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《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


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第三十一章 接続の条件

日曜日。


 悠真は、昨日のことを考えながら朝食を食べていた。


 ゲームの中から。


 自分の部屋が見えた。


 あの映像は、偶然だったのだろうか。


 それとも。


 何かの実験だったのだろうか。


「悠真、どうしたの?」


 母親の声で、悠真は顔を上げた。


「え?」


「ぼーっとしてる」


「ああ……昨日のゲームのこと考えてた」


「また?」


「うん」


「最近、ずいぶん変わったゲームになったね」


 悠真は少し笑った。


「そうだね」


 朝食を終える。


 部屋へ戻る。


 ゲームを起動する前に、昨日の記録を確認した。


【通信異常】


【接続経路を再構成】


【観測データ取得完了】


 それだけだった。


 どこから接続したのか。


 なぜ自分の部屋が見えたのか。


 説明はない。


 悠真はログインした。


【オンラインプレイヤー:251,936】


 また減っている。


 ロビーに入る。


 昨日の現象について、プレイヤーたちが話していた。


『昨日、変な映像出た人いる?』


『俺は出なかった』


『俺も』


『YUMAだけじゃない?』


『本当に?』


 悠真は少し驚いた。


「僕だけ?」


 メッセージを確認する。


 どうやら、同じ現象を見たプレイヤーはほとんどいない。


 その時。


 運営から個人通知が届いた。


【接続安定化試験への協力をお願いします】


【対象プレイヤー:YUMA】


 悠真は画面を見つめた。


「僕?」


 昨日の現象。


 その直後の通知。


 偶然とは思いにくい。


 承諾する。


【接続試験を開始します】


 画面が暗くなる。


 数秒後。


【プレイヤー側接続:正常】


【ゲーム世界側接続:正常】


【双方向観測:準備完了】


 悠真は眉を寄せた。


「双方向観測……」


 その瞬間。


 昨日と同じ景色が現れた。


 自分の部屋。


 机。


 窓。


 椅子。


 ただし。


 今日は自分はいない。


 ゲームの中から見た、誰もいない部屋だった。


 悠真は息を吐いた。


「昨日のは偶然じゃなかったんだ」


 画面が切り替わる。


 研究施設。


 研究員たちが映っている。


 今度は、向こう側の声も聞こえた。


「接続確認」


「映像は安定しています」


「YUMA側からの観測も確認」


 悠真は黙って聞いていた。


 研究員たちは。


 こちらが聞いているとは思っていないらしい。


「プレイヤー側の認識状態は?」


「問題ありません」


「ゲーム世界側の認識は?」


「NPCの一部に反応があります」


 悠真は画面を見た。


「NPCも?」


 研究員の声が続く。


「ただし、すべてのNPCが同じ反応を示すわけではありません」


「個体差か」


「はい」


 その言葉を聞いて。


 悠真は昨日の整備工を思い出した。


 あの人なら。


 この現象を見ても、たぶん「分からん」と言う。


 研究員が続ける。


「もう一つ問題があります」


「何だ?」


「接続条件です」


 画面に数値が並ぶ。


【プレイヤー接続時間】


【プレイヤー行動履歴】


【同期イベント参加回数】


【NPC接触回数】


【世界観測時間】


 そして。


【総合接続適合率】


 悠真の名前の横に。


【98.7%】


 という数字が出た。


「……」


 悠真は言葉を失った。


「高すぎます」


「他のプレイヤーは?」


「最高でも64.2%です」


「理由は?」


「まだ特定できていません」


「YUMAだけ突出している?」


「はい」


 悠真は画面を見つめた。


 強さのランキングなら分かる。


 長く遊んでいる。


 戦闘経験が多い。


 世界ボスにも参加している。


 PVPもしている。


 NPCとも話している。


 だから。


 戦闘データが多い。


 でも。


 接続適合率という数字は。


 初めて見た。


「僕が強いから?」


 悠真が呟く。


 答えはない。


 研究員たちも、まだ分かっていなかった。


 画面が変わる。


【仮説】


【長期プレイによる世界情報との高密度接触】


【多様なゲームシステムへの参加】


【NPCとの継続的な相互作用】


【接続経験の蓄積】


 悠真はその文字を見た。


 つまり。


 特別な能力があるわけではない。


 長く遊んで。


 いろいろなことをして。


 失敗して。


 また遊んで。


 世界の中にいる時間が長かった。


 それだけなのかもしれない。


 研究員が言った。


「この条件なら、次の実験に進めます」


 責任者が尋ねる。


「次は?」


「安定した双方向接続です」


「物理接続ではないな?」


「まだです」


「よし」


 そこで通信が終了した。


 ゲーム画面が戻る。


 悠真はしばらく動かなかった。


 その時。


 整備工場からメッセージが届いた。


【工場の整備が終わりました】


【確認に来ますか?】


 悠真は少し笑った。


「行こう」


 街へ向かう。


 整備工はいつもの場所にいた。


「おう」


「こんにちは」


「昨日の空のことか?」


「ううん」


「そうか」


「でも、ちょっと変なことがあった」


「何だ?」


 悠真は少し迷った。


「僕たちの世界から、向こうの世界が見えるみたい」


 整備工は黙った。


「そうか」


「驚かないの?」


「驚いてる」


「そうは見えないけど」


「機械を直してる時も、驚いてるぞ」


「分からないよ、それ」


 二人は笑った。


 整備工は工具を置く。


「向こうから見えるなら」


「うん」


「向こうにも、向こうの生活があるんだろうな」


「そう思う」


「なら、俺たちも同じだ」


 悠真は頷いた。


 その言葉を聞きながら。


 悠真はまだ知らなかった。


 昨日の接続試験によって。


 運営側では、新しい研究が始まっていた。


【逆方向接続】


【安定対象:YUMA】


【接続率:98.7%】


【次段階:長時間接続試験】


 そして。


 その研究の目的は。


 単に「見る」ことではなく。


 やがて。


 互いの世界を、より長く繋ぐことへ変わり始めていた。

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