第四十一章 集められた記録
光の中に、無数のデータが浮かんでいた。
悠真には、その一つ一つが何なのかまでは分からない。
けれど、見覚えのあるものもあった。
自分が使った装備。
以前失敗した任務。
ワールドボスとの戦闘記録。
ランキング戦で負けた記録。
それから、普段なら見ることもないような古い戦闘記録。
「これ……俺たちだけじゃない」
RIONが言った。
悠真も頷いた。
光の中に、知らないプレイヤーの名前が次々と浮かんでいる。
【KAI】
【RION】
【YUMA】
【MIZU】
【TAIGA】
【REN】
【SORA】
そして、すでに長期間ログインしていないプレイヤーの名前まであった。
「昔のプレイヤーまで入ってる」
KAIが言った。
「じゃあ、これ全部……」
「ゲームのデータ」
悠真が答えた。
大型機体の胸部から伸びた光が、さらに広がっていく。
【戦闘記録】
【プレイヤー操作記録】
【NPC戦闘記録】
【装備開発記録】
【ワールドイベント記録】
【ランキング戦闘記録】
【敗北記録】
【成功記録】
次々に表示される。
悠真はその中に、一つの言葉を見つけた。
【戦闘最適化】
「最適化……?」
その瞬間。
大型機体が動いた。
速い。
さっきまでとは明らかに違う。
KAIが反応するより先に、敵の攻撃が届く。
「くっ!」
KAIの機体が吹き飛ばされた。
RIONが援護する。
しかし、敵はRIONの攻撃を避けた。
「また避けた!」
「今までより速い!」
悠真は距離を取った。
【解析率:81%】
数字が急激に上がっている。
「これ以上戦ったら、もっと強くなる」
RIONが言った。
「じゃあ、逃げる?」
KAIが聞く。
悠真は画面を見た。
【帰還地点:未設定】
帰ることはできない。
そもそも、この特殊任務は何なのか。
なぜこんな敵がいるのか。
なぜプレイヤーのデータを集めているのか。
分からない。
けれど、今は一つだけ分かることがある。
この敵は、倒すためだけに存在しているわけではない。
何かを作っている。
「……もっとデータが欲しいんだ」
悠真が言った。
「誰が?」
RIONが聞く。
「分からない」
「じゃあ、どうする?」
悠真は少し考えた。
「逆に利用する」
「利用?」
「うん」
悠真は装備画面を開いた。
これまで使っていた高性能ギアユニット。
グランディオ・コア。
未知の鉱石。
補助装備。
一つずつ確認する。
そして、一つを外した。
「それ、外すの?」
KAIが聞いた。
「うん」
「性能落ちるぞ」
「分かってる」
悠真はもう一つ外した。
さらに一つ。
最終的に、機体の性能は少し下がった。
RIONが不思議そうに聞く。
「何をするつもり?」
「分からない」
「また?」
「うん」
悠真は笑った。
「でも、今までの俺の戦い方を全部使う必要はないと思う」
大型機体が迫ってくる。
悠真は逃げる。
敵が追う。
しかし、いつもの回避とは違う。
わざと遅くする。
わざと隙を作る。
わざと敵の攻撃を受けそうになる。
「危ない!」
RIONが叫ぶ。
悠真は直前で機体を動かした。
攻撃がかすめる。
【行動データ取得】
その表示が出た。
悠真はそれを見た。
「やっぱり」
敵は、こちらの行動を記録している。
それなら――
「もっと変な動きをしたらどうなる?」
悠真は機体を急旋回させた。
敵の攻撃を避ける。
すぐに反対方向へ移動。
さらに停止。
そのまま何もせず、敵の前に立つ。
大型機体が一瞬止まった。
【予測対象外】
悠真の画面に表示された。
「……」
悠真は目を見開いた。
「今の、初めて見た」
KAIが言った。
「何が?」
「予測対象外って表示」
大型機体が再び動く。
悠真は、今度は考えずに動いた。
前へ。
右。
停止。
後退。
攻撃。
途中でキャンセル。
また前へ。
一つ一つの操作に、決まった意味はない。
勝つための完璧な動きでもない。
ただ、その瞬間に選んだ。
【予測対象外】
【予測対象外】
【予測対象外】
表示が続く。
大型機体の動きが乱れ始める。
「効いてる!」
RIONが叫んだ。
KAIが前へ出る。
「なら、今だ!」
三人が同時に攻撃する。
敵の装甲が砕ける。
【耐久値:11%】
しかし、敵は倒れない。
光がさらに強くなる。
【最終学習】
【完了】
悠真の表情が変わった。
「完了……?」
大型機体がゆっくり立ち上がる。
そして、これまでとは違う姿になった。
装甲が変形する。
腕が増える。
脚部の構造が変わる。
背中から巨大な機構が展開する。
【最適戦闘モデル】
【起動】
「……これが完成形?」
RIONが呟いた。
KAIが武器を構える。
「来るぞ」
大型機体が消えた。
次の瞬間。
KAIの背後。
「!」
攻撃。
KAIがギリギリで避ける。
さらに一撃。
RIONが援護する。
敵はそれを避ける。
そして悠真を見る。
「……」
悠真は動かなかった。
大型機体が突っ込んでくる。
悠真は、最後まで動かなかった。
直前。
左へ。
敵の攻撃が空を切る。
【予測誤差】
大型機体が一瞬だけ止まった。
悠真はその瞬間を逃さない。
攻撃する。
だが、敵もすぐに反応した。
悠真の攻撃を防ぐ。
「やっぱり、簡単にはいかないか」
悠真は後退した。
敵の動きは、ほぼ完璧だった。
これまでのデータ。
これまでの戦闘。
これまでのプレイヤー。
全部を使っている。
だから強い。
だから、普通に戦えば勝てない。
悠真は画面を見た。
自分の機体の耐久値。
装備。
残り時間。
そして敵のデータ。
【最適戦闘モデル】
その文字を見て、悠真は少しだけ考えた。
「最適って……」
KAIが聞く。
「何?」
悠真は敵を見た。
「最適って、どういう意味なんだろう」
RIONが答える。
「一番強いってことじゃない?」
「たぶん違う」
「え?」
悠真は敵を見つめた。
「一番強い動きをするってことじゃない」
敵が動く。
悠真は避ける。
「一番、正しいと思われる動きをするんだと思う」
「それが何だ?」
「だったら……」
悠真は少し笑った。
「間違えることは、できるのかな」
三人は一瞬、何も言わなかった。
大型機体が再び迫る。
悠真は武器を構えた。
勝つ方法は、まだ分からない。
けれど、一つだけ分かった。
この敵は、これまで存在したものを使って作られている。
ならば。
まだ存在していないものだけは――
この敵の中にはない。
悠真は、次の操作を選んだ。
それは、これまで一度も成功したことのない操作だった。
そして。
大型機体の予測表示が、一瞬だけ消えた。




