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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第三十五章 知っている動き

月曜日の朝。


悠真は眠そうな顔で朝食を食べていた。


「眠い?」


母親が聞いた。


「ちょっとだけ。」


「昨日、何時に寝たの?」


「十時半。」


「それなら、そんなに遅くないじゃない。」


「うん。」


悠真はあくびをした。


昨日は早めにゲームを終えた。


それでも、学校へ行く朝は少し眠い。


母親はそれ以上何も言わなかった。


「忘れ物ない?」


「大丈夫。」


悠真はランドセルを背負い、玄関を出た。


学校では、いつも通り授業が始まった。


午前中の算数の時間。


悠真は問題を解いていたが、最後の一問で計算を間違えた。


先生が答案を返す。


「ここ、惜しいね。」


「……あ。」


悠真は自分の間違いを見て、少し悔しそうにした。


ゲームでは敵の動きを見ているのに。


学校では、簡単な計算で間違える。


そんなこともある。


昼休み。


友達が悠真の机のところへ来た。


「昨日、クロスギアやった?」


「やった。」


「また?」


「うん。」


「よく飽きないな。」


「まだ面白いよ。」


「俺、最近あんまりやってない。」


「なんで?」


「時間かかるから。」


友達はそう言って、校庭へ走っていった。


悠真はその背中を見ながら、少しだけ考えた。


時間。


確かに、最近の《クロスギア》は時間がかかる。


新しい装備を作るにも素材が必要。


高難度任務には時間がかかる。


世界BOSSも、一度始まれば簡単には終わらない。


それでも悠真は、やめようとは思わなかった。


学校が終わる。


家に帰る。


宿題を終わらせる。


母親に確認してから、パソコンを起動する。


「今日は何しようかな。」


ログイン。


【オンライン:245,731】


悠真はロビーを見渡した。


昨日より少ない。


チャット欄には、最近よく見る名前がいくつか並んでいる。


『高難度任務、また仕様変わった?』


『昨日のBossきつかった。』


『最近、素材集めるだけで疲れる。』


悠真は少し考えた。


それから、今日は普通の任務を選んだ。


難しい任務ではない。


報酬も特別高くない。


しかし、途中にある小さな町へ寄った。


以前から気になっていた場所だった。


町の外れに、一軒の整備工場がある。


悠真が近づくと、整備士の機械生命体が顔を上げた。


「おう。今日も来たのか。」


「うん。」


「最近、よく見るな。」


「そう?」


「昨日も来ただろ。」


「昨日は別の場所だったよ。」


整備士は少し笑った。


「そうだったか。」


悠真は工場の中を見回した。


「この前言ってた新しい部品、できた?」


「ああ。だが、お前にはまだ早い。」


「なんで?」


「必要な素材が多すぎる。」


「どんな素材?」


整備士は名前をいくつか挙げた。


悠真はすぐにメモした。


「それ、どこで取れる?」


「北の鉱山だ。ただし、普通の鉱山じゃない。」


「高難度?」


「そうだ。」


悠真は少し笑った。


「じゃあ行ってみる。」


「お前、本当に好きだな。」


「うん。」


それだけだった。


悠真は町を出た。


北の鉱山へ向かう。


高難度任務を開始する。


敵は強い。


一体目。


二体目。


三体目。


悠真は以前よりも慎重に動いた。


攻撃を受けないようにするだけではない。


敵の行動を見ながら、次に何をするかを考える。


一体目が突進する。


悠真は横へ避ける。


二体目が遠距離攻撃。


その瞬間、前方の岩陰へ移動する。


攻撃が岩に当たる。


三体目が近づく。


悠真は後ろへ下がらず、逆に前へ出た。


敵の横を抜ける。


背後から攻撃。


【敵撃破】


【評価:S】


「やっぱり。」


悠真は小さく呟いた。


この敵は、接近したほうが安全だった。


前に一度失敗したことがある。


そのときは距離を取ってしまった。


今日は違う。


失敗した経験が、そのまま次の戦いに残っている。


任務終了。


【総合評価:S+】


【獲得素材:高純度鉱石×4】


悠真は素材を確認した。


「これで一つ。」


それから、もう一度同じ任務を開始した。


同じ場所。


同じ敵。


しかし、今度はもっと早く終わった。


三回目には、さらに短くなった。


悠真は時計を見る。


「……結構時間使ったな。」


母親との約束を思い出す。


今日は夕食の前まで。


悠真はそこでゲームを止めた。


夕食の席。


母親が聞いた。


「今日はどうだった?」


「新しい素材を取ってた。」


「そう。」


「あと、装備も作りたい。」


「そんなに色々あるの?」


「うん。」


悠真は少し嬉しそうに説明した。


母親には細かい内容までは分からなかった。


でも、以前よりも悠真が何をしているのかは少し分かるようになってきた。


「楽しそうね。」


「うん。」


「じゃあ、ちゃんと学校もやりなさい。」


「分かってる。」


母親は笑った。


「それならいいよ。」


その夜。


悠真は短い時間だけゲームに戻った。


ランキングを見る。


【総合ランキング】


1位 KAI

2位 RION

3位 YUMA


順位は変わっていない。


しかし、悠真の総合評価は少しずつ上がっていた。


普通の任務。


高難度任務。


世界BOSS。


PvP。


探索。


装備製作。


ゲームキャラクターとの交流。


一つ一つは、大した差ではない。


でも、それらを毎日積み重ねている。


悠真はランキングを閉じた。


「明日はPvPやろうかな。」


そのとき、画面の端に新しい通知が表示された。


【新規特殊任務】


【推奨参加レベル:高】


【制限時間:48時間】


悠真は少し考えた。


そして、詳細を開いた。


そこには、今まで見たことのない敵の名前があった。


「……これ、何だろう。」


悠真は興味を持った。


明日の学校が終わったら、やってみよう。


そう決めて、ゲームを終了した。


まだ一位ではない。


まだ、誰よりも強いわけでもない。


ただ、他のプレイヤーが一つの遊び方を選び始める中で、悠真はまだ、いろいろなものに手を伸ばしていた。


その小さな違いが、少しずつ彼の中に積み重なっていた。

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