第四十章 まだ決めていない
悠真は、すぐには攻撃しなかった。
さっき気づいたことを、もう一度確かめる必要があった。
大型機体がこちらを向く。
赤い光が三人の機体を順番に捉えていく。
【プレイヤー行動モデル】
その表示が、まだ画面の隅に残っている。
「悠真、どうする?」
RIONが聞いた。
「少し待って」
「待つ?」
「うん」
悠真は機体を動かさなかった。
大型機体も動かない。
数秒が過ぎる。
そして突然、敵が動いた。
一直線に悠真へ向かってくる。
「来た!」
悠真は右へ動いた。
敵の腕が伸びる。
その瞬間、悠真は左へ切り返した。
大型機体の攻撃が空を切った。
「今の……」
RIONが声を漏らす。
敵が追ってくる。
悠真はさらに方向を変えた。
今度は後ろへ下がる。
敵の二撃目。
それも外れる。
【行動予測誤差】
画面に新しい表示が出た。
悠真はそれを見た。
「やっぱり」
「何が?」
「こいつ、俺が次にどこへ動くか予測してる」
KAIが答える。
「でも外れた」
「うん」
「どうして?」
悠真は少し考えた。
「自分でも次にどこへ行くか決めてなかったから」
RIONが黙った。
「……それ、攻略になるのか?」
「分からない」
悠真は答えた。
「でも、今のところは効いてる」
三人は再び動いた。
KAIが前へ出る。
敵がKAIの攻撃を予測する。
しかしKAIは、途中で攻撃をやめた。
敵の腕が空振りする。
RIONがその隙に射撃する。
敵がRIONへ向く。
今度はRIONが移動方向を変える。
悠真が側面へ回る。
三人とも、あえて同じ動きを繰り返さなかった。
戦闘は不安定になった。
けれど、敵の攻撃も少しずつ乱れていく。
【解析率:48%】
【行動予測精度:低下】
「下がってる」
RIONが言った。
「本当に?」
KAIが画面を見る。
【行動予測精度:67%】
【行動予測精度:61%】
【行動予測精度:54%】
数字が少しずつ落ちている。
「効いてるな」
KAIが言った。
悠真は頷いた。
けれど、まだ安心できなかった。
敵の強さそのものは変わっていない。
むしろ、戦えば戦うほど攻撃速度は上がっている。
「倒すなら、今かもしれない」
KAIが言った。
悠真も同じことを考えていた。
三人が一斉に攻撃する。
KAIが正面から。
RIONが遠距離から。
悠真が側面から。
大型機体の装甲に大きな亀裂が入った。
【耐久値:32%】
「もう少し!」
RIONが叫ぶ。
敵が突然止まった。
「……?」
三人の攻撃も止まる。
大型機体の胸部が開いた。
昨日と同じ光。
しかし、今回は違った。
【戦闘データ取得完了】
【プレイヤー行動モデル更新】
【新規戦闘パターンを登録】
悠真は画面を見た。
「登録……?」
次の瞬間。
大型機体の動きが完全に変わった。
今までとは違う。
KAIの攻撃を避ける。
RIONの射撃を避ける。
そして、悠真の移動方向へ先回りする。
「嘘だろ」
KAIが叫ぶ。
悠真は急停止した。
敵の攻撃が目の前を通過する。
一歩遅れていたら、直撃していた。
「こいつ……」
悠真は敵を見た。
さっきまでの戦闘を、全部利用している。
それだけではない。
三人が今まで使った行動を組み合わせている。
「学習してる」
RIONが言った。
「うん」
「じゃあ、どうする?」
悠真は答えなかった。
敵が再び近づいてくる。
今度は悠真の動きを完全に読んでいる。
右へ逃げれば右へ。
左へ逃げれば左へ。
攻撃すれば避ける。
避ければ追ってくる。
「……強すぎない?」
RIONが呟いた。
KAIも苦戦している。
それでも攻撃を続けている。
「まだ倒せる」
「どうやって?」
「分からない」
KAIが笑った。
「お前だけじゃなかったな」
悠真も少し笑った。
そのとき。
画面に新しい通知が出た。
【戦闘時間:31分】
【解析率:62%】
【特殊条件を確認】
【戦闘継続によるデータ蓄積量が一定値を超えました】
悠真はその文章を見た。
そして、ふと思った。
「……これ、倒すだけの任務じゃないのかも」
「どういう意味?」
RIONが聞く。
「最初から、この戦闘そのものを記録するために作られてるんじゃないかな」
KAIが黙った。
確かに、妙だった。
普通の敵なら、倒すために配置される。
しかしこの敵は、戦うほどこちらのデータを集める。
そして、そのデータを使って動きを変える。
「じゃあ、俺たちが戦えば戦うほど……」
RIONが言う。
「向こうが強くなる」
悠真が続けた。
「そういうこと」
三人の間に沈黙が落ちた。
敵が動く。
悠真は避ける。
しかし今度は、避けた先に攻撃が待っていた。
「!」
機体が吹き飛ばされる。
壁に激突する。
【耐久値:71%】
「悠真!」
「大丈夫!」
悠真は機体を起こした。
画面には、さらに新しい表示が出ている。
【YUMA行動予測:89%】
「……89%」
悠真はその数字を見た。
ほとんど読まれている。
それなら、次に何をするか。
悠真自身にも分からない行動を選ぶしかない。
けれど、戦闘中にそんなことができるのか。
一秒。
二秒。
悠真は考えた。
そして武器を構えた。
「悠真、何する?」
RIONが聞く。
「まだ決めてない」
「え?」
「次に何するか」
悠真は答えた。
「今、決める」
大型機体が突進する。
悠真は右へ動こうとした。
しかし、直前で操作を止めた。
機体が一瞬だけ立ち止まる。
大型機体の攻撃が、悠真の横を通り過ぎる。
「今!」
悠真は逆方向へ飛んだ。
敵が追いつけない。
【YUMA行動予測:71%】
「下がった!」
RIONが叫ぶ。
悠真は笑った。
まだ読まれている。
でも、完全ではない。
「じゃあ、もう一回」
今度は別の動き。
その次は、さらに別の動き。
同じ動きをしない。
決めたことに固執しない。
失敗しても、次の瞬間に変える。
敵は過去のデータを使って追ってくる。
けれど、悠真の次の一手は、まだ過去になっていない。
【YUMA行動予測:63%】
【59%】
【52%】
数字が落ちていく。
KAIが攻撃する。
RIONが続く。
悠真も踏み込む。
三人の攻撃が重なった。
大型機体の装甲が大きく割れる。
【耐久値:18%】
「あと少し!」
だが、その瞬間。
敵の胸部が再び開いた。
今までとは違う光が広がる。
そして画面に、一つの表示が出た。
【最終学習を開始します】
悠真の手が止まった。
「……最終?」
まだ終わっていない。
それなのに。
敵の周囲に、これまでとは比べものにならないほど大量のデータが浮かび始めた。
三人の戦闘記録だけではない。
過去の戦闘。
装備。
PVP。
ワールドボス。
通常任務。
失敗記録。
成功記録。
あらゆるデータが、巨大な光の中へ集まっていく。
悠真はその光を見つめた。
この敵は今まで、三人のことだけを学習していた。
でも今は違う。
もっと大きな何かを――
ゲームそのものを、読み始めていた。




