第三十三章 積み重ね
火曜日。
学校から帰った悠真は、宿題を終えてから《クロスギア》にログインした。
【オンラインプレイヤー:248,613】
ロビーに入る。
昨日より、また少し減っている。
けれど。
悠真はもう、その数字を見ても立ち止まらなくなっていた。
チャット欄には、今日もいくつもの会話が流れている。
『今日、世界Boss来るかな』
『最近、出現間隔短くない?』
『昨日のやつ、きつかった』
『装備足りない』
『高難度行けば素材取れるよ』
『その高難度がきついんだよ』
悠真は少し笑った。
「分かる」
自分も最初はそうだった。
強い敵を見るたびに、正面から攻撃して。
攻撃されて。
負けて。
もう一度挑戦した。
それを何度も繰り返してきた。
その時。
【緊急世界イベント】
【ワールドボス出現予告】
ロビーの空気が変わった。
『来た!』
『参加する』
『今回は何だ?』
【出現まで:60秒】
悠真は装備を確認した。
武器。
防具。
補助装置。
すべて確認する。
以前なら。
ここまで確認することはなかった。
でも。
今では自然にやっていた。
【出現まで:10秒】
数字が減っていく。
三。
二。
一。
【ワールドボスが出現しました】
景色が変わった。
巨大な峡谷。
中央に立っていたのは、四本の腕を持つ大型機械獣だった。
【ワールドボス:グランディオ】
【推定危険度:A+】
周囲に大量のプレイヤーが出現する。
「行くぞ!」
誰かが叫んだ。
最初の攻撃が始まった。
グランディオが腕を振る。
地面が揺れる。
「うわっ!」
何人ものプレイヤーが吹き飛ばされた。
悠真は一歩下がった。
そして。
攻撃が終わる直前に前へ出た。
横から攻撃。
離れる。
また攻撃。
今度は右腕。
悠真はすぐに距離を取った。
「やっぱり」
前に戦ったBossと似ている。
攻撃の前に、ほんの少しだけ動きが止まる。
その一瞬。
次の攻撃方向を予測できる。
悠真は攻撃を避けた。
近くにいたプレイヤーが叫ぶ。
「今の避けたのか?」
「たぶん」
「たぶんって……」
悠真は答えなかった。
グランディオの左腕が動く。
今度は。
少し遅い。
「次、来る」
悠真が下がる。
直後。
地面が砕けた。
「……!」
近くのプレイヤーが悠真を見る。
「なんで分かった?」
「前にも似た攻撃があったから」
「そんなの覚えてるのか?」
「なんとなく」
戦闘は続いた。
十分钟。
二十分。
三十分。
参加者の動きが少しずつ変わっていく。
最初は全員が攻撃していた。
しかし。
時間が経つと。
Bossの攻撃を避けることを優先する人が増えていった。
悠真は逆だった。
攻撃できる時間が分かる。
危険な時間も分かる。
だから。
無理に攻撃する必要がなかった。
攻撃できる時だけ攻撃する。
それを繰り返す。
そして。
【グランディオ:HP20%】
誰かが叫んだ。
「あと少し!」
Bossが咆哮する。
四本の腕が同時に動いた。
「来る!」
悠真は後退した。
周囲のプレイヤーも逃げる。
しかし。
Bossの攻撃が終わった瞬間。
悠真は逆に前へ出た。
「今!」
攻撃。
さらに攻撃。
近くにいたプレイヤーも続く。
BossのHPが一気に減った。
【HP:3%】
最後の一撃。
グランディオが倒れた。
【ワールドボス討伐成功】
【総合評価:S】
【MVP:YUMA】
ロビーへ戻る。
【獲得報酬】
【高純度ギア素材×12】
【上級強化素材×8】
【特殊部品:グランディオ・コア×1】
悠真は画面を見た。
「……コア?」
初めて見る素材だった。
チャットが流れる。
『YUMAまたMVPかよ』
『あいつ、Boss戦慣れすぎだろ』
『俺なんて避けるだけで精一杯だった』
『報酬何だった?』
悠真は自分の報酬を確認した。
『グランディオ・コア』
送信する。
『それ何?』
『知らない』
『俺も出なかった』
悠真は少し考えた。
「使い道、調べてみよう」
その頃。
別のプレイヤーがチャットに書き込んだ。
『最近Bossきつくなってない?』
『前からだろ』
『いや、今回は特に』
『でも報酬は良くなってる』
『それならいいじゃん』
悠真はその会話を見ながら。
新しい素材の説明を開いた。
【グランディオ・コア】
【高難度装備の製造・強化に使用できます】
「高難度装備……」
少しだけ目を輝かせる。
まだ。
使い道は分からない。
でも。
新しいものを見つけると。
試してみたくなる。
それは昔から変わらなかった。
夜。
悠真は強化画面を開いた。
必要素材を確認する。
まだ足りない。
「またBossやらないと」
そう呟いた。
そして。
次の任務を選択した。
ゲームの世界では。
今日も一つ。
新しい経験が積み重なっていた。




