第三十九章 見えない基準
最初の一撃を避けたあと、悠真はすぐには反撃しなかった。
大型機体はゆっくりと腕を上げる。
右腕。
悠真は横へ移動する。
次の瞬間、腕が振り下ろされた。
床が砕けた。
「やっぱり……」
攻撃範囲が広い。
しかも、腕が長い。
正面にいるだけで危険だった。
KAIが側面から攻撃する。
「硬い!」
金属音が響いた。
攻撃は当たった。
しかし、装甲にはほとんど傷がつかない。
RIONが遠距離から射撃する。
何発か命中する。
それでも大型機体は止まらなかった。
「防御力が高すぎる」
RIONが言った。
悠真は敵から距離を取った。
画面を見る。
【解析率:3%】
まだほとんど分からない。
大型機体がこちらを向く。
「来る」
悠真が言った。
KAIが振り返る。
「分かったのか?」
「目が動いた」
その瞬間、敵が突進した。
KAIが横へ逃げる。
大型機体はそのまま壁にぶつかった。
轟音。
壁が大きくへこんだ。
「今の、真正面しか見てなかったな」
RIONが言う。
「うん」
悠真は敵の動きを観察した。
突進。
停止。
方向転換。
腕を振る。
また停止。
同じ動きが繰り返される。
「パターンがある」
「もう分かったのか?」
「まだ全部じゃない」
悠真は答えた。
「でも、同じところがある」
敵が再び腕を振り上げる。
今度はKAIではなく、RIONへ向かった。
RIONが後退する。
悠真は反対側へ回った。
「今!」
二人が同時に攻撃する。
KAIの攻撃が肩へ。
RIONの攻撃が脚部へ。
大型機体が一瞬だけ傾いた。
「効いた!」
しかし、次の瞬間。
大型機体の胸部が開いた。
「何だ?」
内部から光が漏れる。
悠真はすぐに叫んだ。
「離れて!」
三人が同時に後退した。
光が一気に広がった。
爆発ではなかった。
空間そのものが揺れた。
視界が歪む。
【特殊攻撃を確認】
【データ取得】
【解析率:12%】
「攻撃じゃない?」
RIONが言った。
悠真は画面を見る。
敵の特殊攻撃によって、こちらの装備情報が一部表示されなくなっている。
「データを取ってる」
「何?」
「この敵、俺たちの動きを調べてる」
KAIが黙った。
「……俺たちを?」
「たぶん」
悠真は敵を見た。
さっきまでと動きが違う。
今度はKAIが動く。
敵はKAIの攻撃を避けた。
「避けた?」
KAIが驚く。
さっきまでは当たっていた。
悠真は敵の足元を見る。
「変わった」
「何が?」
「動き方」
敵がKAIを狙う。
KAIが攻撃する。
今度は敵が一歩下がる。
そのまま腕を振る。
KAIが避ける。
しかし、敵の二撃目が追ってくる。
「こいつ……」
KAIが距離を取った。
「さっきまで俺の攻撃を受けてたのに」
「覚えたんだ」
悠真が言った。
「俺たちの攻撃を」
沈黙が落ちた。
RIONが呟く。
「じゃあ、同じ攻撃を続けたら……」
「通じなくなる」
悠真が答えた。
三人は同時に敵を見た。
今までのゲームでは、敵にも一定の行動パターンがあった。
覚えれば攻略できる。
装備を変えれば対応できる。
けれど、この敵は違う。
こちらが覚えるだけではない。
向こうも覚えている。
悠真は少し考えた。
そして武器をしまった。
「何してる?」
KAIが聞く。
「試す」
「何を?」
「何もしない」
「……は?」
悠真は敵から少し離れた。
攻撃しない。
動かない。
ただ観察する。
大型機体も動かない。
数秒。
十秒。
二十秒。
敵が一歩動いた。
悠真も一歩下がる。
敵が止まる。
悠真も止まる。
「やっぱり」
「何が分かった?」
RIONが聞く。
「俺たちが動いたときに、動く」
「それだけ?」
「うん」
悠真は考えた。
「だから、たぶんこいつには最初から決まった行動が少ない」
「じゃあ、どうやって戦う?」
悠真は少し黙った。
「分からない」
KAIが笑った。
「今日は珍しく分からないことが多いな」
「うん」
悠真も笑った。
けれど、その目は敵から離れなかった。
今までの敵は、過去を覚えていた。
同じ攻撃。
同じ行動。
同じ攻略法。
でも、この敵は違う。
こちらの行動によって、次の行動を変えている。
それなら。
悠真はふと気づいた。
「……だったら、同じことをしなければいい」
「どういう意味?」
「毎回、違うことをする」
KAIが少し考える。
「お前らしいな」
「そう?」
「そうだよ」
三人は再び動き始めた。
KAIは今までとは違う武器を選んだ。
RIONは攻撃距離を変えた。
悠真は近距離と遠距離を交互に切り替えた。
敵が対応する。
しかし、対応した瞬間には、もう次の行動が変わっている。
戦闘は長くなった。
【解析率:24%】
【解析率:31%】
【解析率:38%】
少しずつ、敵のデータが蓄積されていく。
けれど、敵も三人のデータを集めている。
「こいつ、戦えば戦うほど強くなるな」
RIONが言った。
「うん」
「じゃあ、時間をかけるほど不利じゃないか?」
悠真は敵を見た。
「たぶん」
「たぶんって……」
「でも、こっちも分かってきてる」
悠真は笑った。
「だから、どっちが先に分かるかだと思う」
その言葉の直後。
システム表示が変わった。
【解析率:50%】
【戦闘データ取得:完了】
【プレイヤー行動モデルの構築を開始】
悠真の表情が固まった。
「……行動モデル?」
KAIも表示を見た。
「何だ、それ」
誰にも分からなかった。
けれど、その直後。
大型機体の動きが変わった。
今までより速い。
そして、悠真がいつも使っている回避方向へ、先回りするように攻撃を放った。
悠真は間一髪で避けた。
「……」
「今の」
RIONが言う。
悠真は答えなかった。
もう一度、敵を見る。
今度は敵が、悠真の次の動きを待っているように見えた。
悠真は武器を握り直した。
自分が何をするのか。
自分でも、まだ決めていない。
なら。
「……考える前に動こう」
悠真は、今まで一度も使ったことのない操作を選んだ。
機体が動く。
敵が反応する。
しかし、その瞬間――
悠真は操作を変えた。
予定していた攻撃を途中で捨てる。
敵の攻撃が空を切った。
【解析率:51%】
数字が一つだけ上がった。
それを見て、悠真は気づいた。
この敵が知っているのは、自分がこれまでやってきたことだ。
まだやっていないことまでは、知らない。
「……そういうことか」
悠真は小さく呟いた。
けれど、その意味を言葉にするには、まだ少し早かった。
戦闘は続いている。
そして北方鉱山のさらに奥では、誰も知らない何かが、三人の戦いを記録し続けていた。




