↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
45/330

第四十五章 戻らない人

土曜日の朝。


悠真はいつもより少し遅く起きた。


カーテンを開ける。


外は晴れていた。


「おはよう」


台所へ行くと、母親が朝食を並べていた。


「おはよう。今日は学校ないからって、夜更かししなかったでしょうね?」


「してないよ」


「昨日も十時半?」


「うん」


母親は少し笑った。


「ならいいけど」


朝食を食べ終えると、悠真は食器を片づけた。


「今日はゲームするの?」


「うん。でも、先に部屋を片づける」


「珍しい」


「昨日、机の上がいっぱいだったから」


「それなら自分で片づけてね」


「分かった」


掃除を終えてから、悠真はパソコンを起動した。


休日の午前中。


平日よりプレイヤーが多いはずだった。


しかし、表示された数字を見て、悠真は少し驚いた。


【現在オンライン:241,308】


「……増えてる」


昨日より二千人ほど多い。


やめたわけではない。


時間が合わなくなっていただけの人もいる。


週末だけ戻ってくる人もいる。


悠真は少し安心した。


「みんな、いなくなったわけじゃないんだ」


メインロビーへ入る。


いつもより人が多い。


掲示板も賑わっていた。


《今日は鉱山やる》


《誰か深層行かない?》


《ワールドボス来たら呼んで》


《久しぶりにログインした》


そんな書き込みが流れている。


RIONから通信が入った。


「悠真、今日行ける?」


「うん」


「KAIもいる」


三人が集合する。


「昨日の続きだな」


KAIが言う。


「うん」


北方鉱山へ転送する前に、悠真はランキングを確認した。


【総合ランキング】


【1位 KAI】


【2位 RION】


【3位 YUMA】


その下には、昨日まで見ていた名前が並んでいる。


けれど、一つだけ見覚えのある名前が消えていた。


「……あれ?」


「どうした?」


RIONが聞く。


「MIZUがいない」


「MIZU?」


「ランキングにいた人」


KAIが答えた。


「昨日まではいたな」


悠真は少し下までスクロールした。


いない。


さらに下。


やはりいない。


「休んでるだけじゃない?」


RIONが言う。


「たぶん」


悠真もそう思った。


ランキングから名前が消えること自体は珍しくない。


長期間ログインしなければ順位が落ちる。


しかし、MIZUは上位のプレイヤーだった。


突然いなくなるのは少し気になった。


「まあ、今日は鉱山だ」


KAIが言った。


「行こう」


三人は転送された。


深層第三区画。


昨日まで閉じていた場所だった。


中は巨大な工場のようになっていた。


天井が見えないほど高い。


壁には大量の機械。


床には何本もの線路が走っている。


「鉱山というより工場だな」


RIONが言った。


悠真は周囲を見回した。


「何か作ってたのかも」


「何を?」


「分からない」


三人は進む。


敵は出なかった。


代わりに、壁のモニターに文字が浮かんでいた。


【戦闘データ収集】


【分析】


【比較】


【統合】


【生成】


悠真は足を止めた。


「……生成」


昨日まで見なかった言葉だった。


「これ、何を作ってるんだろう」


RIONが聞いた。


「分からない」


KAIも画面を見る。


「でも、たぶん俺たちのデータが使われてる」


三人はその先へ進んだ。


やがて、巨大な部屋に出た。


中央に円形の台座がある。


その上には何もない。


しかし、周囲の装置が一斉に起動した。


【新規データを確認】


【プレイヤー接続】


【戦闘記録取得】


【装備記録取得】


悠真たちの画面に、昨日の戦闘が映し出された。


KAIの攻撃。


RIONの射撃。


悠真の回避。


その後ろには、さらに古い記録が重なっていく。


別のプレイヤー。


別の戦闘。


別の装備。


何年も前のデータまで混ざっている。


「これ……全部保存されてるのか」


RIONが言った。


「たぶん」


悠真は映像を見ていた。


その中に、一つ見覚えのある戦闘があった。


かなり前のものだった。


初心者だった悠真が、最初の頃に負けた戦闘。


敵に何度もやられて、最後には逃げて終わった。


「これ……」


「悠真?」


「俺の最初の頃のデータ」


画面には、昔の自分が映っている。


操作も下手だった。


装備も弱い。


敵の動きも理解できていない。


けれど、何度も立ち上がっている。


「こんなのまで残ってるんだ」


悠真は少し笑った。


KAIが言った。


「それが今のお前を作ったんだろ」


「そうかもしれない」


そのとき。


別の映像が流れた。


知らないプレイヤーだった。


名前は表示されない。


そのプレイヤーは、何度も同じ敵に挑戦していた。


失敗。


再挑戦。


また失敗。


そして最後にはクリアしている。


別の映像。


NPCと長時間会話するプレイヤー。


別の映像。


装備を何度も作り直すプレイヤー。


さらに別の映像。


ランキング戦で負け続けても、何度も挑戦するプレイヤー。


悠真は画面を見ていた。


「……みんな違う」


「何が?」


「強くなる方法」


KAIが答える。


「当然だろ」


「うん」


悠真は頷いた。


ゲームの中では、強さは一つではない。


誰かは戦闘で強い。


誰かは装備で強い。


誰かは知識がある。


誰かは仲間を作るのが上手い。


誰かは失敗しても続ける。


誰かは、他の人が気づかない場所を見つける。


そして、その全部が記録されている。


そのとき。


台座の中央に光が集まり始めた。


【多様なデータを確認】


【統合処理を開始】


【戦闘能力】


【適応能力】


【判断能力】


【反応速度】


【装備運用】


【失敗修正】


【協力行動】


【長期継続】


次々と項目が表示される。


悠真はその最後の項目を見た。


【継続】


「……」


誰かが強くなる。


誰かがやめる。


誰かが戻る。


ゲームを続ける理由も、人によって違う。


そのすべてを、このシステムは数字として集めている。


そして。


【統合率:72%】


中央の台座に、ぼんやりと機体の輪郭が現れた。


まだ完成していない。


顔もない。


武器もない。


ただ、形だけがある。


RIONが呟いた。


「これが……作ろうとしてるもの?」


悠真は答えなかった。


そのとき、システムが突然表示を変えた。


【不足データ】


【予測不能な行動】


【新規判断】


【未経験状況への対応】


そして最後に、


【継続的な人間的選択】


という文字が表示された。


「人間的……?」


KAIが聞き返す。


悠真は画面を見たまま黙っていた。


意味はまだ分からない。


ただ、今までのデータだけでは足りない。


そんなことだけは、なんとなく分かった。


そして同じ頃。


メインロビーの外では、一人のプレイヤーが久しぶりにログインしていた。


名前はMIZU。


彼はしばらく画面を見たあと、短く呟いた。


「……やっぱり、戻ってきた」


そして、ゲームを始めた。


北方鉱山では、三人の知らないところで、新しいデータが一つ追加された。


【MIZU】


【ログイン確認】


システムは静かに、それを記録した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。