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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第三十四章 遊び方の違い

土曜日の朝。


悠真は、いつもより少し早く目を覚ました。


窓の外は晴れていた。


今日は学校がない。


だからといって、すぐにゲームを始めるつもりはなかった。


机の上には、昨日の宿題が残っている。


悠真は椅子に座り、問題集を開いた。


三十分ほどしてから、最後の問題を書き終える。


「……終わった。」


時計を見る。


まだ九時前だった。


悠真は立ち上がり、台所へ向かった。


「お母さん。」


「なに?」


「宿題、終わったよ。」


母親は朝食の片付けをしながら振り返った。


「本当に?」


「うん。」


「じゃあ、今日は少し遊んでもいいよ。」


「やった。」


悠真は嬉しそうに自分の部屋へ戻った。


母親はその後ろ姿を見ながら、少しだけ笑った。


以前なら、ゲームを始める前に何度も言っていた。


「宿題は?」


「いつまでやるの?」


「もう寝なさい。」


最近は、少しずつ言う回数が減っている。


悠真自身が、先にやるべきことを終わらせるようになってきたからだった。


もちろん、母親がゲームを好きになったわけではない。


ただ、


「ゲームをすると何もできなくなる」


という心配は、少しずつ小さくなっていた。


悠真は部屋に戻り、パソコンを起動した。


《クロスギア》にログインする。


画面にメインロビーが表示された。


【オンライン:247,892】


以前より、また少し減っている。


悠真は数字を見たあと、すぐに視線を移した。


昨日手に入れたグランディオ・コアが気になっていた。


インベントリを開く。


【特殊部品:グランディオ・コア】


説明欄には、上級装備の一部に使用できると書かれている。


しかし、必要な素材がまだ足りない。


「これだけじゃ作れないか。」


悠真は装備製作画面を開いた。


必要素材を一つずつ確認する。


高純度ギア素材。


特殊合金。


冷却ユニット。


そして、もう一つ。


「これ、どこで取れるんだろう。」


検索欄に素材名を入力する。


いくつかの情報が表示された。


高難度任務。


特定の敵。


低確率。


悠真は少し考えた。


「……じゃあ、行ってみよう。」


通常の任務を選択する。


今回選んだのは、これまで何度も攻略した森林地帯だった。


しかし、悠真はいつもと違うルートを選んだ。


敵を倒す。


素材を拾う。


また進む。


途中で一体の敵が現れた。


悠真はすぐには攻撃しなかった。


少し離れたところから動きを見る。


敵は一定の間隔で攻撃を繰り返していた。


「やっぱり。」


前に一度だけ見た敵と似ている。


ただし、今回の個体は攻撃後の硬直時間が短い。


悠真は距離を取った。


敵が突進する。


横へ避ける。


反撃。


敵が振り向く。


もう一度避ける。


そして、最後の一撃。


敵が倒れた。


【任務評価:A】


【獲得素材:特殊合金×2】


悠真は画面を見て、小さく頷いた。


「これなら使える。」


それからしばらく、同じ任務を繰り返した。


一時間後。


必要な素材が揃った。


製作画面を開く。


【高性能ギアユニットを製作しますか?】


「はい。」


短い演出のあと、新しい装備が完成した。


【高性能ギアユニット】


攻撃性能だけを見ると、現在の装備より少し高い。


しかし、それだけではなかった。


【特殊効果:戦闘中の機体制御安定性上昇】


悠真は説明を読む。


「これ、世界BOSSでも使えるかも。」


装備を変更する。


そのとき、ロビーのチャットが流れた。


『YUMA、また新しい装備作ったの?』


『どうやって素材集めてる?』


『最近ずっと高難度やってない?』


悠真は少し考えてから返事をした。


『普通にいろいろやってるよ。』


『いろいろって?』


『任務とか、PvPとか、探索とか。』


しばらくして、別のプレイヤーが書き込んだ。


『そんなにやる時間ないよ。』


『俺も。最近は一つのコンテンツだけで精一杯。』


悠真は画面を見た。


その言葉を否定する気にはならなかった。


自分だって、学校がある。


宿題もある。


明日はまた学校だ。


だからこそ、今日は朝のうちに宿題を終わらせた。


「……みんな、それぞれなんだ。」


悠真はそう呟いた。


そのとき、画面上に通知が表示された。


【新規ワールドイベント予告】


【ワールドボス出現予定】


悠真の表情が少し変わった。


