第三十七章 それぞれの進み方
北方鉱山の奥へ進むにつれて、地形は少しずつ複雑になっていった。
同じような岩壁が続いている。
けれど、さっき通った場所とは微妙に違う。
悠真は何度も地図を確認した。
「……やっぱり固定じゃない」
道が変わる。
それなら、攻略情報だけに頼るのは難しい。
悠真は一度立ち止まり、周囲を見渡した。
左側には細い通路。
正面には崩れた採掘施設。
右側には、途中で途切れている道。
普通なら、一番広い正面の道を選びそうだった。
けれど、悠真は右側へ向かった。
「こっち」
「そっちは行き止まりじゃない?」
通信からRIONの声が聞こえた。
「たぶん」
「たぶん?」
「さっき見た地図と、今の地形が違うから」
「なるほど」
RIONはそれ以上聞かなかった。
しばらくして、悠真の機体が細い通路を抜ける。
その先に、小さな空間があった。
中央には古い採掘装置。
装置の周囲には、普通の鉱石とは違う青白い鉱石が埋まっていた。
【特殊鉱石を発見】
【採取可能】
「当たりだ」
悠真は採取を始めた。
数秒後。
【特殊合金×3】
【未知の鉱石×2】
「これか」
新しい素材が手に入った。
しかし、まだ何に使えるのかは分からない。
悠真はアイテム欄にしまった。
「悠真」
通信からKAIの声がした。
「何?」
「今、どこにいる?」
「東側の採掘区画」
「俺は中央から入った。そこまで行くのにかなり時間がかかった」
「そうなんだ」
「お前、どうやってそこまで行った?」
悠真は少し考えた。
「道を見て決めた」
「それだけ?」
「うん」
通信の向こうで、KAIが少し黙った。
「……やっぱり、お前は変なところで勘がいいな」
「勘じゃないよ」
悠真は答えた。
「前に似た地形を見たから」
「それを勘って言うんだよ」
「そうかな」
悠真は笑った。
その後、三人は一度合流することになった。
北方鉱山の中層。
広い採掘ホールに三機が集まった。
KAIは攻撃特化型の装備。
RIONは遠距離戦を重視した装備。
悠真は安定性を重視した装備。
同じゲームを遊んでいても、三人の戦い方はかなり違っていた。
「この先、敵が多い」
RIONが言った。
「さっき一人で入ったけど、数が多すぎた」
「じゃあ、一緒に行く?」
悠真が聞いた。
「そうしよう」
KAIも頷いた。
三機が並んで進む。
しばらくすると、前方から敵が現れた。
一体。
二体。
五体。
十体。
「来るぞ」
KAIが前へ出た。
一気に敵陣へ突っ込む。
強烈な一撃。
敵が吹き飛ぶ。
その隙にRIONが後方から攻撃する。
悠真は少し遅れて入った。
前方ではKAIが敵を引きつけている。
後方ではRIONが攻撃している。
その間に悠真は、別の敵の動きを見ていた。
「右から来る」
「分かるの?」
RIONが聞く。
「たぶん」
次の瞬間、右側の壁から敵が飛び出した。
悠真が先に攻撃する。
敵の動きが止まる。
「……本当に分かってたのか」
RIONが驚く。
「さっきと同じ音がしたから」
「音?」
「地面を動く音」
KAIが笑った。
「やっぱり変だな、お前」
「そう?」
「褒めてる」
三人はそのまま戦闘を続けた。
戦いが終わる。
【共同戦闘評価:S+】
【参加者:KAI、RION、YUMA】
【貢献度】
【KAI:41%】
【RION:34%】
【YUMA:25%】
「やっぱりKAIが一番か」
RIONが結果を見た。
「攻撃力が違うからな」
KAIは淡々としていた。
悠真は結果を確認してから、特に気にせずアイテム欄を開いた。
「この素材、装備に使えるかな」
「もう次のこと考えてるのか」
「うん」
RIONが笑った。
「本当にゲーム好きだな」
悠真は答えなかった。
ただ、新しい素材を眺めていた。
その日の夜。
母親が部屋を覗いた。
「悠真」
「なに?」
「もう九時半だよ」
悠真は時計を見る。
「ほんとだ」
「明日学校でしょう?」
「うん」
「続きは明日にしたら?」
悠真は少し迷った。
鉱山はまだ終わっていない。
制限時間も残っている。
けれど、母親との約束もある。
「分かった」
ゲームを保存して終了する。
「ちゃんと終われるようになったね」
母親が言った。
「前はもっと言わないとやめなかったのに」
「今はまだ時間あるから」
「そういうところも自分で考えられるならいいね」
母親はそう言って部屋を出ていった。
悠真はパソコンの電源が切れるのを見届けた。
明日も学校。
その後、またゲームをする。
それでいい。
翌日。
クロスギアのメインロビーでは、オンライン人数がさらに減っていた。
【現在オンライン:243,701】
昨日より千人以上少ない。
掲示板には、こんな書き込みが増えていた。
《最近、時間が足りない》
《装備作るだけで一日終わる》
《ワールドボスまで毎回参加するのは無理》
《週末だけにする》
《一回休んだら戻るの面倒になった》
悠真はそれを読んだ。
誰かが弱くなったわけではない。
ゲームが嫌いになったわけでもない。
ただ、それぞれの生活がある。
悠真自身も、学校がある。
宿題もある。
眠る時間も必要だ。
それでも、なぜか続けている。
その理由を、悠真自身もまだうまく説明できなかった。
ただ、昨日の鉱山を思い出す。
知らない敵。
知らない道。
知らない素材。
そして、まだ表示されていない【???】。
「……続き、やろう」
ログインする。
その瞬間。
画面いっぱいに新しい通知が表示された。
【特殊任務・緊急更新】
【北方鉱山深層部に異常反応を確認】
【新規エリアが開放されました】
【推奨参加人数:――】
【推奨参加人数:表示不能】
悠真の手が止まった。
「……何これ」
昨日までとは違う。
今までの特殊任務には、必ず推奨参加人数が表示されていた。
今回は空欄だった。
そして、その下に新しい表示が出る。
【未知の大型反応を確認】
【データ収集中】
悠真はしばらく画面を見つめた。
そのとき、ロビー全体にシステム音声が響いた。
【特別任務の進行状況を更新します】
【現在、北方鉱山深層部に到達しているプレイヤー――】
表示された名前は、三つだけだった。
KAI。
RION。
そして、
YUMA。
悠真は少しだけ驚いた。
「……三人だけ?」
まだ他のプレイヤーもいるはずだった。
けれど、そこまで進んでいるプレイヤーは少ない。
悠真は装備を確認した。
そして、昨日手に入れた未知の鉱石を選択した。
【解析を開始しますか?】
「はい」
画面が一瞬暗くなった。
次の瞬間。
【解析結果】
【既存ギアとの適合率:72%】
【特殊反応を確認】
悠真は目を細めた。
「これ……使えるかもしれない」
まだ何が起こるのかは分からない。
けれど、また一つ。
知らなかったものが見つかった。
悠真は機体を北方鉱山の入口へ向けた。
その奥には、まだ誰も見たことのない場所がある。
そして、そのさらに先には――
昨日までゲームの中に存在しなかった何かが、静かに待っていた。




