↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
《ゲームの向こうにいる君へ》 ――世界で一番強い小学生と、ゲームの中に生きる友達の話――  作者: 亀


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/330

第二十八章 見たい人、見たくない人

 木曜日。


 《クロスギア》のロビーには、いつもより多くのメッセージが流れていた。


【ワールドリンク第二段階】


【公開実験を開始します】


 参加は任意。


 そう書かれていた。


 悠真は告知を読んだ。


 実験の内容は単純だった。


 一定時間、ゲーム世界と現実世界の映像を相互に接続する。


 プレイヤーはゲーム世界から現実側の映像を見ることができる。


 現実側の人間も、ゲーム世界の一部を見ることができる。


 ただし。


 物理的な干渉は発生しない。


「見るだけか」


 悠真は呟いた。


 チャットでは、すでに意見が分かれていた。


『参加する』


『絶対見る』


『怖いからやめとく』


『何が出てくるか分からないぞ』


『でも、最初で最後かもしれない』


『俺は見たい』


『俺は普通に任務やる』


 悠真は少し考えた。


 そして。


 参加を選択した。


【参加登録完了】


【開始まで:10分】


 悠真はその間、普通の任務を一つ受けた。


 今日は砂漠だった。


 敵を倒す。


 アイテムを拾う。


 NPCと話す。


 何も特別なことはない。


 任務が終わる。


【A+】


 悠真はロビーへ戻った。


 残り時間。


【00:12】


 カウントダウンが始まる。


【10】


【9】


【8】


 チャットが急速に流れる。


『来るぞ』


『緊張する』


『本当に現実が見えるの?』


『見えなかったら笑う』


【3】


【2】


【1】


【ワールドリンク開始】


 画面が白くなる。


 そして。


 ロビーが消えた。


 代わりに。


 見たことのない景色が現れた。


 建物。


 道路。


 信号。


 電車。


 人。


 車。


 空。


 ゲームの世界とは違う。


 もっと狭くて。


 もっと雑然としていて。


 もっと静かだった。


 悠真は画面を見つめた。


「これが……」


 現実世界。


 ゲームの中にいる人間たちにとっては。


 初めて見る景色だった。


 同時に。


 現実世界の人間たちも。


 ゲーム世界を見ていた。


 研究施設の巨大モニター。


 そこに街が映る。


 道路。


 工場。


 住宅。


 市場。


 機械生命体。


 研究員の一人が息を呑んだ。


「……動いている」


 誰かが言った。


「本当に、生活している」


 画面の中。


 一人のNPCが店を開ける。


 別のNPCが道路を歩く。


 子どもが走る。


 誰も。


 カメラを意識していない。


 誰かが見ていることを知らない。


 悠真は、その光景を見ながら思った。


 自分たちがゲームを見る時。


 いつもこうだった。


 画面の中に世界がある。


 キャラクターが動く。


 そして。


 自分たちはそれを見る。


 でも。


 今は違う。


 向こう側にも。


 こちらを見ている存在がいる。


 その時。


 ゲーム内の画面が切り替わった。


 現実世界の街。


 悠真はそこに。


 一人の子どもを見つけた。


 ランドセルを背負っている。


 学校から帰っているところだった。


 悠真は少し笑った。


「普通だ」


 隣にいたNPCが聞く。


「何が?」


「向こうも普通に暮らしてる」


「そうか」


「僕たちと同じだよ」


 NPCはしばらく黙っていた。


「……そうだな」


 その言葉には。


 少し複雑な響きがあった。


 そして。


 別の場所では。


 あるNPCが現実世界の軍事施設を見ていた。


「武器が多いな」


 別のNPCは言った。


「俺たちより強いのか?」


「分からない」


「なら、警戒した方がいい」


 また別のNPCは。


 ただ街を見ていた。


「道路が面白いな」


「何が?」


「人があんなに小さい」


 意見はそれぞれだった。


 同じ世界を見ても。


 全員が同じ感想を持つわけではない。


 現実世界でも同じだった。


「すごい」


「怖い」


「面白い」


「気持ち悪い」


「本当に生きているの?」


「ゲームのキャラクターでしょう」


「でも、あの動きは……」


 誰も答えを持っていない。


 実験は十五分続いた。


 その間。


 何も壊れなかった。


 誰も傷つかなかった。


 ただ。


 互いの世界が見えた。


 そして。


【ワールドリンク終了】


 映像が消えた。


 ゲーム世界に戻る。


 ロビー。


 チャットが一気に流れた。


『見えた!』


『現実の街すごかった』


『車ってあんなに速いんだな』


『俺はもういいや』


『なんか思ってたより普通だった』


『向こうにも普通の人がいるんだな』


 悠真は画面を見ていた。


 さっきまで見えていた世界が。


 もう見えない。


 でも。


 存在していたことだけは分かる。


 その夜。


 運営会社では実験結果がまとめられていた。


【双方向映像接続:成功】


【物理干渉:なし】


【通信安定性:91.3%】


【NPC側認識:確認】


【プレイヤー側認識:確認】


 研究員が言った。


「かなり安定しています」


「そうだな」


「これなら次の段階へ進めます」


 責任者は画面を見る。


 そして。


「……次の段階か」


 少しだけ考える。


「慎重に進めよう」


 研究員が頷く。


 その頃。


 悠真は自分の部屋でゲームを終了した。


 画面が暗くなる。


 普通の部屋。


 机。


 教科書。


 ベッド。


 窓。


 何も変わっていない。


 けれど。


 悠真の中では。


 少しだけ何かが変わっていた。


 ゲームの世界の向こうに。


 別の世界がある。


 それはもう。


 想像ではなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。