「またか。」


開始時刻を確認する。


まだ二時間ほどある。


悠真はすぐには参加しなかった。


新しく手に入れた装備を試すため、別の高難度任務へ向かった。


戦闘を繰り返す。


一度目。


A。


二度目。


S。


三度目。


S+。


悠真は結果を見ながら、少しずつ装備の使い方を変えていった。


攻撃力そのものは大きく変わらない。


しかし、機体の動きが安定する。


細かい操作がしやすい。


敵の攻撃を避けたあと、次の行動に移るまでの時間も短く感じる。


「これなら……。」


悠真はもう一度同じ任務を選択した。


今度は、敵の攻撃を誘ってから反撃する。


結果はS+。


【戦闘貢献度:高】


悠真は満足そうに笑った。


ゲームの中では、昨日より少しだけ強くなっていた。


昼になる。


母親が部屋のドアを軽く叩いた。


「悠真、お昼ご飯。」


「うん。」


悠真はゲームを一時停止して、部屋を出た。


昼食を食べながら、母親が聞く。


「今日はずっとゲーム?」


「ううん。宿題は終わったし、午後に少し遊んだら、あとで買い物にも行く。」


「そう。」


母親はそれ以上言わなかった。


悠真は昼食を終えると、約束通り一度ゲームをやめた。


買い物から帰ってきたあと、時計を見る。


ワールドボス開始まで、あと十分。


「お母さん、ゲームしていい?」


「宿題はもう終わってるんでしょ?」


「うん。」


「じゃあ、いいよ。でも、夜は遅くならないようにね。」


「分かった。」


悠真は部屋へ戻った。


《クロスギア》を起動する。


メインロビーには、すでに多くのプレイヤーが集まっていた。


しかし、以前より静かだった。


カウントダウンが始まる。


【ワールドボス出現まで:00:30】


悠真は新しい装備を確認する。


そして、昨日のグランディオとの戦闘記録を開いた。


四本の腕。


二種類の攻撃。


攻撃後の隙。


地形による移動制限。


他のプレイヤーの動き。


ゲームキャラクターとの連携。


すべてを一度確認する。


【00:10】


悠真は小さく息を吐いた。


「今度は、もっと上手くできそう。」


【00:03】


【00:02】


【00:01】


画面が白くなった。


そして、戦場へ転送される。


【ワールドボス出現】


【対象:グランディオ】


悠真は周囲を見た。


昨日より参加者は少なかった。


それでも、まだ数万人いる。


誰かがチャットで叫ぶ。


『強すぎる!』


別のプレイヤーが返す。


『攻撃範囲広すぎない?』


悠真はグランディオの動きを見ていた。


昨日とは少し違う。


しかし、完全に未知ではない。


「右腕のあと……左。」


グランディオが右腕を振る。


悠真は避ける。


続けて左腕。


それも避ける。


その瞬間、近くにいたプレイヤーが攻撃を仕掛けた。


悠真は少しだけ距離を取った。


「今じゃない。」


グランディオが反撃する。


そのプレイヤーが吹き飛ばされた。


悠真はすぐに前へ出た。


攻撃。


離れる。


再び接近。


攻撃。


以前より動きが滑らかだった。


新しい装備が、少しだけ戦い方を変えている。


その変化は小さい。


しかし、積み重ねれば大きくなる。


戦闘が続く。


一時間後。


【ワールドボス討伐成功】


【総合評価:S+】


【MVP:YUMA】


【特殊報酬:高純度ギア素材×15】


悠真は画面を見つめた。


「……S+。」


昨日より一つ上がった。


ロビーへ戻る。


チャットが流れている。


『今日もYUMAがMVPか。』


『最近、本当に強くなったな。』


『俺はもうついていけないかも。』


悠真はその言葉を読んだ。


そして、しばらく考えた。


「……強くなった、のかな。」


ランキングを開く。


【総合ランキング】


1位 KAI


2位 RION


3位 YUMA


昨日より一つ順位が上がっていた。


悠真はそれを確認すると、ランキング画面を閉じた。


まだ一位ではない。


でも、少しずつ近づいている。


その夜。


ゲームを終了した悠真は、母親に言われた通り、いつもより早く布団に入った。


ベッドの中で、今日手に入れた素材のことを考える。


明日は学校。


そのあと、またゲームができる。


「次は、あの装備を作ろう。」


そう思いながら、悠真は目を閉じた。


まだ彼は知らない。


自分が少しずつ、他のプレイヤーとは違う場所へ進んでいることを。


そして、その差がこれから少しずつ、大きくなっていくことを。

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