は接続できる回数が減っている。


ゲームの中で何度も戦闘不能になる人ほど、翌日の接続可能回数も減る。


完全な禁止ではない。


ただ、少しずつ遊びにくくなる。


悠真はその仕組みを理解した。


「だから……」


プレイヤーが減っていた。


ゲームが嫌いになったわけではない。


忙しくなったわけでもない。


単純に、入る回数が減っている人もいる。


メインロビーへ入る。


【現在オンライン:239,214】


昨日より少ない。


掲示板を見る。


《昨日三回やられて、今日は二回しか入れない》


《最近、戦闘不能になると本当に眠くなる》


《深層行った人いる? 疲れるからやめた》


《俺は週末だけにした》


悠真は画面を見ていた。


そのとき、KAIからメッセージが来た。


《昨日、大丈夫だった?》


悠真は返事を打つ。


《ちょっと疲れただけ》


すぐに返事が来た。


《俺も昨日二回やられた》


《今日は接続回数減った》


RIONからも来る。


《俺も》


三人とも同じだった。


ゲームを続けられないわけではない。


ただ、以前のようには入れない。


悠真はランキングを開いた。


KAI。


RION。


YUMA。


順位は変わっていない。


けれど、その下を見ると、何人かの名前が消えていた。


「……また減った」


一人。


二人。


三人。


昨日までいた名前が、今日は見えない。


それでも新しくログインした人もいる。


だから、数字は一気には減らない。


少しずつ。


毎日少しずつ。


ゲームから人が離れていく。


悠真はその理由を、初めて具体的に理解した。


ゲームは楽しい。


でも、楽しいだけではない。


本当にその世界へ入るゲームだからこそ、失敗すれば疲れる。


そして、疲れれば次に入る回数が減る。


その繰り返しだった。


その日の夜。


悠真は一回だけゲームに入った。


深層には行かなかった。


普通の任務を一つだけ選んだ。


そこには、以前一緒に戦ったNPCがいた。


「久しぶりだな」


NPCが言う。


悠真は少し笑った。


「久しぶり」


「今日は一人か?」


「うん」


「なら、無理をするな」


その言葉に、悠真は少し驚いた。


NPCはプレイヤーを操作する存在ではない。


自分で考える。


自分で動く。


時にはプレイヤーの指示にも従わない。


そして時には、プレイヤーを傷つける。


でも、こうして心配してくれることもある。


悠真は武器を構えた。


「分かった。でも、今日は一つだけやろう」


NPCが頷く。


「それでいい」


任務は短かった。


戦闘も少なかった。


悠真は一度も倒されなかった。


帰還すると、


【任務完了】


【評価:A】


と表示された。


悠真はそのままログアウトした。


画面の向こう側では、今日も誰かが戦っている。


誰かが勝つ。


誰かが負ける。


誰かが疲れる。


誰かが休む。


そして、誰かがもう戻ってこない。


北方鉱山の深層では、誰も知らないところで、新しい記録が保存されていた。


【戦闘不能後の再接続時間】


【疲労反応】


【接続頻度】


【戦闘不能回数と継続率の相関】


そして、その下に一つ。


【YUMA】


【戦闘不能後:翌日再接続】


記録は、静かに追加された。

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